外国への支援=未来の日本のため!? 外交政策のエキスパートに聞くODA

テレビやSNSで毎日のように目にする“外交"という言葉。
 

どういう意味か、わかる?

簡単に言うと、「日本が国際社会の中で、他の国々とどういう関係を作っていくかを考えて実行する」ということ。
 

何だか大きなテーマなのはわかったけど、「実際、どんなことをしているの?」と素朴な疑問を感じている人も多いはず。
 

そこで、このシリーズでは、普段の生活でなかなか触れることができない「外交」の中身を、わかりやすく紹介。
 

今回は、外務省の国際協力局 政策課の長野俊介さんにお話をうかがった。
 

 

<<目次>>
1.「外交は、恋愛と同じ」と考えるとわかりやすい!?
2.そもそも、ODAって、何だろう?
3.外国を支援することにより、日本が得られるメリットとは?
4.世界の課題を調査し、政策を作ることの醍醐味とは?
5.高校生の皆さんへ

 

「外交は、恋愛と同じ」と考えるとわかりやすい!?

 

そう話す長野さん、いったいどういうことなのだろう?
 

「まず、クラスで好きな子とお付き合いをしたい!と思ったとします。
 

いきなり告白をしても、なんだコイツ!と思われてフラれてしまいますよね。
 

まずは、彼女の趣味や共通点を周りの友達から聞いて、『情報収集』
 
彼女はどんな人なのかを理解して、共通の話題などで友達になります。
 
徐々にステップアップして、ある程度、信頼関係を構築してから『外交工作』!
 
クラスの中で信頼のおける誰かから、彼女に好意をもっていることを伝えてもらうとか、彼女がよろこびそうなものをあげてもいいかもしれないですね。
 
こんなことを積み重ねていけばうまくいくかもしれません。
 
というわけで、外交も『相手のことを良く知りつつ、お互い付き合って良かった!と思える関係にもっていく』という点で、恋愛と一緒だとぼくは思っています。
 
ちなみに、ぼくが高校生の時は、いきなり告白してフラれてばかりでした(笑)」

 

 
なるほど、外交とは相手のことを考えたうえで、自分たちの国にとっても相手の国にとってもWin-Win(自分にも相手にもメリットがある状態)になる方法を追求することなんだ。
 

では、外交とは具体的にどんなことをするのか。
 

そこで、今回はその中でも、“日本の外交政策において最強のカード"ともいわれている【ODA(政府開発援助)】についての話を聞いた。
 

そもそも、ODAって、何だろう?

 

 

政府開発援助(ODA)とは、日本の政府が開発途上国の政府に対して支援を行うこと。
 
ひとくちに支援といっても、資金を提供したり、技術を指導するなど、種類はさまざま。
 

その分野は鉄道や道路、電話やインターネットなどのインフラ(社会基盤)の整備から、テロ対策、難民、感染症、気候変動、教育など幅広い。
 

※日本のODA紹介①草の根・人間の安全保障無償資金協力
カンボジア王国での「地雷除去」協力。年間100人以上もの人が地雷の被害に遭うこの国で、
日本は地雷対策センターを支援。写真は、地雷が処理された地域の小学校の児童たち

 

 

※日本のODA紹介②草の根・人間の安全保障無償資金協力
ドミニカ共和国に供与した日本の中古救急車。老朽化で機能していなかった現地のものに代わり大活躍。
車体側面には日本からの援助であることを示すステッカーがある

 

今から約70年前、第二次世界大戦が終わった直後の日本はとても貧しかった
 

世界の国々からモノや資金の援助を受けていて、実は、あの東海道新幹線や東名高速道路も、海外から借りたお金で造られたんだ。
 

 

海外からの大きな支援もあって、日本は貧しさから立ち直り、経済復興を成し遂げた。
 
「援助を受ける」側から「援助をする」側になり、現在、日本は約150の国・地域に対して開発援助を行い、援助金額の大きさでは一時、世界一となった(現在は第4位)。
 
でも、援助はなぜ必要なのだろう? 外国に援助をすることで、日本に良いことはあるの?と疑問に思う人もいるのでは?

 

「その理由は、ODA(開発途上国に支援をすること)は、まさに途上国と日本の両方にとってメリットになる、日本の外交政策の最強ともいえるツールだからです」

 

と、長野さん。
 

 

「日本の外交には、日本という国が国際社会の平和と安全のために力を尽くしながらも、日本と日本人の利益、いわゆる『国益』を最大化していくことが求められます。
 
外交政策の中で、日本の強みを最大限生かし、途上国だけでなく、日本にもメリットがもたらされるような国際協力ができる。
 
それがODAです」

 
日本の強みとして長野さんが挙げるのは、世界第3位のGDP(国内総生産)の経済力、高い技術力、長い歴史の中で育まれてきた文化など。
 

「でも、重要なのは、開発途上国への一方的な支援をすることではなく、日本にとっても大きなメリットを出していくことなのです」

 

外国を支援することにより、日本が得られるメリットとは?

 
この問いには、「情けは人のためならず」(情けをかけるのは人のためだが、最終的には巡り巡って、自分に戻ってくる)ということわざを使って説明してくれた。
 
これは、一方的な慈善事業で終わりではなく、相手への支援を通じて日本のメリットも見込むということ。
 

※2013年在インド大使館勤務時(ブータン国王陛下への駐ブータン大使夫妻の表敬に長野さんも同席。
ブータン王国には日本の大使館がないため、隣国の在インド大使館が担当している)

 
では、ODAにより、日本はどんなメリットが得られるのだろう?
 
長野さんはインドにある日本国大使館で勤務した経験があり、インドでの事例を挙げて説明してくれた。
 
インドは日本のODAを受けて首都・デリーを中心に地下鉄「デリー・メトロ」を開通。
 
今では全長213kmと、日本の東京メトロをもしのぐ規模の地下鉄ネットワークになった。
 

※デリー・メトロ(写真提供:JICA/船尾修)
日本のODAを受けて首都デリーを中心に開通。ホームには日本式「整列乗車」を促す表示も

 

この支援によって、日本は大きく5つのメリットを得ることができるという。
 

<日本のメリット>
 
1.日本とインドが協力することで、両国の関係が強化される。
 

2.インドの経済が豊かになると、インドの人々が日本の商品を買ってくれるようになる。
 

3.デリー・メトロの車両には、日本企業の車両が採用され、日本の企業の仕事が増える
 

つまり、日本の経済成長にもつながる。
 

4.日本の技術や文化を伝えることができる。
 

5.インドの人々の日本への関心を高めることができる。

 

※デリー・メトロ路線図(写真提供:JICA/船尾修)
日本のODAを受けて開通し、今では日本の東京メトロをもしのぐ規模の地下鉄ネットワークに

 

1つめは、日本がインドに協力することで、両国の関係が深まり、さまざまな分野での更なる協力がうまくいきやすくなるということです。
 

2つめは、地下鉄が開通することで人の行き来が活発になったり、沿線の街が活性化してインドの経済成長に役立ち、経済が発展していく。
 
生活が豊かになり、日本の製品を買ってくれる人が増え、日本の企業の利益に結びつきます
 

3つめは、最新の技術が搭載された車両で、日本の高い技術力をインドの人たちに広く知ってもらうと同時に、日本企業への仕事の依頼につながることです。
 

 

※2013年在インド大使館勤務時
モディ・インド・グジャラート州首相(現インド首相)と、福田元総理が会談した際、通訳として同席

 

4つめは、日本人の指揮の下、工事が進められる中で、最初は、インド人の作業員は業務開始時間になっても集まらなかったそうです。
 
そこで、毎朝決められた時刻に集合し、すぐに仕事を始めることの大切さを教えたことで、インド人の作業員の行動や意識を変えることができ作業効率も格段に上がったりしたそうです。
 
日本の勤労文化のすばらしさを実感してもらった瞬間でもあったと思います。
 

5つめは、日本への関心を高めることになったこと。
 

「デリー・メトロは便利で乗り心地も快適と評判です。
 
駅にも『この地下鉄は日本のODAによって造られました』と表示されています。
 
インドの日常の生活に密着することで日本を好きになり、日本製品を買ってくれたり、日本に旅行に来てくれるインド人も増えるでしょう。
 
このように、日本にとってもさまざまなメリットがあるのです」

 

※2012年在インド大使館勤務時(色のお祭りホーリーの一コマ)
ホーリーとはインド三大祭りのひとつで、一年に一度、春の訪れと共に家に押し入る悪鬼を退治するため、
「ハッピーホーリー」の掛け声と共に色粉や色水を掛け合う行事

 

 

世界の課題を調査し、政策を作ることの醍醐味とは?

 
開発途上国にとっても、そして日本にとっても互いにメリットがあることが、ODAの目指すところという。
 
そのためにいかにODAを戦略的に行うのか、政策の中身を取りまとめるのが長野さんの役割。
 
数年先を見すえて基本方針や進め方を決め、政策の草案をまとめ上げるという重要な職務を担っている。
 

「いろいろな地域やさまざまな分野にまたがる政策が必要なので、外務省内の多くの人と議論を重ねていき、政策の中身を考えていきます」

 
議論するのは、主に次の3点。
 

・今、世界で何が起きていて、重要課題は何か?
・日本が果たすべき役割は?
・日本にどんな支援ができるのか?

 
また、日本として、どのような政策(さまざまな施策の組み合せ)を打ち出したらよいのか提案するため、外務省以外の関係省庁との調整も必要だという。
 

「多くの人とかかわるので、意見調整には苦労もありますが、日本が国際社会でどう行動するのかを考える仕事。
 
世界を舞台にした、スケールの大きい仕事だと感じています」

 

※2014年金融庁勤務(TPP交渉の際、米国の交渉官と会食)

 
2016年のG7伊勢志摩サミットの時でも力を発揮した。
 

例えば、伊勢志摩サミットで先進7カ国の首脳が議論したテーマの一つに難民問題があり、日本が解決策として発表したのは、中東の安定化のために、「2016年から3年間で総額約60億ドル(約6000億円)のODAを行う」という協力。
 
長野さんは、それ以外のさまざまな支援策と合わせた政策パッケージの取りまとめに尽力した。
 

「中東で難民が発生する理由は、社会情勢が安定していないからです。
 
そういう根本原因を取り除くために中東への人道支援の専門家チームの派遣や、難民を受け入れている周辺国への資金援助などを打ち出しました。
 
これ以外にも感染症対策や女性の社会進出支援など、さまざまな政策パッケージをまとめて、総理に発表していただくまで、数カ月かかりましたが、この支援策のことが新聞のトップニュースになったときはうれしかったです。
 
記事を見たときの達成感は忘れられません」

 

高校生の皆さんへ

 
日本のODAを支える政策ブレーンとして活躍する長野さん。
 

国際協力の仕事に興味をもつ高校生へのアドバイスをいただいた。
 

※2011年、米国・イエール大学大学院留学時(学友と共に)

 

「この仕事は世界が相手。
 
異文化のいろいろな人と接するので、好奇心をもつことが大切。
 
そして、高校生の皆さんには、受験勉強以外に何かに全力投球してほしいと思います。
 
私自身をふり返ると、高校時代はハンドボール部に所属し、受験勉強をやりながら部活も頑張りました。
 
それは今でも私の自信になっています。
 
趣味でも恋愛でもいいし、どんなことでもいいんです。
 
何かに一生懸命になり、やりきった経験をもつことは、人間としての引き出しを増やすことになります。
 
また、日本人としての誇りを持つことも、国際協力の仕事ではプラスになります」

 
ますます興味が湧いてきたキミ!
 
これから1年、「スタディサプリ進路」では国際協力の仕事で活躍する人を紹介していく。
 
旬の外交の話題を織り交ぜて、皆さんの生活に密着した話もお届けしよう。
 
部活や勉強の合間に読んでみてほしい!
 

 

(プロフィール)
長野俊介
外務省 国際協力局 政策課 課長補佐
 
2007年に外務省入省。
 

高校時代、日本の平和に貢献できる仕事を志望。警察官になろうと思い、大学は法学部へ進学。
外交官を目指すようになったのは、就職活動での官庁訪問がきっかけ。
外務省の職員から話を聞くなかで、「日本の平和と繁栄のために、自分の持てる力を最大限発揮できる職業」と知り、決心。
 
入省後、在外研修で米国・イエール大学大学院へ2年間留学。
 
その後、2011年から2013年は、在インド日本国大使館に勤務。
 
インドの人口は約12億人と世界第2位。
根強く残るカースト制度により職業を選べない人がいる一方、低い階層からでも頑張って首相にまで昇りつめる人もいるという国。
 
こうした多様性のあるインドの社会に触れたことは、貴重な経験になった。

帰国後、金融庁出向を経て、2015年より現在の業務に携わる。

 

*在インド日本国大使館勤務時代の必需品*

<外交交渉に必要な英語力を支えてくれた電子辞書と健康保険制度がない海外生活の不安を陰で支えてくれた風邪薬>