誰もが基本的な医療を受けられる社会に! 日本が世界をリードする「UHC」 とは?

秋も深まり、寒さを感じる今日この頃。
 
風邪を引いてしまい、早めに治すために病院に行った人もいるのでは?
 
でも、それって日本ではごく当たり前のことだけど、海外では違うんだ。
 
日本には医療保険制度があり、国が医療費の一部を負担してくれるので、
風邪ぐらいだったら、お金のことを気にせずに病院に行ける。
 
でも世界に目を向けると、そういう制度がない国が多く、医療費はすべて自己負担という国も。
 
風邪を引いても、お金のことが心配で病院に行けない人もいる。
 
医師に診てもらえれば治る病気なのに、治療が受けられなくて症状が悪化し、命を落とす人も少なくないんだ。
 
そんな状況を改善しようと、国際社会が力を合わせて取り組むのが「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC=ユー・エイチ・シー)」。
 
いったい、どんな取り組みなんだろう?
 
そこで、外務省国際協力局国際保健政策室でUHCにかかわる業務を担当する吉江翼(よしえ・たすく)さんにお話を聞いた。

世界では毎年約590万人の子どもが5歳になる前に亡くなっている

誰もが基本的な医療を受けられる社会に! 日本が世界をリードする「UHC」 とは?
 

Q.そもそもUHCって?

「UHCとは『すべての人が支払いに困ることなく、自分が必要とする基礎的な保健医療サービスを受けられる状態』のことです。国際社会では、2030年までにすべての国でUHCの達成を目指すという目標を掲げ、推進しています」

Q.UHCの達成が必要とされているのはなぜ?

「世界では毎年、約590万人の子どもが5歳を迎える前に亡くなっています。死因はさまざまですが、風邪や下痢など、医師に診てもらえれば治る病気で命を落とす子どもたちがあとを絶ちません」

 
年間約590万人。
 
3分あたりで約33人が命を落とすという計算になる。
 
高校生活に置き換えると、およそ1クラス分の生徒の命が3分ごとに失われているということに!

「先進国の中にも医療保険制度がなく、医療費の支払いで生活が苦しくなったという事例がみられます。
 
しかし、より深刻なのは途上国です。そもそも病院などの医療施設が整っていない国もあります。
 
病院があっても医療費が高額なので、経済的に豊かな人しか利用できないケースもあります。
 
また一般市民が治療費を払えたとしても家計の負担が大きく、教育費が足りなくなって子どもたちが学校に行けなくなるという問題も出てきているのです」

 
そうした途上国の人が無理なく支払える範囲で基礎的な医療を受けられるよう、UHCの実現を目指すということ。
 
それは、その国が発展していく土台をつくることになるという。

「高校生の皆さんが部活や勉強で頑張れるのは、健康だからなんですよ。
 
途上国でも、誰もが適切な医療を受けられるようになれば、子どもが命を落とすこともなく、成長していけます。
 
途上国の生産活動を行う人材を増やすことにつながるので、国の経済が発展していくことにもなるのです」

 

日本は医療保険制度で世界トップクラスの長寿国に!

誰もが基本的な医療を受けられる社会に! 日本が世界をリードする「UHC」 とは?
UHCの実現で救える命を救い、人々を健康へと導く。
 
この分野で国際社会をリードしているのは、日本なのだそう!

「日本において国民すべてが加入する公的医療保険制度が整備されたのは、1961年。国民皆保険(こくみんかいほけん)制度と呼ばれています。この制度のおかげもあり、日本は世界でもトップクラスの長寿国になりました」

 
ちなみに今から60年前の1957年には、日本でも1年間に6万2678人の乳児(生後1歳未満)が亡くなっていて、1000人に対する死亡率も40.0と高いものだった。
 
それが、2016年には死亡数は1928人、死亡率(対1000人比)も2.0(※)。
 
このデータを見ても、国民皆保険制度ができたことが、日本人の健康増進に結びついたことがわかる。
 
第二次世界大戦が終わった直後の日本は貧しかったけど、国民皆保険制度ができて日本人の健康状態が良くなり、それが戦後の復興と経済発展を支える力になったんだ。

国民皆保険制度によって積み重ねてきた経験と知見。
 
この日本の強みを生かし、UHCを推し進めているのです。
 
例えば、2016年に開催されたG7伊勢志摩サミットでは議長国の日本がUHCを取り上げ、活発な議論が行われました。
 
先進7カ国の首脳が議論するテーマとしてUHCが特に注目されるのは初めてだったんですよ」

 
(※)出典:「平成28年(2016)人口動態統計(確定数)の概況」(厚生労働省)
 

日本はどんな支援をしているのだろう?

いくつかの例を紹介しよう。
 
誰もが基本的な医療を受けられる社会に! 日本が世界をリードする「UHC」 とは?

※日本がエルサルバドルに建設した診療所では、日本からの技術支援を受けてシャーガス病対策の活動も行われている。シャーガス病とは主に中南米でみられる感染症で、感染後、早期に適切な治療を行わないと、死に至ることもある

●保健政策の立案を支援
「途上国の保健政策をつくるための支援をします。国の状況によっては、地域ごとに政策をつくる取り組みが進められています」
●病院や診療所の建設、医療器材の提供
「途上国の人が質の高い医療を受けられるよう、インフラをつくるための支援を行います」
●看護師、助産師などの人材を育成
「出産で命を落とす妊産婦さんが多いことも、途上国が抱える問題のひとつ。その解決には、看護師のほか、助産師が必要です」
●感染症対策への支援
「途上国では、三大感染症(エイズ、結核、マラリア)をはじめ、最近ではエボラ出血熱など国境を越えて猛威を振るう感染症で亡くなる人が多く、対策が求められています。
対策としては緊急支援(資金・人材)、予防接種の支援、有効な薬の開発等があります。薬の開発については日本で開発して提供する場合もありますが、日本人研究者と現地の人が一緒に研究開発を行うこともあります。こうした研究が進めば、日本や世界の人に感染症が広がるリスクが小さくなるというメリットもあります」
●国際機関を通じた協力
「UHCの達成には、国際機関との協力が必要。日本では、WHO(世界保健機関)、ユニセフ、世界銀行、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)などの国際機関を通じ、協力を行っています」

 

世界の人たちの健康改善に貢献できるのが大きなやりがい

 
誰もが基本的な医療を受けられる社会に! 日本が世界をリードする「UHC」 とは?

※スペインでの在外研修中に開発協力の修士課程で中南米、アフリカ、ヨーロッパ各地からの留学生と出会い、大きな刺激を受けた(後列右から4番目)

 

Q.こうした支援を行うなかで、吉江さんはどんな仕事をしているの?

まず、中南米の在エルサルバドル日本大使館に勤務していたときのエピソードを話してくれた。

「保健分野では、医療器材の提供、病院建設、また各地に診療所を建設・整備し、エルサルバドル政府の協力を得て、医師等の医療関係者を派遣するという草の根プロジェクトにも取り組みました。
 
道もなく、携帯電話も通じないような山村に診療所をつくったのですが、現地の人から生まれて初めてきちんとした施設で医師の診察を受けた、と聞かされて驚きました。
 
もうひとつ驚いたのは、山奥の村にも、日本から青年海外協力隊の看護師や助産師がきて、活動していたことです。
 
現地の人に対し、赤ちゃんの健康のために母乳育児指導を行うなど、頑張っていました。
 
日本は診療所を建てるだけではなく、看護師などが技術的な支援もする。
 
現地の人からすごく感謝されました。ときには『日本、ありがとう!』と言って抱きつかれたこともあるんですよ。
 
日本のODAが喜ばれていることを知り、忘れられない思い出です」

 
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※2011年から2014年、在エルサルバドル日本大使館に勤務し、ODA(政府開発援助)を担当。支援を必要としている地方の現場で直接人々の話を聞く機会も多かった

 
外務省本省に勤務する今は、G7、G20などの保健分野の議論に対応したり、吉江さん自身も国際会議に出席してUHC等の国際保健に関する議論に参加している。

「今年9月の国連総会では、日本が中心となって開催したUHC推進のためのサイドイベントの準備にかかわりました。そのイベントでは、安倍総理がリーダーシップをとり、各国際機関の代表者などと共にUHCの重要性を国際社会に訴えました。当日、ニューヨークの国連本部において日本が議論をリードする場に立ち会えて、国際社会の連携を実感できました」

 

高校生の皆さんへ

 

 
そんな吉江さんから、高校生にメッセージをもらった。

「UHCは、日本政府が重点的に取り組んでいる分野です。
 
今年12月には東京でUHCフォーラム2017という国際会議が開かれます。
 
国際機関や各国の首脳、保健大臣、財務大臣などを招き、UHC達成のために、世界でどのように取り組みを進めていくのか、議論が交わされます。
 
ドローンなど先進技術を使って、アクセスが難しい地域に医薬品を届ける活動や、途上国での予防接種や子どもの健康向上など、最前線の活動も紹介される予定です。
 
その様子は、外務省のホームページなどでも紹介されますので、のぞいてみてくださいね」

 
グローバルな視点で世界の人たちの健康を考えるというUHC。興味がわいてきた人は、さらに詳しく調べてみては?
 

(プロフィール)
吉江翼
 
外務省 国際協力局 国際保健政策室 外務事務官
 
高校時代に中南米の国々に興味をもち、大学は外国語学部スペイン語学科へ。4年生のとき、メキシコへ留学。
卒業後、日本国内に在住するスペイン語・ポルトガル語圏出身者向けの新聞・雑誌を発行する出版社へ就職。2年間勤め、外務専門職試験を経て外務省へ入省。
 
国際関係にかかわる仕事をすることは、小学生のときからの夢。
 
たまたま出かけた写真展で、貧しい生活環境に置かれた途上国の子どもの写真を目にし、衝撃を受けたことがきっかけだったという。
 
入省して西欧課に所属。
 
その後、語学研修(スペイン)、在エルサルバドル日本大使館、在メキシコ日本大使館勤務を経て、2016年より現在の業務に携わる。

*お気に入りのグッズ (地図&マグネット)*

誰もが基本的な医療を受けられる社会に! 日本が世界をリードする「UHC」 とは?

「小学生のころから世界地図を見るのが大好きでした。
 
現在愛用の地図は、語学研修先のスペインで購入したものです。
 
仕事やプライベートで海外に出かけるたびに必ず買うのがマグネット。記念になりますよね。
 
普段は自宅の冷蔵庫に貼り付けて眺めています」