スポーツ現場で活躍する管理栄養士になるには?アスリートを支えるプロに聞いた!
「スポーツ選手を支えられる仕事をしたい」または、「食べることが好きだから、それを仕事にしたい」と思っている人に注目してほしいのが、管理栄養士というお仕事。
学校給食や病院食の献立を考えるというイメージが強いかもしれないけど、実は今、スポーツ業界で活躍する管理栄養士が増えている。
そこで、プロ野球球団・千葉ロッテマリーンズで選手たちの食事を大改革し、浅田真央さん、錦織 圭さん、高梨沙羅さんなどの一流選手の食生活を支えた、細野恵美さんに、スポーツを支える管理栄養士を目指したきっかけ、なり方、その魅力を聞いてみた。
また、運動部の高校生たちに食事についてのアドバイスをもらった!
目次
スポーツを支える管理栄養士とは?
スポーツを支える管理栄養士とは、栄養や食事の観点からアスリートをサポートする専門職。
食事は健康な心と身体づくりの基本だからこそ、選手のパフォーマンスを最大限引き出すために、各競技の特性に応じた栄養管理や食事の指導、食事の提供などを行う。
具体的には、アスリートが求める身体づくりをサポートする食事メニューを作成したり、筋力増強や疲労回復といった悩みに対し、栄養や食事の観点からアドバイスを行ったりするほか、アスリートや家族を対象にしたセミナーを開催することもある。
栄養や食事の面からアスリートを支えるこの職業は、スポーツが好きな人にとっては非常にやりがいのある仕事だ。
どんな人と一緒に仕事をする?
監督やコーチ、トレーナーはもちろんのこと、スポーツドクターや理学療法士といった医療関係者とも連携してアスリートの支援にあたる機会も少なくない。
管理栄養士に限らず、アスリートを陰で支える専門家にはチームワークが求められるのだ。
どんな人がスポーツを支える管理栄養士になる?
スポーツを支える管理栄養士を目指すきっかけはさまざまだが、学生時代から「スポーツ分野で働きたい」という想いがある人も。
もともとスポーツが好きな人や、食べることが好きな人も多い。
一方、スポーツとはあまり縁がなかったものの、管理栄養士として働いていて、勤務していた企業の方針などによってスポーツ関わることになった人もいる。
いずれにしても、スポーツを支える管理栄養士になるためには、管理栄養士・栄養士の資格取得を目指そう。
ただし、管理栄養士・栄養士の国家資格を取っただけでは知識やスキルが十分とはいえない。
スポーツに特化した知識や技術が必要になってくるため、スポーツ栄養を学べる専門学校に通って学ぶ人も少なくない。
公認スポーツ栄養士とは?
公認スポーツ栄養士は、公益社団法人日本栄養士会と公益財団法人日本スポーツ協会の共同認定の資格。
公認スポーツ栄養士になるためには、管理栄養士であり、スポーツ栄養指導経験や予定があることなどの条件をクリアした上で、講習会の受講後、検定試験に合格する必要がある。
認定を受けるには最短でも2年半程度かかるため、公認スポーツ栄養士は狭き門。
そのかわり認定されれば、スポーツを支える管理栄養士として十分な知識と技術をもっていることが証明できるので、その後のキャリアの可能性が広がる。
つまり「スポーツ栄養のプロフェッショナル」としてのキャリアアップを目指すなら、公認スポーツ栄養士の取得が有利になる。
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「管理栄養士を目指せる学校を探す」
ではここからは細野恵美さんに実際の仕事内容やきっかけなどを聞いたインタビュー内容を見てみよう!

病院食を食べたことがきっかけで栄養学に興味をもった!
もともと食べることや飲むことが好きだったこともあり、大学卒業後は大手の飲料メーカーに就職した細野恵美さん。
あるとき、仕事で病院の食事を食べてみる機会があったが、その味に愕然として、「こんな味気ない食事ではなく、人の心も身体も元気にするような食事を提案したい」と、栄養学に興味をもつようになったそう。
すると『ずっとスポーツをやってきたんだから、食べることとスポーツをつなげられないの?』と言われ、いろいろ調べたところ、『スポーツ栄養学』という分野があることを知ったんです。
スポーツが大好きだけどアスリートになる才能はない私が、スポーツを仕事にできるなんて、『これだ!』と進むべき道がはっきり見えました」
25歳のとき、会社を退職して、スポーツ栄養学が学べる専門学校に入学。大手企業を辞めるなんて当然、まわりは大反対したのに、細野さんの意志は固かった。
しかし、当時、スポーツ栄養学の知識を生かせる世界は狭き門で、仕事として成り立たせるのは難しいと言われていた前途多難な道。
実際、2年次の秋に就職活動を始めたものの、ほとんどの求人は一般の栄養士。
厳しい現実を思い知らされながらも、「できれば地元の千葉で働きたい。大ファンの千葉ロッテマリーンズで栄養士を募集していないかな」と思っていた細野さんの目の前に、突然、天使が舞い降りてきたという。
あとで冷静に考えてみたらありえない話ですが、興奮してしまった私は、これは神さまが与えてくださったチャンスだと思って、無謀にも話しかけたんです。
『私は今度の春に専門学校を卒業するので、栄養士として雇ってください』。
すると、超ラッキーなことに携帯電話の番号を教えてくれたんです。
その頃、ロッテには栄養士がおらず、監督自身が選手の食事を改善する必要があると感じてくださっていたそうで、本当に運命の出会いでしたね」
その後、教えてもらった携帯に電話をかけたが、忙しい監督はなかなか出てくれず、20回以上も電話をかけて、運良くつながった時は「私にチャンスをください」と何度も頼んだ。
すると、ようやくスタジアムの近くのカフェで会う約束をしてもらえた。
最初はしどろもどろだったが、会うたびに栄養士として自分ができることをくり返しアピール。
数回めに会った時、ついに『オーケー。アシタ、スタジアムニキナサイ』と言われ、雇ってもらえることになったというからスゴイ。
細野さんの熱意が伝わったのだろう。
とはいえ、最初の1年間は臨時スタッフ、つまりアルバイト契約だったので、別の企業の社員食堂で勉強を兼ねて調理補助をしながら、ロッテで選手の栄養管理を始めることになった。
知識を伝えるだけではダメ! 食改革に立ちはだかる壁とは
細野さんの最初の仕事は、春期キャンプで選手の練習を見学すること。まず練習内容を見て、必要な栄養を考えていたのだそう。
※生まれ変わった選手食堂。栄養バランスだけでなく見た目も工夫した
今まで勉強したスポーツ栄養学がまったく通じない世界で、選手の食事は栄養的な考慮がなく、好きな物を好きなだけ食べていたんです。
試合前でも揚げ物が平気で並んでいて、魚や野菜は少なく、栄養バランスもとれそうにない。
こんな食事では力が出せるわけがないと思って、食堂の調理師にメニューを変更することができないか、交渉しました。
最初のうちは、学校を出たばかりの小娘の言うことなど聞いてもらえなくて大変でしたね。
でも、選手の食生活を変えたい一心で、根気強く次々と新しいメニューを提案し続けたんです。
それでも受け入れてもらえませんでしたが、最終的には球団が私の考えを認めて、『細野の言うことが聞けないなら別の会社に変えるよ』と言ってくださったんです。
新しい会社の調理師に変わって、ようやく私が考えたメニューをもとに食事を作ってもらえるようになりました。1年かかりましたけどね」
※サラダ・煮物・鍋料理と、さまざまな調理方法で野菜を食べられるようにした選手の食事の一例
とにかくツライ毎日だったが、1年かけて一歩前に進むことができて、千葉ロッテマリーンズにも正式採用された。
しかし、改善した食事を選手に食べてもらうのにもひと苦労。
試合前に揚げ物はダメだと言っても、『オレは、から揚げを食べても走れるし』と反論されてしまう。
実際、その選手はタイトルを獲得している実績があるから何も言い返せない。
でも、試行錯誤を続けているうちに、自分は教科書そのままのことを伝えるだけで、選手が本当に望んでいるものが見えていなかったことに気づいたんです。
そこで、まずは食べてもらえることを第一に、選手が食事をどう思っているのか、何を食べたいのかを聞き出し、よろこんでもらえるメニューを考えました」
少しずつ選手の信頼を得て、感謝されるように!
細野さん自身で研究して、野菜の切り方、盛り付け方、彩りなども選手食堂の調理師に細かく指示したという。
さらに「疲労回復にはこれを食べましょう」「筋力アップに効果的な食べ物」といった栄養についてのワンポイントアドバイスを書いたポスターを作って貼り出したり、少しずつ選手に話しかけるようにしたところ、次第に細野さんの存在が認められるようになっていったそう。
もっと体重を増やしたい選手、逆に身体をしぼりたい選手、ケガの不安を抱えている選手など、一人ひとり悩みや要望が違います。
それにこたえるための最適な食事を考え、資料を作って渡し、実際に練習や試合を見て、選手のパフォーマンスを確認していました」
遠征先へも一緒に行って、選手が泊まるホテルでどういう食事が出されているかをチェックしたり、調理師にメニューの指示をしたり、二軍の選手の食事も見ていたので、実に総勢65名!
とにかく忙しすぎる日々だったそう。
そこまでして頑張ることができた管理栄養士の仕事のやりがいは何だったのだろう?
もちろん、それは監督や選手の力で勝ち取ったものですが、そこにわずかながらでもかかわることができたよろこび。
選手の引退セレモニーではベンチに入れてもらって、そこからスタンドの大観衆を見た瞬間、『こんなにたくさんのファンに声援されるようなスゴイ世界に携わっているなんて幸せものだな』と感動しましたね。
選手に『細野さんのおかげで、ちゃんと食べることの大切さがわかりました』と言ってもらえたときもうれしかったです」
※細野恵美さんと千葉ロッテマリーンズのバレンタイン監督
細野さんの場合は、栄養士を志したときに25歳を過ぎていて、少しでも早く社会に出たいという思いから2年制の専門学校で栄養士の資格を取得。
実務経験を経て、さらに仕事の幅を広げるために管理栄養士の国家試験を受けた。
つけてくれたあだ名は『ホッピーノ』 浅田真央選手には、お弁当を作ってサポート!
ロッテの2度めの日本一を見届けてから、他の競技も勉強してみたいと考えて、森永製菓株式会社ウイダートレーニングラボに入社。
浅田真央選手のサポートプロジェクトのメンバーに選ばれたが、最初のうちは名前すら覚えてもらえず、「お姉さん」と言われていたそう。
トレーナーから浅田さんが抱えている問題を聞いていたから、早くお手伝いしたい気持ちはあったけど、栄養の話を本人とするまでに2~3カ月かかりましたね。
和菓子とかおみやげを持って何回も会いに行って、話題をつくるようにしたんです。
あるとき、ニックネームをつけてほしいと頼み、細野の名字をもじって『ホッピーノ』と呼んでもらうようになって少し距離が縮まりました」
※楽しんで食べられるように工夫されたお弁当
体重コントロールに悩む浅田選手に食事のアドバイスをするだけでなく、ゆっくり安心して食事を楽しんでもらいたくて、お弁当を作って持って行ったそう。
※実際に浅田真央選手に提供されたお弁当①
※実際に浅田真央選手に提供されたお弁当②
選手の食事作りに責任をもつため、調理師の免許も取得
浅田選手の次に担当したのは錦織 圭選手。
アメリカのフロリダが活動拠点になっていたので、なかなか会うことができず、食事の写真をメールで送ってもらい、それをチェックしてアドバイスをしていた。
あとは『頑張ってね』『試合見たよ』と、ひたすらメール。
それが1年くらい続いたころ、錦織選手から『試合を見に来てほしい』と連絡をもらった時は、『ヨッシャー!』とガッツポーズ!
まいた種が実になった気分でしたね」
錦織選手が滞在するフロリダへ行き、トレーナーと相談しながら食事のメニューを考えて、一日3食を細野さんが作った。2週間ほど滞在した後、帰国して、また呼ばれたら渡米したり、試合が行われるヨーロッパへ行ったことも。
その後、高梨沙羅選手の担当になり、合宿に同行して食事を作ることが増えたため、調理師の免許を取得した。
※細野さんが実際に高梨沙羅選手に作った食事
日々勉強だという細野さん。アスリートの努力を間近で見て、「こんなに頑張っているんだから、私はもっと頑張らないといけない」と励まされ、刺激を受けているのだそう。
運動直後の糖質とたんぱく質の補給がポイント
選手のトレーニングを支えて、その苦労を近くで見ているからこそ、勝利の瞬間は何にも代えられないほどの感動があるのだという。
食事だけが勝利の要因ではないから、仕事の成果が明確に見えるわけではないけれど、その感動を分かち合えることが大きなやりがいになるという細野さん。
―運動部の高校生たちに食事についてスポーツを支える管理栄養士としてアドバイスをするとしたら?
早ければ早いに越したことはないので、クールダウン前でもいいですね。糖質とたんぱく質をとること。
糖質を多く含む食品は、ごはん、うどん、もち、スパゲッティ、食パン、じゃがいも、バナナなど。
例えば、おにぎりなら梅干しよりも鮭のほうが少しだけどたんぱく質が含まれています。
ツナマヨネーズのおにぎりだと、ツナはたんぱく質ですが、マヨネーズに脂質が含まれているので、鮭のほうがいいですね。
運動直後は脂質を避けたいので、から揚げなども時間が経ってから夕食などに。
ゼリータイプの栄養補助食品もオススメ。
たとえば同じゼリー飲料でも、運動直後と運動して2時間後では回復具合が違ってきてしまいます。
運動ホルモンがたくさん分泌されているタイミングでしっかり補給することが大事なんです。
何を食べるか、だけでなく、食べるタイミングも考えてみてくださいね」
運動のパフォーマンスを上げるために、食事は大切なキーワード。
みんなも自分の食事の内容と時間を見直してみよう。
森永製菓株式会社 ウイダートレーニングラボ所属。管理栄養士・調理師。千葉ロッテマリーンズ、浅田真央選手、錦織 圭選手らトップアスリートを栄養面でサポート。現在は高梨沙羅選手を担当し、遠征にも同行しながら世界中を飛び回っている。
著書に『一流アスリートの食事』(三五館)、『賢く食べて結果を出す! スポめし』(朝日新聞出版)がある。
文/やまだみちこ、PlanB(2023年2月一部加筆)、監修/公益社団法人日本栄養士会
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