外交の最前線で働く! 世界各国にある「日本大使館」の仕事とは?
「外交官」と聞いて何を思い浮かべる?
「いろいろな国に駐在して活躍する」っていうイメージ?
実際、多くの外交官が海外で勤務し、ほとんどが「在外公館」と呼ばれるところに勤めている。
在外公館とは、日本が外国との外交を行う拠点になるところ。
大使館、総領事館、政府代表部の3種類があり、全部ひっくるめて在外公館と呼んでいる。
今、世界の約220カ所に在外公館があり、なかでも各国の首都に置かれ、重要な役目をもつのが大使館。
では、大使館で働く人は、いったいどんな仕事をしているんだろう?
そこで、日本の大使館の仕事をリアルに知る若手外交官に聞いてみた!
お話をうかがったのは、外務省 中南米局 南米課の木下遼さん。
外務省職員として中米のニカラグアとエルサルバドルの2つの国に赴任し、それぞれの大使館に勤めた経験がある。
1.日本の大使館ってどんなところ?
2.日本の開発協力を進めるために、現地のさまざまな人と話し合う
3.途上国の地域を支援する「草の根無償」のプロジェクトとは?
4.学校などが完成し、地域の人が喜ぶ場面に立ち会えるのがやりがい
5.「9.11」(アメリカ同時多発テロ事件)に衝撃を受け、国際社会に興味をもった
6.高校生の皆さんへ
日本の大使館ってどんなところ?
日本大使館の活動例には大きく次の6つがある。
●その国の政治・経済などの情報を集め、分析する。
●その国の発展を支援するために開発協力を行う。
●日本を知ってもらうための文化交流を企画したり、広報活動をする。
●その国の人が日本へ行くとき、必要な査証(ビザ)を発給する。
●事件や自然災害が発生したとき、観光や留学、仕事でその国にいる日本人の安否確認をしたり、被害にあった人を助けるための活動を行う。
木下さんはどんな仕事をしていたの?
日本の開発協力を進めるために、現地のさまざまな人と話し合う
開発協力とは、開発途上国が発展するための支援をすること。
その海外支部が大使館。本部が決めた方針に沿って、海外支部である大使館は現地で開発協力の事業を進めるのです。
また、本部がその国に対してどんな支援をするのか、方針を決めるための情報を提供するのも大使館の役割です」
東京の外務省への報告書をつくったり、開発協力の計画書づくりなど、デスクワークも多いけど、「現地でたくさんの人と会って話し合い、調整するのが主な仕事です」と、木下さん。
現地で会うのは、例えばこのような立場の人たちだ。
「現地でどんな支援が必要なのかを知るために、政府の関係部署の人に会い、意見交換をします」
「相手国の役に立つ支援をするには、現地の一般市民の暮らしを見たり、話を聞くことが大切。携帯電話も通じないような地方の村にも行きましたよ」
「JICAは、東京の外務省が決めた方針の下で、途上国に専門家を派遣したり、現地の人に技術を教えるといった支援を行います。そうした役割をもつJICAと連携して、開発協力に取り組みました」
※開発協力の現場は、車でのアクセスが所要時間も含め難しい場所もあり、政府側手配で現地までヘリコプターでの移動もあった。「中米では2回ヘリコプターに乗りましたが、高所恐怖症のため、窓が全開のヘリコプターは恐怖でした」
途上国の地域を支援する「草の根無償」のプロジェクトとは?
木下さんは、どんな開発協力にかかわっていたの?
「道路などインフラ(社会基盤)をつくるプロジェクトにもかかわりましたが、重点的に取り組んでいたのは『草の根・人間の安全保障無償資金協力』というプロジェクトです(以下、草の根無償)。
途上国では都市と地方の貧富の差が大きく、その差をなくすことが、国全体の発展に必要とされています。
そのような地方も含め、草の根レベルの地域住民の生活向上等を目的に、日本政府が行っている支援が草の根無償です」
エルサルバドルで草の根プロジェクトとして取り組んでいたのは、主に次の4つの分野。
「地方には学校がないか、あっても校舎は古くてボロボロです。竹などを柱にして、トタン屋根をかぶせただけという校舎も見ました。
エルサルバドルは熱帯気候の国で、そのような校舎では、夏は熱がこもりとても暑いし、雨季の雨が激しいときは雨漏りがしたり、建物が壊れる危険もあり、生徒たちが安心して勉強に集中できる環境ではありません。
そこで、日本が支援して校舎をつくりました。また、校舎の増築の際には教員も必要なので、エルサルバドル政府の教育省の人に協力をよびかけることもしました」
「水道の設備がない地方も多く、人々は川の水や、雨水をためて使用し、飲み水は近隣の町から購入しています。川の水などは飲み水として安全ではなく、人々の健康や命にもかかわってきます。
また、川まで歩いて水を汲みにいくのは主に子どもたちですが、2~3時間かかる場合もあって、学校へ行けなくなることも少なくありません。
そこでいつでも安全な水が飲めるよう、水道の設備をつくる資金と資材の提供や、設備の維持・管理の方法を指導するといった支援を行いました」
「地方では診療所や保健所がなく、民家を借りて診療しているところがあります。医療施設ではないから設備がなく、建物も古く、大勢の患者さんがきても対応できませんでした。そこで、地域住民が安心して医療を受けられるよう、診療所や保健所をつくりました。
また、地域も含め医療に携わる人材を増やすために、JICAによって看護師などの育成支援も続けられています」
「エルサルバドルでは、マラスと呼ばれる青少年凶悪犯罪集団による犯罪が深刻な問題になっています。
そのような中、治安を改善するために、草の根プロジェクトでは地域に交番をつくるという支援をしています。
目指しているのは、日本各地にある交番のように、犯罪をただ取り締まるだけではなく、何かあったときに地域住民が相談できて、犯罪の予防ができる場になること。
そのためのノウハウを伝える技術支援もJICAを通じて行っています」
※日本の支援で建設された交番。裏手には子供たちが遊べる公園もあり、地域住民が安心して暮らせるまちづくりの協力をしている。名前も『KOBAN』と記されている。
学校などが完成し、地域の人が喜ぶ場面に立ち会えるのがやりがい
開発協力の仕事で大変だったことは?
でも、『自分は日本の考え方だけを一方的に話していたのかも…』と気づいたのです。
相手の意見を受け入れ、理解を示しながらコミュニケーションをとるように心がけるようになってからは、意見調整がうまくいくことが増えたように思います」
やりがいを感じたのはどんなとき?
こうした場面に接するたびにうれしいですし、開発協力は日本の信頼を高めることにつながると感じました。
学校ができれば、子どもたちが『勉強して、将来はこんな職業に就きたい』と夢をもてるし、目標に向かって頑張っていけると思います。
私たちの支援はその最初の一歩にすぎないかもしれませんが、現地の人たちが笑顔でよろこんでくれたことは忘れられません」
※今の職場の出張で行ったベネズエラの首都カラカスの景色。「百聞は一見にしかずで、さまざまな場所に実際に訪問することは、その後の仕事の方針等を検討するなかで非常に参考になります」
「9.11」(アメリカ同時多発テロ事件)に衝撃を受け、国際社会に興味をもった
そんな木下さんの高校時代の夢は、「外交官を含め国際関係に携わる仕事をすること」。
アメリカ同時多発テロ事件(2001年9月11日)のニュース映像を見て衝撃を受け、事件の背景や国際社会について興味をもつようになったという。
高校が私立でドイツ語の授業を選択していたことから「国際社会の中の第二次世界大戦後のドイツの歩み」に関心をもち、大学はドイツ語学科へ進学。
語学学校でいろいろな国からの留学生と交流できて、楽しかったですよ。
そんな留学生活のなかで自分は日本人だと実感することが多く、日本政府という立場で海外とつながりたい。国際関係に携わりたいと考えるようになったんです。
そうして、大学卒業後に外務省へ入りました」
高校生の皆さんへ
国際協力の仕事に興味をもつ高校生に、メッセージをもらった。
ユニセフやWHO(世界保健機関)といった国際機関やNGO。
そして、社会貢献のひとつとして国際協力に力を入れている企業も増えています。
まずはどこでどんな国際協力を行っているのか、インターネットなどで調べてみるといいと思います。
高校生にはさまざまな可能性があるので、今からひとつだけに絞る必要はなく、大学などに進学してからでも遅くはありません。
じっくり時間をかけてやりたいことをみつけてくださいね」
将来の進路に迷っている人は、ヒントにしてみては?
木下遼
外務省中南米局南米課 外務事務官
2009年に外務省入省。
国際協力局緊急・人道支援課で働いたのち、2010年6月から在外研修でスペインへ留学。
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※スペイン研修2年めのマドリッドでのマスターの同級生たちと。「国際協力について学ぶコースで、スペインに限らず中南米やさまざまな国の人も参加しており、国際協力の視点を考えるうえで刺激になりました」
2012年7月から2年間、在ニカラグア日本国大使館で現地の情報収集や査証の発給などいろいろな業務を経験。
その後、在エルサルバドル日本国大使館勤務を経て、2016年8月より現在の業務に携わる。スペイン語地域班としてコロンビアとベネズエラの2国を担当し、それぞれの二国間関係に関わる業務に取り組んでいる。
※ニカラグア勤務時代には、着任直後に日本と中米の会議が行われ、ニカラグア大統領が参加者とあいさつする一幕があった
日本のJポップをいっぱい入れていて、毎日聴いていました。
特に気持ちを上げてくれたのが、Mr.Childrenの歌です。
海外で聴くと、歌詞が一層胸にしみてくるんですよ。
ミスチルは子どものときから大好き。
これからも私を支えてくれるアーティストであり続けるでしょう」