途上国のNGOに直接支援を届ける! 日本が行う「草の根」の支援とは?
「毎日寒い!」「学校に行くのが億劫だな」とか思ってない?
でも、ちょっと広い視点で見てみると、世界には学校に行きたくても行けない人もいるんだ。
近くに学校がなくて片道3時間かけて通ったり、あっても屋根がなくて雨や風がしのげない、青空教室だったりする。
もちろん、学校のことだけじゃない。
水道の設備がないからきれいな水が飲めなくてお腹を壊したり、病院がないからちゃんとした治療を受けられない…。
日本では当たり前のことが、当たり前になっていない国や地域が世界にはたくさんある。
そんな地域に住む人の生活向上を目的に、日本が取り組む国際協力がある。
「草の根・人間の安全保障無償資金協力」(通称:草の根無償)という支援。
なんだか難しそうだけど、途上国で困っている人たちを助ける制度なんだ。
いったいどんな支援なんだろう?
そこで、外務省 国際協力局 開発協力総括課 で「草の根無償」を担当する中島英登(なかじま・ひでと)さんにお話を伺った。
1.「草の根無償」ってどんな制度?
2.制度が誕生して今年で30周年、141カ国・1地域を支援
3.草の根無償はどのように支援をするの?
4.どんな事例があるの?
5.プロジェクトが実現するまでの外務省の役割は?
6.高校生の皆さんへ
「草の根無償」ってどんな制度?
日本政府は開発途上国の発展を手助けするために、さまざまな援助を行っている。これらの援助をODA(政府開発援助)という。
ODAの方法のひとつが「草の根・人間の安全保障無償資金協力」(通称:「草の根無償」)。
▼ODAのなかの「草の根無償」について
名前は長いけど、ざっくり言うと、“無償(お金を返してもらわなくていい)"で資金を援助すること。
つまり、途上国の人の暮らしを支えるのに必要な病院や学校などの施設をつくったり、建物をつくるときに必要な資材や設備を買うためのお金を渡すという協力だ。
さらに草の根無償は大きな特色がある。
でも草の根無償は、お金を渡す相手は政府ではありません。
現地の地域に根を張ったNGOや市民団体など、草の根で活動している非営利団体に直接渡すんですよ」
このほか、お金を渡す相手は地方公共団体、小学校などの教育機関、病院などの医療機関。
生活用水を確保するための井戸を掘る団体、小学校の環境向上の活動をしている団体など、自分たちが住む地域をよくしようと志をもって活動している団体も増えています。
途上国のそうした地域密着の活動を支援する制度です」
制度が誕生して今年で30周年、141カ国・1地域を支援
草の根無償の制度が誕生したのは1989年。
この制度は、なぜできたんだろう?
しかし、日本からの援助にも限りがあり、その国のすべての開発事業にお金を回すことはできません。
そうなると、途上国の政府にとって優先度の高い事業から実施されるので、支援が行き届かない地域があったのです。
そんな問題を解決しようと創設されたのが草の根無償です。
この制度が始まり、発展から取り残されていた地方の山村まで日本の支援がより行き渡るようになりました」
制度が始まった1989年は、世界32カ国で95件のプロジェクトを支援。
2018年で30周年になり、現在は世界141カ国・1地域に支援を行っている。
プロジェクトの件数は平均して年に1000件前後。
つまり、世界の途上国のほとんどを支援しているんだ。
草の根無償はどのように支援をするの?
大きく2つの特徴がある。
▼無償資金協力のなかの「草の根無償」について
●期間:素早く援助できる
道路や鉄道といったインフラ(社会基盤)の整備など、途上国の国づくりを支援する協力なので巨額になるのです。
でも、草の根無償で援助する金額は原則1000万円以下。
一般的な感覚では大きい金額ですが、国際協力の分野では小規模とされています」
金額が小規模な分、世界各地に素早く資金援助ができる。
というのも、億単位以上の資金援助をするには複雑な手続きが必要になる。
そのため、相手国が開発プロジェクトに取りかかるまで3年くらいかかる例もあるという。
でも、この草の根無償は、手続きが1年くらいと短期間で済む。
●内容:「人が生きていくのに必要なもの」を支援
主に保健、医療、基礎教育、衛生の分野。地域によっては、農業振興や防災といった分野の支援も行います」
どんな事例があるの?
この支援が現地の人の暮らしにどう役立っているのか、事例を紹介しよう。
▼屋外の校舎をプレハブに変えた(2015年度)
◇国(地域):イラン(フーゼスタン州)
遊牧民が暮らす集落では学校の校舎がなく、児童たちは屋外やテントを張った中で授業を受けていた。
・支援後
プレハブの校舎ができ、雨が降っても室内で安全に授業を受けられるようになった。
※1日でも早くかつ頑丈につくるためにプレハブ校舎を支援。雨風の中でも安全に授業が受けられるようになった
▼産科病棟が改善された(2014年度)
◇国(地域):ケニア(ボメット郡ソティック県)
診療所の産科病棟は出産のスペースが狭く、医療機器も不足。衛生環境が悪くて感染症などのリスクがある自宅で出産するしかなかった。
・支援後
建物が改築されてスペースが広くなり、医療機器がそろい、安心して出産できるようになった。
※資金不足により中断していた産科病棟を改築。整った環境のなかで出産ができるようになった
※衛生的な環境で、安心して出産できるようになった
▼手押しポンプ式の井戸ができた(2016年度)
◇国(地域):コンゴ民主共和国(マルク区)
住民は不衛生な川の水を飲んでいたため、感染症にかかりやすくなっていた。
また、この国では水汲みは女性や子どもの仕事。何キロも歩いて水汲みに行かなければならず、学校に行けない子どももいた。
・支援後
手押しポンプ式の井戸ができ、安全な水を飲めるように。女性や子どもが水汲みに使う時間も減り、子どもが学校に行けるようになった。
※安全な水を飲めるようになったとよろこんでいる様子
このほか、児童図書館をつくる、水道の設備をつくる、ゴミ処理施設をつくるなど、さまざまな支援が行われている。
これらは現地の人によろこばれ、日本という国を知ってもらう大きなきっかけになるという。
特に地方は電気が通じていなかったり、インターネットもない地域が多く、日本の情報はなかなか入ってこないのです。
そんななか、学校や病院などが日本の援助でつくられることで、『日本は支援の手を差し伸べてくれる信頼できる国』と知ってもらえます。
草の根無償は、日本という国の存在感を示すことにも貢献しています」
プロジェクトが実現するまでの外務省の役割は?
プロジェクトが実現するまでの流れのなかで説明しよう。
●申請の受け付け:
途上国のNGOなどの人たちが日本政府へ支援を申請する。
大使館はその窓口となり、申請を受け付ける。
●申請内容のチェック:
内容を確認し、現地調査を行う。
その支援が現地の人に本当に役に立つのかどうか、地域の様子をみたり、住民から話を聞きます」
その後、調査した内容について東京の外務省へ相談や報告を行う。
●最終審査:
東京で働く外務省の人たちが、申請内容の審査を行う。
最終審査を行い、決定するのは、外務省の国際協力局 開発協力総括課。
中島さんが働いているところだ。
現在、途上国への開発協力制度の整備に携わる中島さん。
12年前に南アフリカの日本大使館へ赴任し、草の根無償のプロジェクトにかかわった経験がある。
担当したなかには、エイズの治療センターをつくるというプロジェクトがあった。
大勢の人が命を落とし、エイズで親を亡くして孤児になる子どもも少なくありません。
産業が何もない貧しい村も多く、病院もなく、治療の手だてがない…。
現地の村に行って深刻な状態を目のあたりにし、なんとかしなければいけないと思いました」
※当時のボツワナは、在南アフリカ日本国大使館の管轄。現在はボツワナにも日本大使館がある
高校生の皆さんへ
でも、百聞は一見にしかず。
ぜひ、現地へ行ってほしいです。自分の目で見ることで、途上国の現状や問題が実感としてわかってくるでしょう。
そこから新しい興味が湧いてきて、学校の勉強にもプラスになると思います。
今すぐは難しくても、大学などに進学してから夏休みを利用し、世界の小さな村まで訪ねてみてくださいね」
※外務省に入って3年目に在外研修でイギリスへ留学。写真は同じ大学の仲間と一緒にピクニックに出かけたときの1枚
国際協力に興味がある人は、チャレンジしてみては!
中島英登
外務省国際協力局 開発協力総括課 首席事務官
国際関係の仕事に興味をもったのは、小学生のとき。
父親の仕事の関係で住んでいたアメリカでサミットが開催されたが、サミットに出席する日本の首脳が誰なのか、クラスメイトのなかで知っている人がいなかった。
「日本は存在感がないのかな。それなら、自分が日本のことをもっと勉強してから、外国に知らせていこう」と感じ、日本のためになる仕事をしようと思った。
大学(法学部)卒業後、2002年に外務省へ入省。
2004年7月から2年間イギリスへ留学。
2006年7月から在南アフリカ共和国日本国大使館で勤務。
2008年4月に帰国。中東アフリカ局アフリカ第二課兼TICAD Ⅳ(第4回アフリカ開発会議)事務局、北米局北米第二課、中東アフリカ局中東第一課などを経て、2016年1月より現在の業務。
※留学先の大学の卒業式にて、指導教官の先生と一緒に
*思い出のパソコン&南アフリカ赴任の際に取得したイエローカード*
当時最先端の機種で、南アフリカ勤務を終えるまでこのパソコンを使っていました。
使わなくなって10年たちますが、海外生活中は、留学中の論文執筆をはじめ、連絡手段や情報収集のためにも欠かせないものでした。そのため、捨てられずにいます。
イエローカードとは、WHO(世界保健機関)が定めた黄熱病の予防接種証明証のこと。
これがないと、入国できない国があります。
例えば、感染のリスクのある国から南アフリカへ入国するときは、イエローカードが必須なのです。
まだまだ衛生面での整備が必要な国があることを実感します」