途上国から理系の学生がやってくる!ODAで取り組む「留学生受け入れ」支援とは?
最近、コンビニやファミレスで外国人の店員さんを見かけることが増えてない?
実は、みんなと同じ10代で、外国から来た留学生がバイトしていることも多いみたいなんだ。
調べてみたら、ここ数年で外国人の留学生が大きく増えていることがわかった!
日本で学ぶ外国人留学生の数は26万人強(2017年5月1日現在)。
2013年は16万人強だったから、4年間で約10万人も増えたことになる(※1)。
ちなみに、日本人の18歳人口は約120万人(※2)。
日本が今、世界の学生から留学先として注目されているんだ。
そのなかで、日本政府が奨学金を提供して外国人が日本の大学などに留学することを支援する制度があった。
いったいどんな支援をしているんだろう?
それと、何で支援をしているの?
そこで、外務省 国際協力局 政策課の佐藤崇子さんにお話をうかがった。
1.ODAでも留学生の受け入れ制度があるの?
2.ITやAIを専攻するアジアの学生が日本に来る!
3.留学生が来ると、高校生にどんなメリットがあるの?
4.留学生の受け入れは、さまざまな人・機関との連携が必要
5.インドの留学説明会での忘れられないエピソード
6.高校生の皆さんへ
ODAでも留学生の受け入れ制度があるの?
佐藤さんが働いているのは、開発途上国の発展を主な目的とする、ODA(政府開発援助)の政策にかかわるところ。
よく知られているのは道路や鉄道、水道設備、病院や学校の設立など、インフラ(経済や福祉の発展を支えるための社会基盤)をつくる援助でしょうか。
途上国の持続的な発展につなげるには、さらに、こうした施設や機材を管理し、運営できる人も必要です。
ODAでは途上国で望まれている技術や日本の制度を学ぶ人材を育てる支援を行っています。
これは途上国自身が自立して発展していくことに貢献する、日本ならではの援助で、誇れる伝統であり強みです」
そんな人材育成支援のひとつが、留学生受け入れ事業。
外国人に「日本で学ぶ機会を提供する」事業は外務省だけではなく、他の省庁でも取り組んでいる。
そのなかには、大学・大学院での教育に加え、企業や省庁などでのインターンシップ(就業体験)や視察の機会を提供するプログラムもある。
さらに佐藤さんはこんな解説をしてくれた。
これは、『情けをかけるのは人のためだが、最終的には巡り巡って、自分に戻ってくる』という意味です。
もう、このシリーズの読者ならODAにはそのような期待や効果があることはご存じですね。
これはODAの留学生受け入れ事業にも当てはまり、途上国の発展を進める人材づくりに貢献するだけではなく、日本のためにもなるのです」
ITやAIを専攻するアジアの学生が日本に来る!
※インドで行われた『イノベーティブ・アジア』事業の説明会の様子。事業内容の説明に熱心に耳を傾けるインド人学生
では、外務省ではODAでどのような留学生受け入れ事業を行っているんだろう?
最近の例を佐藤さんから教えてもらった。
例えばこのような事業だ。
毎年、アジアとアフリカの約10カ国から計200人以上の若手行政官が来日し、日本の大学院等で専門的に学ぶ。
アフリカの人材に大学院修士課程の留学と、日本企業でのインターンシップの体験を提供。
日本企業がアフリカで経済活動を進める際に、この事業で学んだ卒業生と協力しているケースが報告されているという。
さらに新しい取り組みとして、昨年から『イノベーティブ・アジア』という事業が始まりました。私もこの制度づくりにかかわっています」
この『イノベーティブ・アジア』事業には次の2つの特色がある。
留学生として受け入れるのは、情報技術(IT)、人工知能(AI)、IoT(Internet of Things=モノのインターネット化)を含む科学技術や工学を専攻するアジア(ASEANと南西アジア)の途上国12カ国からの理系の学生。
スマホのアプリやオンラインゲームのソフト開発、SNSの技術開発なども、科学技術の領域だ。
これらは、日本が成長をねらい、技術革新を推し進めている産業分野。
アジアからの優秀な留学生と日本人学生が大学院で一緒に研究を行い、新たな技術の進歩を共に目指していくという事業なんだ。
留学生は、日本の企業でのインターンシップも体験する。
日本の外国人留学生全体のうち、日本で働きたいと考えている人は約7割という。
でも、実際に日本に就職できた人は3割程度。
そんななかで政府は「日本で働く留学生」の増加を目指した取り組みを行っていて、『イノベーティブ・アジア』はその政策のひとつになっているのだそう。
この事業で一定の研修を終えた留学生が日本での就職を希望する場合には、日本で一定期間、働くことができるよう在留資格(※)取得手続き上の優遇を行うといった支援をする。
※在留資格とは、外国人が日本に滞在するための資格。滞在目的などによって在留資格が異なり、日本でできる仕事や活動、滞在期間などが決められている。
留学生が来ると、高校生にどんなメリットがあるの?
※大学3年生のとき、心配する親に内緒でコスタリカへ短期留学。スペイン語と開発学を学ぶのが目的だったが、ボランティア活動やインターン、中南米をバスで縦断するひとり旅など、新しい経験を積むチャンスがあれば貪欲に挑戦。中南米の人々に日本の青年海外協力隊の活動がよく知られていることが強く印象に残りました
では、留学生受け入れ事業は、日本の未来や高校生の将来にどう関係してくるの?
佐藤さんに聞いてみた。
Q 外国人留学生と一緒に研究活動をすることで、日本の学生たちにとってどんな効果がある?
ただ、留学生を受け入れる大学は全国にあるので、同じ地域やキャンパス内で交流するチャンスはあるでしょう。
さまざまなバックグラウンドをもつ学生と交流することは貴重な経験になります。
斬新な発想や新しい技術は、多様な考え方や価値観にふれる環境で生まれやすくなると思います」
Q 優秀な外国人留学生が日本の会社に就職するようになると、就職活動でライバルが増える?
ITなどの科学技術関係の産業をはじめ、日本だけではなく世界各国で多くの人材が必要とされています。
日本で働く優秀な外国人が増えると、『日本は多様で高度な人材が集まる国』として海外企業が日本で支社をつくるなどの動きが活発になる…つまり、日本人学生にとっても就職先の候補になる企業が増える可能性もあるのです」
Q 留学支援をすることは、日本にはどんなメリットがあるの?
例えば、日本の政府奨学金で留学した人びとが帰国後に組織している同窓会やコミュニティーは約100カ国に240以上あり、会員総数はおよそ8万5000人もの規模になります。
途上国にもODAで受け入れた留学生の同窓会組織があり、こうしたネットワークは日本人が現地で事業や活動を行う際に協力をしてくれることがあります。
そのような日本の良き理解者が増えることは、途上国との関係の強化と平和にもつながります」
留学生の受け入れは、さまざまな人・機関との連携が必要
※取材当日の朝は、外務省主催の意見交換会に出席。日本とインドの産官学(企業・政府・大学)連携のさらなる発展に向け、話し合いを行った。写真は佐藤さんが『イノベーティブ・アジア』事業の紹介をしているところ
と、佐藤さん。
『イノベーティブ・アジア』事業の場合、連携しているのは、例えばこのような人たちだ。
「JICAは、日本政府が決めた政策の下で、ODA事業の実施を行います。
ODAによる留学生受け入れ事業も、留学生本人や、国内外で現地政府や大学、企業などときめ細かい調整を行っていることで成り立っています」
「在外公館は、JICAの海外事務所と連携しながら、現地政府との交渉を進めたり、留学生を集めるための広報活動、来日する学生への情報提供などを含めて重要な役割があります」
「留学生が日本で最もお世話になるのは、受け入れ先の大学の先生です。
私たちも先生方からの意見をもとに、事業の課題を検討しています」
「企業と留学生の両方にとって良いインターンシップが実現できるように意見交換をしています」
「主に内閣府、法務省、文部科学省、経済産業省などの人たちと連携しています。
日本で働き活躍する留学生や外国人の増加を目指す政府の取り組みのひとつとして、日本の企業や大学、相手国、そして外国人の方のニーズやそれぞれが抱える課題についてお互いに情報を共有しています。
また、どのように協力して制度をつくったり見直したりするとより良い成果を生み出せるか話し合い調整をしています。
例えば、この事業の在留資格の取得手続き上の優遇制度も、法務省を中心にこれらの他の省庁などとも話し合ってできたものです」
インドの留学説明会での忘れられないエピソード
その後も熱心に質問してくれて感動しました。
この事業が日本とインド、そしてアジアの国とのさらなる友好関係につながってほしいという思いを強くしました」
高校生の皆さんへ
そんな佐藤さんもアメリカの大学などでの留学経験があり、こんなメッセージをくれた。
例えば、日本に来た外国人が道に迷って困っていたら、留学生が周囲に馴染んでいないようだったら、すすんで声をかけてみる。
これも立派な外交だと思います。
外国のイメージや好感は、まずは人に触れることから生まれることが多いです。
私も外国で制度や生活に不満をもつことがあっても、人に優しくされるとその国が好きになってしまいます
そして、もし途上国との開発協力の現場に入り込んでみたいという人は、ぜひ20歳からチャレンジできる『青年海外協力隊』(2年間のボランティア)という制度を調べてみてください。
ボランティア活動終了後には、隊員はその経験を生かしてさまざまなフィールドで活躍しています。
グローバル人材として企業からの評価も高いと聞いています」
国際協力に興味がある人も、そうでない人も、まずは身近な「外交」から取り組んでみては!?
(※1)参考:日本語学校在籍の学生も含む。独立行政法人日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査」
(※2)参考:総務省統計局「人口推計(平成28年10月1日現在)」
佐藤崇子
外務省 国際協力局政策課 外務事務官(主査)
国際的な仕事を志望するようになったきっかけは、小学5年生のころ。
父親の仕事の関係でオーストラリアに住んでいたとき、学校に約20カ国の国の小学生がいて刺激を受けて「いつかまた、外国で勉強してみたい」と思うように。
アメリカの大学へ進学し、国際平和研究学とスペイン語を専攻。大学卒業後、日本の大学院でアメリカ史、国際社会学を専攻。
博士課程で移民政策についての研究者を目指していたころ、アメリカ南部州の移民受け入れ制度に関心をもち、在ナッシュビル日本国総領事館の専門調査員として就職。
2015年から外務省に勤務し、現職に携わる。
ODAによるインフラ整備、人材育成事業の政策・制度を主に担当。
※外務省で現職に携わる前は、在ナッシュビル日本国総領事館(アメリカ・テネシー州)で専門調査員をしていた。写真は、テネシー州下院議長ほかとの会食後の1枚。管轄する地域の政治経済・社会動向をつかむことは、総領事館の重要な任務。政務班兼経済班員として州政府の関係者をはじめ、多くの重要人物との人脈づくりにつとめた
*職場の休憩時間の楽しみは…*
写真はロシア、ドバイ、台湾、ガボン、リトアニア、ブラジルなどのお菓子。マグカップは、インドに出張した際、現地の大学の学長からいただいたものです。お菓子とコーヒーはエネルギー補充に必須です!」