イラストレーターの仕事ってどんな仕事?人気イラストレーターせきやゆりえさんに聞く
絵を描くのが好きな高校生にとって、あこがれの職業のひとつ「イラストレーター」。
でも、一体どんな進路を選択すればイラストレーターになれるんだろう?
そこで今回は、オリジナルキャラクターの「ペロペロ★スパ~クルズ」が人気で、「ももいろクローバーZ」「バンドじゃないもん!」といったアイドルグループのジャケットイラストも手がけているイラストレーター、せきやゆりえさんにお話をうかがうことに!
絵を描くことが好きだった幼少時代
そもそも、せきやさんはなぜイラストレーターになりたいと思ったの?
でも、絵の教室に通うとか、美術部に入るとか、具体的に何かをしていたわけではなくて…。
中学・高校時代は歌うことも好きだったので合唱部に入っていました。
唯一、プリクラ帳をデコったり、プリクラの落書きをするのは大好きで、ふざけた落書きをしたり、2枚つなげて1枚の絵になるような落書きをしたりして周りの友人から『クオリティが高い』と評判でした」
絵は好きだけど「仕事にしよう!」という意気込みで学生生活を送っていたわけではないんだ。
そこから、どんな進路でイラストレーターの道に?
高校卒業後、好きなことを仕事にしたいと思い美大へ!
中学・高校と続けてきた合唱も好きだったんですけど、仕事につながるビジョンがまったく浮かばなくて…。
『ほかに興味があることって何だろう?』と考えた時に出てきたのが『絵』でした。
その時、たまたま友達のなかに美大を目指している子がいて、美大を受験するための美術予備校に通うと言っていたので、私も『見学だけでも行ってみよう』と思って、ついて行ったんです。
そしたら、すごく楽しそうだったので『じゃあ美大に行くか』という感じで進路を決めました」
自分の好きなことを仕事にしたいという思いは、学生時代から変わらずに強くもっていたというせきやさん。
でも、美大はお金もかかるし、専門的な分野だけに卒業後の進路の幅も狭まりそうだけど…、親御さんは心配しなかったの?
小さいころから絵を描くのが好きだったことも知っているし、美術系の大学に行けたらすごいよねーという感じで、むしろ応援してくれていたと思います」
家族の応援もあり、高校卒業後は希望どおり美大に進学。ここで学んだ経験は、イラストレーターになった今もとても役に立っているそう。
大学に入るまで、周りの人からずっと『絵が上手だね』『天才だ!』と褒めてもらっていたのですが、美大には絵のうまい人がたくさんいて…。
『天才ってたくさんいるんだな』と思いました(笑)。
『自分の存在ってちっぽけだな』と感じて挫折したこともあるのですが、その経験から打たれ強くなったし、才能にあふれた人たちと一緒に勉強できたのは、とてもいい経験になりましたね。
美大に行かなくてもイラストレーターにはなれると思いますが、大学の同級生が第一線で活躍していると刺激になるし、学校の時のつながりでお仕事に結びつくこともあるので、私個人としては、美大に行ってよかったなと思います」
美大を卒業後デザイン会社でアルバイトをしながら初めてイラストレーターとして仕事を受けた
大学在学中に、「ファンシーグッズを作る会社でキャラクターデザインをしたり、グッズを作りたい!」という夢をみつけたというせきやさん。
ただ、就職活動がなかなかうまくいかず、卒業後は、大学時代にお世話になっていたキャラクターデザイナーの教授が代表を務める会社で数カ月バイトをすることに。
イラストレーターとして、個人でも仕事を受けたいなと思っていた時、mixiにアップしていたイラストを見た『galaxxxy』という原宿系ファッションブランドから仕事の依頼が来たんです!
ブランドの展示会場に展示する絵を描いて、初めてイラストレーターとしてお仕事をしました。
それ以降、SNSや他の仕事を見てイラストの仕事がちょこちょこ来るようにはなりましたが、イラストだけで生計を立てられるほどの収入はなくて。
一度、正社員として会社の中で働いて、社会人としての振る舞いを身につけたり、将来イラストレーターとして独立するための知識を蓄えたかったので、転職を決意しました。
自分の将来の勉強にもなる会社で働きたいな…と思っていたので、スマホアプリやケータイサービスを作る会社に入社したんです。
『デコメ』と言われるメールの絵文字のデザインや制作、企画やサイト運営の仕事を通して、世の中の人たちが好むデザインやイラストの傾向などを学ぶことができました」
会社で働きながらイラストレーターの仕事を受け続け、3年半後、26歳の時にようやくイラストレーター1本に絞って活動できるようになったそう。
イラストレーターとして食べていくのってやっぱりなかなか大変なんだ…。
作成依頼から納品まで、イラストレーターの具体的な仕事の流れって?
いろいろな経験を経て、今では人気のイラストレーターとして活躍するせきやさん。具体的なイラストレーターの仕事内容について教えてもらうことに!
CDや本の世界観、文章の内容を補足するイラストなど、求められるものを決められた期限で描く能力が求められるんですよ」
頼まれたものを相手の希望に沿って描くのがプロのイラストレーターなんだ!では、具体的に仕事の流れはどんな風になっているんだろう?
1.依頼をもらう
↓
2.打ち合せをして絵の内容を具体的に決める
↓
3.ラフ(サンプル)を送る
↓
4.制作する
↓
5.納品
まず最初は、仕事の依頼をもらうことから始まります。これは、私の過去の作品やSNSを見てメールが来たり、これまでにお付き合いのある方からは直接電話が来たりと手段はさまざまです。
例えば、
という感じでしょうか。
こういった依頼内容の詳細を教えてもらったうえで、『このボリュームなら期限内に描き上げられそうだな』と思ったらお引き受けします。
その後は、より詳しい内容について会って打ち合せをしたり、電話で確認したりします。
依頼者がどんな意図で私に頼んできたのか、どんな絵を求めているのかを正確に把握しないといけないので、コミュニケーション能力も必要ですね」
せきやさんが受ける仕事には、絵柄について細かく指定がある場合と、すべて“お任せ"の場合があるそう。
そういう時は、理想に近い写真やイラストの資料をもらって依頼主のイメージを正確に把握するようにしています。
ただ、相手のイメージを理解するだけでなく、『元気さを出すならイエローやオレンジを使うほうがいいかもしれませんね』『飛び跳ねているポーズも描いてみましょうか?』などと自分からもアイデアを出して、より良いものになるように打ち合せをしていくことが多いですね。
※FES★TIVE アルバムジャケット
※うえさかすみれ CDジャケット
逆に、アーティストのコンサートグッズのようなキャラクターデザインに近い仕事の場合は、細かな打ち合せはせずに『せきやさんにお任せします』と言われることもあります。
その場合は、アーティストの曲調から想像を膨らませたり、ファン層がどんな年代なのかを調べたりしながらアイデアを練ります。
今までのグッズやCDジャケットからヒントを得ることもありますね」
どこに使われるイラストを描くかによって、仕事の進め方は違うんだ!
では、打ち合せが終わったあとは、どんな作業に入るの?
※イラストラフ
※完成イラスト
打ち合せの内容をもとに5パターンくらいを描いてみて、実際に提出するのは2~3点ほどですね。
たくさんのパターンを用意して、その中から選んでもらう方法もあるのですが、出しすぎると『あれもいい、これもいい』と逆に依頼主さんが迷ってしまってふんわりとしたイメージで進んでいってしまう可能性もあるので、私の場合は、相手の意図やそのイラストの使われ方を考えながら、ある程度、数を絞って出すようにしています。
イラストを描く時は、ファッション誌なら、同じ誌面に出ているモデルさんを引き立たせるためにあまり目立ちすぎないイラストにしようとか、本の表紙ならぱっと目を引くイラストにしよう、といったことを考えながら作成しています」
※イラストラフ
※完成イラスト
イラストを1点頼まれたからといって、1点だけを制作すればいいというわけでも、むやみにたくさん提出すればいいというわけでもないんだ…!
※デジタルの作業の際に使用するiPad pro、MacBook pro、ペンタブ
※アナログ作用の際に使用するアクリル絵の具などの画材
今はほとんど、『photoshop』というソフトを使ってパソコン上で描いていくことが多いのですが、アクリル絵の具や色鉛筆を使って紙に描いていくアナログ作業の場合もあります。
デジタルだと、凹凸のないつるっとしたシンプルな仕上がりになり、アナログだと絵の具の筆跡や滲みなどが生かされた味わいのある仕上がりになるので、どちらの雰囲気を求められているかによって制作方法を変えています。
ただ、今は8割がデジタルですね」
※アナログイラスト
※デジタルイラスト
デジタルで制作すると、そのままメールでイラストの送付ができるため、納品もスムーズなのだそう。
ちなみに、ひとつのイラストを仕上げるまでの制作時間って、どれくらいかかるものなの…?
どういう構図にするかとか、どういった表情にするかを考えているのに一番時間をかけていて、5時間くらいリサーチやアイデア出しに時間を使うこともあります。
描くものが決まってしまえばそのあとはひたすら作業を進めるだけなので、そこからは早く、量にもよりますが『やるぞ!』と決めたら3時間くらいで描き上げてしまうことがほとんどですね。
できあがったものは最終チェックをしてもらって、問題がないようであればそのまま納品をして完了です」
ちなみに…、ズバリ1枚絵を描いたらどのくらいお金をもらえるものなの…?
そんなに幅広いんだ!
また、報酬には主に2種類の形があり、それによっても金額が変わってくるんだとか。
『買い切り(イラスト料のみ)』は、雑誌の挿絵など、1度だけ掲載されて終わりという場合が多いです。
ただ、中にはホームページや商品パッケージなど、さまざまな形で展開されることもあります。
もう1つの『イラスト料+売上に応じたパーセンテージ』は、ライブグッズやアパレルなど商品化されるもので多い報酬の形態です。
最初にイラスト制作料をもらって、その後は売り上げの◯パーセントという形で報酬をもらいます。印税みたいなイメージですね」
報酬の形も値段も細かく分かれているなんて知らなかった…!
イラストレーターの24時間
せきやさんは現在、自宅兼オフィスで仕事をしているそう。実際に一日をどんなふうに過ごしているのかを聞いてみた!
締め切りが近づいているせきやさんの1日がこちら!
■13:00 起床
起床後は、家事などを済ませつつ、頭の中で大まかなスケジュールを組みます」
※せきやさんの作業机
↓
■16:00 イラスト作成
↓
■3:00 就寝
仕事のスケジュールを自分で決められるので、夜型の私にはうれしい反面、忙しい日々が続くと生活が崩れてしまうのが欠点ですね」
締め切り前は、深夜まで作業が続くこともあるんだ。大変…!
ただ、仕事が立て込んでいない時は、まったく違う生活時間帯なんだとか。
↓
■8:00起床
前日、深夜まで作業をせずに睡眠時間が確保できた時は、だいたい朝の8時くらいには起床しています」
↓
■11:00仕事開始
納品が済んだ仕事の請求書も自分で作成しているので、この時間を利用して経理関係の処理をすることも」
↓
■13:00お昼・休憩
イラストレーターはデスクワークが多く、どうしても運動不足になりがちなので、最近は2日に1回ヨガに通って体を動かすようにしています」
↓
■15:00仕事再開
↓
■19:00夜ご飯・就寝準備
仕事の状況によってかなり生活リズムが違うみたい! 自分で自由にスケジュールを組めるのは魅力的だけど、その分、自己管理が大変そう…。
イラストレーターの仕事の大変さとやりがい
せきやさんがイラストレーターをしていて大変だなと思うことって?
決まった絵柄があるのは“強み"のような気がするけど、やっぱりイラストレーターとしては、いろんな絵柄を描けるほうがいいの?
そこまでじゃなくても、二頭身のキャラも描ければ、スラーっとした大人っぽい女性も描けるなど、いろんなバリエーションの絵を描けるといいですよね。
私自身も、最近は女の子の絵だけではなく男の子を描いたり、ツイッターに日常のことを描いた漫画を載せてみたりと、自分の可能性を広げるために違うジャンルにも挑戦しています」
イラストレーターとして仕事をしていくためには、日々進化していかないといけないんだ。そのほかに、せきやさんがイラストレーターを続けていくうえで心がけていることは…?
※アイドルグループ「バンドじゃないもん!」のイラスト
公式のアーティスト写真は、髪型が古かったりするので、インスタやツイッターで最新の状態をチェックしています。」
私の場合は、リアルな似顔絵ではなく単純なタッチで、グループに所属している5人とか7人の女の子を描き分けなければいけないので、眉の形や髪型など、その子の特徴をしっかりとらえないといけないんです。
それに、ただ似ていればいいというわけではなくて、グッズを手に取ってくれるファンの方たちが喜んでくれるものを作りたいので、アイドルの子たちのブログや動画を見て、『ファンの人達はこういう表情や顔の角度が好きなんだろうな』『これがこの子の象徴的なポーズなんだろうな』という瞬間を探しながら、イラストを描いたりメモをとったりしてイメージを膨らませています」
大量の動画やさまざまな角度の写真のチェック…イラストレーターってそんなことまでするんだ!
イラストを通じて、今まで交流がなかった人たちにもファンになってもらえるなんてステキ!
※グッズ展開なども幅広い「ペロペロ★スパ~クルズ」
活動の幅を広げているせきやさんだけど、今後の目標は?
あとは、イラストレーターとして仕事を始めてから今まで、依頼された仕事をとにかくこなしてどんどん返していく、という生活をしていたのですが、最近はやっとひと段落して、少し時間に余裕がもてているところなんです。
だからこそ、イラストレーターとしての仕事の腕を磨くのはもちろんですが、相手から求められるものだけでなく、本当に自分が好きな絵をじっくりと描く“アーティスト活動"もやっていきたいなと思っています」
高校生へのアドバイス
最後に、今イラストレーターを目指している高校生にアドバイスを!
ただ、イラストを載せる時は『お仕事を募集しています』と、しっかり明記することが大事!
SNSに投稿している人のなかには、『下手なんですけど』とか『ちょっと描いてみました』というように、“保険"をかけている人が多いけど、たとえ下手だとしても、きちんと『仕事が欲しい』という意思表示をしている人のほうが信頼されやすいし、仕事につながる可能性が高いと思います」
批判されるのが怖くて、つい謙遜したくなる気持ちもわかるけど、プロのイラストレーターを目指すなら、きちんと意思表示をした方がいいんだ!
趣味ではなく、“仕事"として絵を描きたいんだという覚悟を相手に伝えることは、確かに大切かも!
絵を描くのは一人の作業が多いので、イラストレーターのなかにはコミュニケーションを取るのが苦手な人も多いのですが、だからこそ、当たり前のことを当たり前にやるだけで評価される場合もあるんですよ。
『コミュニケーションをきちんと取る』というのは、話がうまいとかそういうことではなくて、例えば、締め切りをきちんと守るとか、メールの返信が早いとかということも含まれるのかなと考えています。
だから、学生のうちから提出物の締め切りを守るとか、返事をしっかりするとか、そういう小さなことから心がけていくと、イラストレーターとしても、一人の社会人としても役立つんじゃないかな、と思います」
いろいろな人と協力をしながら自分の絵を世の中に発信できるイラストレーターという仕事。
絵を仕事にしたいと思っている人は、選択肢のひとつとして考えてみるのもいいかも?
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