あの有名CMのトンボ&サザエ役!人気声優の梶裕貴&和久井優が語る「声優になる方法」
普段、テレビやネットで誰もが目にするCM。そんなCMの制作には、実はいろいろな役割の人がかかわっているんだとか。
そこでスタディサプリ進路では、『魔女の宅急便』『アルプスの少女ハイジ』『サザエさん』などの有名アニメをリメイクした、カップヌードルのCM『HUNGRY DAYS アオハルかよ。』を手がけた方々をリレーインタビュー!
第3回は、CM第1弾『魔女の宅急便』でトンボの声優を務めた梶裕貴さんと、第3弾『サザエさん』でサザエの声優を務めた和久井優さんのおふたりを直撃!
声優を目指したきっかけ
「声優は何を頑張っても全部が自分の力になる」
テレビアニメ『進撃の巨人』のエレン役や『からかい上手の高木さん』の西片役など、数々の代表作をもつ梶裕貴さんと、『アイカツ!』シリーズの氷上スミレ役でも知られる和久井優さん。
『アオハルかよ。』などのアニメCMや映画の吹き替え、ナレーションの仕事など、幅広く活躍中のおふたりだけど、そもそも声優を目指したきっかけはなんだったんだろう?
「ぼくは夢に向かって努力することが好きな、少し変わった子どもでした。
それに加えてもともとアニメや漫画も大好きで、サッカーのアニメを見れば『サッカー選手になりたい!』と思ったり、『名探偵コナン』を読めば『探偵になりたい!』と思ったりしていました。
それぞれの作品に夢中になるたびに将来の夢が切り替わる子でした(笑)。
そんななか、中学2年生のころに…本なのかテレビだったのかは覚えていないのですが、“声優という職業は、何を頑張っても全部が自分の力になる”という言葉を耳にする機会があって。
その言葉を聞いたとき、『いろんなことに興味がある自分には、どんな経験でも生かせる“声優”という仕事がピッタリなんじゃないか』と思えたんです。
それがきっかけで声優を目指し始めました」
中学生の梶さんを突き動かしたのは、声優という職業に対するひとつの言葉だったんだ!
「声優という夢は決まったものの、中学のころは何をしたらいいのかわからなくて。
でも、高校に入学すると同時に『声優も“役者”だから、とにかく演技に触れてみることが大切かもしれない』と思い、演劇部に入りました。
そこには同じように声優を目指す部員がたくさんいて、その人たちから『ある養成所で声優のレッスンが無料で受けられる“特待生”のオーディションをやっている』と教えてもらったんです。
思い切って挑戦してみたら、ありがたいことに合格することができて、高校に通いながら養成所で週に1回のレッスンを受け始めました」
高校生のころから声優への道を歩み始めたという梶さん。
では、和久井さんは?
「私は小さいころからクラシックバレエをやっていた影響で、演技や舞台のお仕事にあこがれはあったんですけど、なかなかその道に進む勇気が出せなくて…。
普通の高校生として学校に通っていました。
でも、高校3年生になって、いざ自分の進路を真剣に考えたときに『このまま大学に行ってただ勉強するよりも、やっぱり演技がやりたいな』と思って、高3の冬から『劇団ひまわり』に入ったんです。
当時はまだ『声優になりたい』というより『お芝居がしたい』という気持ちでした」
高校在学中は、地元・栃木から週に1度、東京の劇団ひまわりへレッスンを受けるために通っていたという和久井さん。
卒業後は上京して、週に5日レッスンがある“全日制コース”に進み、演技を学んでいったそう。
でも、そこからどうして声優の道に?
「養成所に通い始めて1年くらい経ったとき、マネジャーさんに『役者の仕事には“声優”というジャンルがあるんだけど、声優にも挑戦してみない?』と言われたんです。
もともとアニメが好きで、声優さんのことも好きだったので『自分も挑戦していいならやってみたい』と思って声優のオーディションを受けさせてもらうことにしました」
声優デビューまでの道のり
「セリフが少ない中で結果を残さないといけない」
それぞれ別の進路から、声優という夢に向かって歩み始めた梶さんと和久井さん。
その後はどうやってデビューを果たすことに…?
「ぼくの場合は、高校のころから通っていた声優の養成所に卒業後も引き続き通っていたのですが、ただ在籍しているだけではいつまで経っても養成所の生徒という立場のまま。
プロの声優として仕事をするためには、養成所の進級審査を突破して、声優事務所に所属するための試験に合格しなければいけませんでした」
養成所内の審査に合格するだけでも、かなりの狭き門。
どうにか試験を突破しても、すぐに声優事務所に所属できるわけではなく、最初は“預かり所属”と呼ばれる仮契約のような状態からスタートするのだという。
「預かり所属になると、役名がないキャラクターに声を吹き込む『ガヤ』と呼ばれる仕事がいただけることも出てくるんです。
ガヤは当然セリフが少ないので結果を残すのはなかなか難しいのですが、経験を積みつつ、何度もアピールして『この子はいろんな演技ができるな』『おもしろいな』と思っていただければ、やっと事務所に“本所属”することができます。
ここでようやく、役名があったり、 出番が多かったりするキャラクターのオーディションに挑戦できるようになるんです」
こうして、梶さんは2004年にゲームのキャラクターのひとりとして声優デビューを果たすことに!
一方、和久井さんは2014年にアニメ『アイカツ!』の主人公・氷上スミレ役のオーディションに合格し、声優デビュー!
「私の場合はガヤのお仕事の経験がなかったので、『アイカツ!』の現場で初めて学ぶ“声優としての専門的な技術”が多かったです。
収録のしかたやマイクの前での立ち方、顔の角度をどれくらい傾けたらきれいに声が収録できるのかといった細かい技術まで、共演する先輩方を観察しながら見よう見まねで覚えていきました」
声優の仕事の流れ①オーディション前の原作研究
「原作に必ず“自分が演じるべき道しるべ”がある」
数々の審査や試験を受けてようやくデビューを果たしたあとも、たくさんのオーディションを受け続けながら新しい役を勝ち取っていくという声優の世界。
おふたりは、日々のオーディションに向けてどんな準備をしているの?
「ぼくは原作がある作品の場合は、オーディションまでになるべく原作に触れるようにしています。
オーディションのオファーをいただくタイミングは、その多くがオーディションの約1週間から2週間前。
なので、原作が分厚い小説だったりすると、読むのに時間がかかってけっこう大変なんですけどね…(笑)。
でも、“自分が演じるべき道しるべ”みたいなものは原作の中に必ず描かれていると思っているので、『自分がオーディションを受ける役はどんなキャラクターなのか』『どんな世界観なのか』を研究することを大切にしています」
「私も、原作には必ず触れるようにしています。
自分がオーディションを受けるキャラクターと、それ以外の登場人物の関係性を考ることで、『この人にはきっと好意をもっているから、話しかけるときは少し声を上げてみよう』というように、自分が演じるキャラクターがどんな声の高さやスピードで話すのかをイメージすることができるんです。
オーディションに挑む前は、そのイメージを必ず固めるようにしています。
ただ私の場合は、あまり作り込みすぎると現場で緊張して用意したもの以外ができなくなることもあるので(笑)、考えすぎないほうがいいのかなと思っています」
今回のCM『HUNGRY DAYS アオハルかよ。』も、ほかのアニメと同じようにオーディションによって配役が決まったんだとか。
でも、『魔女の宅急便』も『サザエさん』もアニメ化されている作品。
すでに声が吹き込まれているキャラクターを新しく演じることに抵抗はなかったの?
「特に抵抗はありませんでしたね。
『魔女の宅急便』というとぼくも大好きなジブリ作品が有名ですが、もともとの原作は児童小説なので、今回の場合も“新たなキャラクター像を作る”という気持ちで臨みました。
でも、和久井さんが担当した『サザエさん』の場合は、リアルタイムでアニメが放送されてるし、ちょっと違うのかな?」
「いえ、私も抵抗はなかったです!『アオハルかよ。』のCM第1弾や第2弾を見させていただいていたのでイメージはできていましたし、監督からも『等身大での和久井さんでいい』と言っていただいたので、『サザエさん』のパロディを作るような気持ちで楽しんでいました(笑)」
ふたりとも、意外とワクワクしながらリメイクを楽しんだんだ!
声優の仕事の流れ②セリフを収録
「現場で求められた演技や表現に対応するスキルが大切」
アニメCMの収録現場は、普段30分間のアニメに数多く出演しているふたりからすると、少し特殊なのだとか!
「CMの場合、同じセリフを何十種類もニュアンスを変えて録音するんです。
ニュアンスのパターンは30分のアニメの数倍ですね。
今回の現場でも、スタッフさんから『今の“◯◯だね”の“ね”のニュアンスだけ変えたいんですけど…』などの指示があって、何テイクも録り直しました」
「CMは、15秒、30秒という短い枠の中でよりわかりやすく商品を紹介する必要があります。
だからこそ、ぼくたちの声という“素材”をより多めに録っておいて、バランスを見ながら一番ふさわしいものを選ぶんだと思います」
“商品をアピールすること”が最優先のCM。
制作スタッフが、あらゆるバリエーションの中から厳選できるよう、声優にも細かい演じ分けが求められるんだ…!
「普段、30分アニメの収録はたいてい3~5時間ほどかけて行うんですが、15秒や30秒というCMの場合も、同じくらいの時間をかけて収録するんです。
実際に使われるセリフは少なくても、そのひとつひとつにかける時間の割合と気遣いはものすごく大きいですね」
たとえセリフが少なかったとしても、そんなに時間をかけて収録するなんて…。アニメCMにかける声優や制作スタッフのこだわりってものすごい!
ちなみに今回の収録には、どんなことを意識しながら臨んだの?
「リメイクされた今回のトンボには『ドローン部の部長』という設定があったんです。
加えて、もともと『オタク気質』という性格のキャラクターなので、どんな演技をしたらいいのか事前にイメージはしていきました。
でも、いろいろ考えているうちに『アオハルかよ。』で描きたいテーマは“恋愛”だと気づいたんですよね。
トンボのセリフは、基本的には『キキ!』と名前を呼ぶものだけだったんですけど、本番ではトンボという人物の性格ではなく『どんな気持ちでキキの名前を呼んでいるのか』というトンボのキキへの想いを意識しました。
CMの場合は、レギュラーシリーズもののアニメと違って、事前に声優とスタッフさんがキャラクターについて打ち合せをする時間がさほど用意されていないんです。
どういう演技をしたらいいのか、現場に入る前に自分の中で準備して臨むことはもちろん大切ですが、打ち合せが少ない分、監督さんやスタッフさんが求める演技に現場で対応するスキルも、声優という仕事には必要だと思います」
数字や文字で表すことができない、絶妙なニュアンスが求められる声優のお仕事。
その場で違う表現を瞬時に求められるなんて大変…。
「でも、現場でいろんな演技を収録する分、その場でおもしろいアイデアが生まれることも多いんです。例えば『サザエさん』篇の場合、マスオさんの特徴的な『えぇ~!?』という驚きの声も収録したんですよ。
実はこれって、マスオさんの声を務めた島崎信長さんと私が、待機時間にマスオさんのマネをして遊んでいるところをスタッフさんが見て、『それも録ってみようか』って話になったことから生まれたアイデアなんです(笑)」
『サザエさん』篇に、そんな裏話があったなんて!
「ちなみに裏話的な小ネタでいうと、サザエさんが友達ふたりと行ったお祭で『お財布忘れた~!』って叫ぶシーンがあるんですけど、両隣にいる友達の笑い声も、すべて私がセリフを入れているんです。
ほかにも、告白シーンで『告白だってよ~!』などとはやし立てている周りのガヤも、島崎さんと私の声がたくさん使われてたり…」
「えー!? そうなの?」
「ふたりとも、隅々に隠れてるんですよ(笑)。
ほかにも、私は『うふふふふ♪』と笑うときは加藤みどりさん(※)の笑い方を意識していたりと、実は、小ネタが満載で、原作が好きな方が見てもクスッとできる作品になったんじゃないかなと思います」
※加藤みどり…毎週日曜日に放送中の『サザエさん』役の声優
声優という仕事の魅力
「声優は“普通では体感できないようなこと”を体験できる仕事」
原作の世界観やキャラクターの気持ちを研究したり、同じセリフをさまざまなバリエーションで演じ分けたり…。
苦労が多い声優という職業だけど、続けていきたいと思える魅力とは?
「声優の仕事の軸は、もちろん“声で演技をすること”なので、『普通に生活していたら体感できないようなこと』も声でのお芝居を通して体験できるんです。
例えば、ツラい気持ちのキャラクターを演じれば自分もツラくなるし、逆に楽しい感情を演じれば自分も楽しくなれます。
設定でも、サッカー選手や勇者の役を演じていたら、自分も作品を通してサッカーをしたり、大冒険に出たりしている想いになれます。
自分をすり減らして演じる部分もありますけど、非現実的なことを体験できるよろこびは大きいですね」
「私は自分がキャラクターの魅力を引き出せて、その作品がベストな評価をしていただけたときが一番うれしくなります。
あと、この業界には『いい作品を作る』というモチベーションが高い先輩方やスタッフさんがたくさんいるので、そういう方々に囲まれて切磋琢磨させていただけるのも、私が声優を続けられている理由のひとつだなって、最近よく思います」
高校生の今からできること
「青春を謳歌して、それを声優としての“材料”にしてほしい」
最後に、高校生が声優になるために、今からできることを聞いてみた。
「ぼくが声優を目指し始めた中学生のころは、何をするにしても『これは声優になるために必要かな?』ということを第一に考えてしまっていました。でも今思うと、あまりそういうことは意識せずに過ごしたほうがいいのかなって。
演技って、もちろん想像力も大切なのですが、基本的にはやはり『自分がそれまでに感じたこと』や『経験したこと』しか表現できない仕事だと思うんです。
高校生の皆さんは、10代の今、家族や友達、先生との会話で感じたことなど、日常生活のすべてを大切にしていただきたいですね。
それこそ“アオハル(青春)”じゃないですけど、青春を謳歌して、それを材料として演技や人間としての幅を広げてほしいなと思います」
「どの作品にもいろんな設定のキャラクターがいるので、『声優には関係ない』と感じる経験でも、きっと必要になるときが来ると思います。
だからこそ、興味があることに出会ったら、そのことについてたくさん調べてみたり、運動部だったらその運動を思いっきりまっとうしたりと、何ごとにも全力投球していただきたいですね。
高校生の今、全力で取り組んだ経験が声優として生かせる日がきっと来るはずです!」
自分の経験をもとにして、キャラクターに命を吹き込む声優のお仕事。
アニメやものづくりが好きな人は、おふたりのアドバイスを参考に、声優を目指してみては?
(撮影/武田敏将)
***プロフィール***
●梶 裕貴(かじ・ゆうき)
7月22日放送開始のテレビアニメ『進撃の巨人 Season3』(NHK総合)では主人公エレン・イェーガー役、8月18日公開の劇場版アニメ『七つの大罪 天空の囚われ人』では主人公メリオダス役を務める。
・『進撃の巨人 Season3』公式サイト
https://shingeki.tv/season3/
・『劇場版 七つの大罪 天空の囚われ人』公式サイト
https://www.7-taizai-movie.net/
●和久井 優(わくい・ゆう)
9月8、9日に幕張メッセイベントホールで開催する「アイカツ! シリーズ5thフェスティバル!!」に出演予定。
・「アイカツ! シリーズ 5th フェスティバル!!」特設サイト
http://www.aikatsu.com/5th_anniversary/