助産師の仕事ってどんな仕事?命の最前線に密着!

女性がお産をするときの介助をする専門家が助産師。
 
この職業に興味をもっている人は少なくないと思うけど、実際にどんな仕事をするのか、案外、知らなかったりする。
 
そこで、助産師の仕事現場を訪ねてみることに! 伺ったのは横浜市の「みやした助産院」
 
そこに勤める8人の助産師のひとり、Mさんにお話を聞いた。
 

 

【進路選び】
もとは看護師志望。オープンキャンバスに参加した大学で助産師の仕事と出会ったのがきっかけに

助産師になるには、看護師と助産師の2つの国家資格が必須。
 
両方の資格取得までの進路はいくつかのルートがあり、Mさんの場合は高校卒業後、助産師課程のある大学看護学科へ進学した。
 
卒業と同時期に2つの国家試験に合格し、資格を取得。
 
助産師になりたいと思ったきっかけは、高校2年生の夏休みに参加したオープンキャンパス。

「もともとは看護師志望でした。
 
生物の授業が好きで人の身体の仕組みに関心があったし、父親が病気で入院したときにテキパキと働く看護師さんの姿をみてあこがれていたんです。
 
オープンキャンパスでも看護学科のある大学に行き、そこで助産師の職業のことを知りました。
 
入学後、母性看護学という、女性の妊娠・出産と体と心の変化に関する授業を受けました。
 
出産は将来の自分にも起こり得る身近な出来事なので、専門的に勉強して目指してみたいと興味が湧いてきたのです」

【助産師として働くまでの道のり】
病院で経験を積み、学生時代から興味をもっていた助産院に転職

命の最前線! 助産師の仕事ってどんな仕事?
大学を卒業し、総合病院に約4年勤めた後、2017年2月からみやした助産院で働いているMさん。

「ここは学生時代の実習先だったのです。
 
病院での実習もありましたが、助産院は全然雰囲気が違っていて驚きました。
 
白衣を着て働いている人はいなくて、エプロン姿。畳の部屋やリビングがあって、妊婦さんは希望するお部屋で出産することができるんです。
 
家庭的ですてきな場所だなと思いました。働いてみたくなったのですが、経験がないと難しいと感じたんです。
 
そこでまず病院へ就職し、基礎を身につけてからこの助産院に転職したのです」

こう話すMさん。実際、新卒ですぐに助産院に就職する人はほとんどいないのだそう。
 

【助産院ってどんなところ?】
助産師が運営し、母子の健康状態に問題がないお産を扱う

命の最前線! 助産師の仕事ってどんな仕事?
 
そこで、まず知っておきたいのは産婦人科の医師と、助産師との違いだ。

「両方とも出産に携わる職業ですが、医師の先生はすべての分娩(お産)を扱えるのに対して、助産師が扱えるのは妊婦さんとお腹の中の赤ちゃんの健康状態に問題がない場合(正常分娩)だけです。
 
妊娠、出産は基本的には病気ではありません。でも、お産の現場では予想外のさまざまなことが起こります。
 
母子の状態に異変があったり、逆子や帝王切開など異常分娩になることがあります。
 
そんなときに麻酔を打ったり、手術をするといった医療をほどこし、分娩を進めることができるのは医師の先生です」

つまり、正常分娩の場合に限り、助産行為(お産を助け、赤ちゃんを取り上げる)ができるのが助産師。そうした責務をもつ助産師だけで運営される施設が助産院なんだ。

「正常な経過で進むお産だけを扱うところが助産院なので、母子の健康に何かあったときは、連携している病院の医師の先生に対応をお願いすることになります。
 
そのため助産師は分娩の進み具合や、母子の状態をしっかり観察して正常に進めていけるかどうか、判断できなくてはつとまらないのです。
 
病院の産科に勤務していたとき、異常分娩の場合には医師の先生のサポートとして出産に立ち会っていました。
 
いろいろな出産の現場を経験できて、それが今、役立っています」

【助産師の仕事内容】
妊娠中から出産後まで、女性と赤ちゃんをケアするのが仕事

命の最前線! 助産師の仕事ってどんな仕事?

※産後の母子をケアする際に使う助産師の仕事道具の一部

 
助産師の仕事はお産の介助のほかにもまだある。

「妊娠中から出産後まで、お母さんと赤ちゃんをケアする仕事なんですよ。
また、出産の時期だけではなく、助産師はすべての女性の健康を守る仕事でもあるのです。例えば思春期の性の悩みや、年齢を重ねるなかで起きる不調(更年期症状)などの相談に応じたり、保健指導に携わる助産師もいますよ」

命の最前線! 助産師の仕事ってどんな仕事?

※母親学級の様子。取材当日は、出産は初めてという妊婦さんたちを対象に、お産当日の流れに沿って模擬出産の実演とレクチャー

 
産前(妊娠中)と産後の主な仕事を教えてもらった。

<産前>
●妊婦健診
妊婦さんとお腹の中の赤ちゃんの健康状態をチェックするために定期的に行う。健診の内容は、妊婦さんのお腹の大きさや血圧、体重などの測定、赤ちゃんの心音を聞いたり、エコー(超音波)を使って赤ちゃんが元気かどうかの診断などさまざま。
 
●運動や食事の指導
出産に向けての健康づくりのため、運動や食事、出産を迎える心構えなどを指導。みやした助産院の場合は「母親学級」というプログラムを開催している。
<産後>
●お母さんと赤ちゃんのケア
出産後、体調がもとに戻るまでの期間を産褥(さんじょく)期といい、6週間から8週間くらい必要。助産師はお母さんの回復とともに、赤ちゃんの成長が順調に進んでいるのかを診る。みやした助産院の場合、産後1週間後と1カ月後に健診を行い、自宅への往診もしている。
 
●育児のサポート
赤ちゃんが生まれると子育てが始まる。でも、初めて出産したお母さんの場合、慣れない育児に戸惑うことも。そんなお母さんの育児の悩みを聞き、アドバイス。母乳の与え方や沐浴のほか、抱っこの方法やおむつ替えなどを指導する。

命の最前線! 助産師の仕事ってどんな仕事?

※沐浴のお手本を示しながらお母さんにアドバイス

 

【助産師の腕の見せどころ】
お産の現場ってどんな感じ?

このように助産師の仕事は幅広い。

病院によっては、看護師が産後の育児サポートなどを担当したり、お産の現場に入って、医師や助産師を補助することもある。
 
「でも、正常な出産であれば、医師の先生の指示がなくてもお産をとることができるのは助産師。看護師はお産をとることはできません。助産師と看護師ではそんな大きな違いがあるんですよ」

お産の現場で助産師はどんなことをするの?

「陣痛が始まって生まれるまでの時間は、産婦さんによってさまざま。短時間ほどで済む人もいれば2~3日くらいかかる人もいます。助産師はずっとそばにいてお腹の中の赤ちゃんの心拍数や母体の状態を確認し、順調にお産が進んでいるのか、診ています。陣痛の痛みや不安をやわらげるために、身体をさすったり、痛いところを温めたり、姿勢を変えたり、励ましたり…。リラックスして出産できるようにするのも重要な役割なんですよ」

【助産師のやりがい】
責任の重い仕事だけど、命の誕生に立ち会えるすばらしい仕事!

お産のときもそうだけど、この助産院に健診に通ってきている妊婦さんの出産予定日が近づいてくると、緊張してくるというMさん。

「人の命にかかわる仕事ですから責任重大。無事に赤ちゃんが生まれてくるまでは気持ちが張りつめています」

それだけに、母体から生まれてきた赤ちゃんを受け止める瞬間がやってきたときは…。

「命の誕生に立ち会えて、いつも感動しています!」

助産院では、ほとんどの場合、産婦さんが希望すれば誰でも出産に立ち会える(病院の場合は、立ち会える人を制限していることが多い)。

「ご主人、生まれてくる赤ちゃんのお兄ちゃん、お姉ちゃんになる小さいお子さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お友達…。
 
いろいろな人がやってきて、出産の現場はにぎやかになることもあります。小さいお兄ちゃんが『ママ、頑張って!』と声をかけたり、元気に生まれてきた赤ちゃんを見てご主人が感激の涙を流されたり…。
 
家族や親しい人たちに見守られながら赤ちゃんが誕生する…こんな幸せな空間にいられるなんて、助産師はすばらしい仕事です」

【助産師を目指す高校生へのアドバイス】
病院や助産院の職場体験に参加して、助産師に会ってみては!?

※助産師は素晴らしい仕事ですと笑顔で話すMさん

 
助産師の仕事にますます興味が湧いてきた高校生が、今からできることってある?

「私のようにオープンキャンパスで学校選びの情報を集めることから始めてみるといいと思います。
 
また、病院や助産院の中には、職場体験を受け付けているところがあるので、助産師が働く現場を見学してみては? 
 
私も高校生のとき、進路指導の先生から情報をもらい、地元の病院に職場体験に参加したんですよ。
 
このときはまだ看護師志望だったけど、病院の仕事の現場をみることができてよかったです。ちなみに私が働くみやした助産院でも見学は大歓迎です」

興味のある人は、Mさんのアドバイスを参考に、調べてみては?
 

☆助産師として活躍するには…
・看護師と助産師の国家試験に合格し、資格取得が必須。
Mさんのように助産師課程のある大学看護学科で学んで卒業時に両方の資格を取得する方法のほか、大学・3年制短期大学・専門学校の看護師養成課程で学ぶという方法も。卒業時に国家試験に合格して看護師資格を取得し、その後、1年制の助産師養成学校へ進み、助産師の国家試験に合格して資格を取得する。
※助産師は、「保健師助産師看護師法」という法律で、女性のみの職業と決められている

・国家試験の合格率
看護師も助産師も、国家試験の合格率は例年90%台。2018年2月実施の国家試験では、
看護師試験は91.0%、助産師試験は98.7%。
 
・主な働く場所
病院、助産院のほか、診療所、地域の保健所や母子保健センターなどで働く。
 
・勤務
病院や助産院などでは夜勤があるところが多い。Mさんの場合も、お産が迫って入院している人がいるときは月に5~6回程度、夜勤があるそう。
 
・収入の目安
地方公務員として地域の保健所などで働く場合、平均月給は30万1447円(平均年齢40.3歳)
※出典:総務省「平成29年地方公務員給与実態調査」より、看護・保健職(保健師、助産師、看護師)の調査結果を記載
 
・助産院を開業するには
公益社団法人日本助産師会では、開業するために必要な基準を設けている。
例えば「経験年数5年以上」「分娩件数200件以上」「妊婦健康診査200例以上」など。
 
また、開設して10日以内に、開業した場所の都道府県知事に届け出ることが必要。
 
***
今回取材に協力してくれたのは…
命の最前線! 助産師の仕事ってどんな仕事?
みやした助産院
1990年開業。この道約40年のベテラン助産師、宮下美代子院長のもと、妊娠期から出産、産後まで母子のケアを手厚く行っている。
 
「赤ちゃんに上手に母乳をあげられない」といった相談に対応する母乳外来を設けているほか、マタニティ・産後ヨガ教室やベビーマッサージ教室なども開催。
 

※この記事は2018年9月に取材した記事になります。
 
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