公認心理師とは?どんな資格?仕事内容や臨床心理士との違いを解説!

このところ、関心が高まっているのが「心のケア」。ニュースで話題になる社会問題などには、いろいろな原因があり、専門家の支援が必要になる場合もある。

心の問題を専門に扱う仕事のひとつが「心理職」と呼ばれる職業。心理学の専門知識と技術をもち、心の問題を解決するためのサポートをしている。心理職にもいろいろあって、心理士、心理カウンセラー、心理相談員など、呼び方もさまざま。

そんな心理職に国家資格があるって、知ってる? 公認心理師だ。新しい資格なので、まだあまり知られていないかもしれない。

公認心理師はどんな仕事をするのか、どうしたら国家資格を取れるのか、以前からある臨床心理士の資格との違いなど、総合病院で公認心理師として働く辰巳麻子さんにお話を聞いた!
<お話を聞いた人>
公認心理師とは?どんな資格?仕事内容や臨床心理士との違いを解説!
辰巳麻子さん

上智大学総合人間科学部心理学科卒業後、上智大学大学院総合人間科学研究科修士課程臨床心理学コースへ進学。大学院修了後、2020年4月、済生会横浜市東部病院「こころのケアセンター 心理室」に就職。公認心理師と臨床心理士の資格をもつ。

公認心理師とは


心の問題が深刻化するなか、誕生した法律がある。公認心理師法だ。人々の心の健康増進を目指し、高い専門性をもった心理職の人材を育てようという目的で作られ、国家資格の「公認心理師」が創設された。2018年から年1回、国家試験が行われ、試験に合格して登録することで、公認心理師の名称を用いて働くことができる。つまり、公認心理師とは、公認心理師の国家資格をもって働く心理職の人たちのことなんだ。

主な仕事は、心につらさや課題を抱える人に対し、相談にのり、心理面から助言、指導を行うこと。
「相談にのるというと、私たち公認心理師が解決方法を教えると思われるかもしれませんが、『こうしましょう!』と答えを出すのは、相談者ご自身。

私たちは相談者一人ひとりの悩みに合わせて、どうしたら解決できるのか一緒に考え、解決法を見つけるサポートをするのです。

そのために相手の心の状態を観察し、分析をするのも重要な仕事です。また、相談者ご本人だけではなく、ご家族や職場の方など関係する方々に対しても相談に対応し、助言、指導をします」
そのほか、心の健康に関する教育や、心の健康を守るための情報の提供も行う。

このような仕事を行う公認心理師は、さまざまな分野で必要とされている。
活躍の場は、大きく分けて5つの領域がある。

●医療・保健
病院や診療所(精神科や心療内科に限らず、小児科などでも)、地域の保健所、精神保健福祉センターなど。

●教育
小学校、中学校、高校などのスクールカウンセラー、教育相談機関の相談員など。

●福祉
児童相談所、児童福祉施設、知的障害者施設、女性相談センター、高齢者福祉施設など。

●司法・法務機関
家庭裁判所、刑務所、少年鑑別所、少年院など。

●産業
一般企業内のメンタルヘルス(心の健康)相談室など。

これら5つの領域のほか、災害や、犯罪被害を受けた人の支援なども行っている。

公認心理師と臨床心理士の違い


心理職といえば、よく知られているのが臨床心理士という資格。公認心理師は、臨床心理士とどう違うの?
「基本的には仕事内容も働く分野も共通しています。大きな違いは資格の種類で、公認心理師が国家資格であるのに対し、臨床心理士は民間資格です」
さらに辰巳さんはこう教えてくれた。
「心理職の仕事は、資格がなくても、『心理カウンセラー』を名乗って仕事をすることはできます。

しかし、心理学の専門的なスキルが欠かせない職業なので、公認心理師の国家資格制度ができる以前からいくつかの民間資格の制度がありました。その代表的なものが臨床心理士です。

1988年に認定が始まった資格で、心理職の資格として長年、評価されてきました。そうしたことから、公認心理師と臨床心理士の両方の資格を取得して働くケースが多く、私も両方の資格を取得しています。

ただ、心理職全体でみると、公認心理師資格の取得が必要とされるケースが増えていると思います。医療機関の場合ですと、そこで働く他の専門職はほぼ国家資格をもって働いているので、心理職も国家資格の公認心理師が求められます
★ここがポイント!★
公認心理師と臨床心理士の違いは、公認心理師が国家資格であるのに対し、臨床心理士は民間資格という資格の種類である。

公認心理師と臨床心理士、「なり方」の違いは?


では、公認心理師と臨床心理士のそれぞれの資格の取り方はどう違うの? 両方の資格を目指すことはできる?
「どちらの資格も、取得するためには、大学院の修士課程で心理学の所定のカリキュラムを学び、資格試験に合格しなければならないという点では共通していますが、試験を受験するための受験資格が異なっているので、注意が必要です」
それぞれの受験資格をチェックしてみよう。

公認心理師試験の受験資格を得るにはいくつかの方法があるが、高校生が目指す場合、大学と大学院の両方で心理学を学ぶことが基本。
「まず、大学の心理系学部・学科で学び、心理学に関する指定科目を修めて卒業することが必要です。

さらに大学院へ進学し、指定科目を修めると、国家試験の受験資格を得ることができます。大学と大学院で心理学を学ぶだけではなく、指定科目のすべてを修めないと受験できないので、要注意。

高校卒業後の進学先選びの際には、志望する大学の心理学部・学科に公認心理師の資格取得を目指せるカリキュラムが用意されているかどうか、確認することが大切です」

大学院についても、公認心理師の指定科目を学べるかどうかが学校選びのポイント。

公認心理師と臨床心理士、いずれかの受験資格しか得られない大学院もあるが、両方の資格を目指せる大学院が多いので、ダブル資格の取得を目指したい人は調べてみよう。

ちなみに大学で指定科目を修めて卒業後、国が認定する施設で所定のプログラムを受けながら実務経験を積み、公認心理師国家試験の受験資格を得る方法もある。ただし、該当する施設は全国に9カ所(2022年6月現在)と少ない。


一方、臨床心理士になるには次の3つのルートがある。いずれも大学で学んだ学部・学科は不問となっていることが特徴。
●第一種指定大学院を修了:修了後、実務経験なしで受験資格が得られる。
●第二種指定大学院を修了:修了後、1年以上の実務経験を積んで受験資格を得る。
●臨床心理専門職大学院(※)を修了:修了後、実務経験なしで受験資格が得られる。また、受験の際には一次試験(筆記)の論文記述試験が免除になる。
これら3種類の大学院のいずれかを修了していれば、心理学系の学部・学科を卒業していなくても臨床心理士の受験資格を得ることができる。

※臨床心理専門職大学院
「高度専門職業人の養成」を目的とした大学院の課程のひとつ。心理職の仕事現場に即した実践的なカリキュラムで、実習時間数が多く設定されているのが特徴。

☆参考
公認心理師国家試験合格率:58.6%(2021年実施※1)
臨床心理士資格試験合格率:65.4%(2021年実施※2)
※1 一般財団法人日本心理研修センター「第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)合格発表について」より
※2 公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士 資格取得者の推移」より
公認心理師についてもっと知りたい人はこちら

臨床心理士についてもっと知りたい人はこちら

病院で働く公認心理師の一日と仕事内容


それでは、辰巳さんはどんな仕事をしているのだろう?

ある一日の流れを追いながら公認心理師の仕事内容を紹介していこう。

8時30分 始業、心理室のミーティング


辰巳さんが所属している「こころのケアセンター 心理室」は、医師や看護師などから依頼を受けて、患者やその家族などの心のケアを行う部署。

そこで働く心理職は現在8名(うち1名が非常勤)で、ほぼ全員が公認心理師と臨床心理士の資格をもっている。
「公認心理師というと、うつ病やパニック障害などの心の疾患を扱う精神科で働くイメージがあるかもしれませんが、私が勤める病院の場合、精神科だけではなく、小児科、整形外科、産婦人科など、すべての診療科の患者さんに対して、必要に応じて心理面のサポートを行っています」
始業時のミーティングでは、担当している患者さんに関する申し送りをしたり、各心理職のその日の予定を確認。

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※始業時のミーティングの様子

9時 心理検査


患者の心の状態を正確に評価し、サポートの方法を考えるために、心理検査を実施。知能検査、その人の性格の特徴を調べる性格検査、認知機能の検査など、さまざまな検査を行う。検査結果は、医師や看護師など治療にあたる医療職や、患者本人にも伝える。
「病院では、医師や看護師、リハビリを担当する理学療法士、患者さんの療養生活についての相談援助にあたるソーシャルワーカーなど、さまざまな専門家が協力して、患者さんの治療やケアにあたっています。

そうしたチーム医療のなかで他の職種と連携しながら心の専門家として患者さんを支えるのが、公認心理師です。私たちが心のケアにつとめることで患者さんは治療に前向きになれて、治療がスムーズにいく場合もあるのです」

11時 デスクワーク

心理検査終了後に電子カルテに記録。電子カルテに記入された情報は、医師、看護師をはじめとする他職種に共有される。


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※電子カルテに記入する様子

12時 昼休み

13時 カンファレンス

病棟に出向き、看護師とのカンファレンス(会議)に参加。患者の病状や治療の状況、入院生活の様子など情報を共有し、治療が良い方向にいくように話し合う。取材当日には、脳神経外科・内科、耳鼻咽喉科のカンファレンスが行われていた。

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※カンファレンスの様子

「身体の病気になるということは、“健康な自分”の喪失体験です。身体に深刻なダメージを受けると、気持ちが落ち込み、心の健康も低下してしまいます。

心に問題を抱えているために、治療が滞ってしまう場合もあります。そうした患者さんに対し、どんな支援ができるのか、公認心理師の立場で考えていき、看護師と意見交換をします」
病棟では、医師や看護師から患者との接し方について相談されることも多いそう。

「泣いてばかりいる患者さんに、どういう言葉をかければいい?」、「幼児の患者さんにどんなふうに説明したら、治療のことをわかってもらえる?」、「癌の告知について、患者さん本人とご家族にどう伝えたらいいのか」など。

「患者さんの言動の背景にはどんな心の問題があるのか、アセスメント(評価・分析)をしてほしい」といった依頼もある。

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※患者のケアについて、看護師と話し合う


そうした相談に対し、心理検査やこれまでの心理面接などの結果を踏まえて、他の職種対して患者との関わり方の助言をしたり、入院している病室を訪ねて患者と直接会って話をする場合もある。

14時 心理面接(カウンセリング)

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※写真は面接のシーンを想定して撮影(相談者はモデル)



面接室にて、外来患者との心理面接。病気や治療についての悩み、周囲の人との人間関係の悩み、職場や学校生活での悩みなど、語られる内容はさまざま。

1対1で面接する。ほとんどの場合、面接は1回では終わらず、長期間、継続して行われる。
「面接は私が話すというよりも、患者さんのお話をお聞きすることが中心。毎回、患者さんから教えていただくという姿勢で取り組んでいます。

大切なことは自分の価値観を押し出すのではなく、患者さんの価値観を受け入れること。そして、対話を通じて、患者さんがどういう価値観をもつ方なのかをつかみ、問題を整理していき、どう対処していけばいいのか、一緒に考えていきます」
外来患者との面接は1日に1~2人(1回50分)。

1対1の面接のほか、複数での対話を行うグループ療法という方法もある。

15時 病棟での心理面接

入院患者の心理面接。病室のベッドサイドまで行き、面接。

また、精神科の医師、看護師とともに入院患者の病室への回診に同行する場合もある。

16時 デスクワーク

心理室に戻って報告書作成など、デスクワーク。
「検査や面接では、1歳半の赤ちゃんから90代のご高齢の方まで、幅広い年齢の患者さんと関わっています。

疾患、病状もさまざまなので、心理学だけではなく、薬や医学全般の知識を身につけることも必要。心理室には、医学関係の専門書も常備されているので、少しでもわからないことがあると、読んで調べています」
公認心理師とは?どんな資格?仕事内容や臨床心理士との違いを解説!

※薬や医学全般の知識の本が沢山

17時6分 終業時刻

患者の家族と面接の約束が入っているときなどは、19時30分頃まで残業。

土曜・日曜は休み。

心理学に興味をもったきっかけは?

「高校時代、私は児童養護施設でボランティアをしていて、進学先として考えていたのは、大学の福祉・教育系学科でした。

それが心理学系志望に変わったのは、大学のオープンキャンパスがきっかけです。

たまたまのぞいてみた教室で発達心理学の模擬授業をやっていたので、参加したのです。発達心理学は、人の心と身体が成長していく過程を研究する学問で、模擬授業のテーマは愛着形成でした。子どもの基本的な性格は育った環境や親との関係などに影響を受けやすいということを教わり、頭によぎったのは、児童養護施設の子どもたちの姿でした。

児童養護施設で暮らす子どもたちには、さまざまな事情があるのです。保護者がいない、虐待を受けているなど、大変な道のりを歩んできているので、心に深い問題を抱えている子どもが多く、感情のコントロールがうまくいかないこともあって、私自身、戸惑いながらも施設の子どもたちをサポートする仕事をしたいなと思うようになったのです。

そんな私がオープンキャンパスで発達心理学と出合い、人の心の成長を学べるのは面白いと思い、心理学系学科に進学しようと決めたのです」
オープンキャンパスを探す

公認心理師を目指した理由は?

「心理職の仕事のことを知ったのは、大学入学後です。悩みを抱える人に寄り添い、解決のサポートをするなんて、素敵な仕事だなと思いました。

心理職で活躍するには臨床心理士の資格があるほうが望ましいので、大学院に進学しなければならず、どうしようか迷った時期もありましたが、人生は一度きりだから、興味のあることを突き詰めて勉強しようと決意。

そんな頃、大学4年生になるタイミングで公認心理師の国家資格制度が始まり、『この資格を取ろう!』と、必要な科目を履修しまくりました」

就職先に病院を選んだ理由は?

「子どもの福祉の分野に進みたいという思いは続いていたので、大学院で勉強しながら児童養護施設と児童心理治療施設(※)でアルバイトをしました。

でも、実習で乳児院、学校(スクールカウンセラー)、総合病院の精神科で現場を経験したことで、考えが変わったのです。心の問題を抱えて生きづらさを感じている子どもたちを支援したいと思っていても、しっかりしたスキルがないとつとまらないと気づいたのです。

総合病院ならいろいろな患者さんと接することができるので私自身、成長していけるし、実習を通して他の医療職と連携しながら患者さんをサポートすることの面白さを知り、総合病院に就職しようと思ったのです」
※児童心理治療施設:心の問題のために心理治療を必要とする子どもたちが暮らす施設

この仕事の大変なところと、努力していることは?

「面接では、患者さんの話に耳を傾けて解決の手がかりを一緒に考えていきますが、心の問題は正解が見えにくく、『この対応でよかったのかな』と、私自身、不安になることがあります。

そんなときは、心理室の先輩に相談するだけではなく、外部の心理の専門家から面接の方法や進め方について、定期的に指導を受け、スキルアップをはかっています。外部の専門家から指導を受けるのは、『スーパービジョン』と呼ばれるもので、心理職など対人援助の現場で一般的に用いられている教育訓練です。

心の健康の分野は、新しい技法や研究結果が発表され、進歩し続けている世界なので、公認心理師は常に勉強が必要。スーパービジョンのほか、学会や外部の勉強会、研修などに参加して最新の知識を学び、努力を重ねています」

公認心理師とは?どんな資格?仕事内容や臨床心理士との違いを解説!

※心理室の先輩に相談をすることも

仕事のやりがいは?

「悩みを抱えていて生きづらさを感じている患者さんが、自分らしく生きていきやすくなる…その過程に寄り添い、サポートできる公認心理師の仕事は、大きなやりがいがあります。

退院した患者さんから、感謝の言葉をかけていただいたこともありました。『事故に遭って入院し、精神的に混乱してしまっていたのですが、辰巳さんに話を聞いてもらって、気持ちを整理することができました。そのおかげで、私は立ち直ることができています』と。私が役に立つことができて、よかったなと思いました」
公認心理師とは?どんな資格?仕事内容や臨床心理士との違いを解説!

※公認心理師は長く活躍していける職業だと話す辰巳麻子さん

高校生へのメッセージ

「心理職というと、文系のイメージがあるかもしれませんが、理系科目が得意な人でも目指せます。心という目に見えないものを数値化するという統計学の知識も必要だし、病院勤務の場合だと医療職と一緒に働くので、血液検査のデータなども理解できることが求められます。

公認心理師の国家資格を取得するには、大学・大学院修士課程で計6年間かけて学ぶ必要がありますが、自分の心を使う仕事なので、人生経験がプラスになります。年齢を重ねながら長く活躍していける職業だと思います」
公認心理師の仕事に興味が湧いてきた人は、オープンキャンパスに行って、心理学系学科の模擬授業を体験してみたり、目指せる学校の情報を集めるなど、行動を始めよう! 

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※取材協力
一般社団法人日本公認心理師協会
済生会横浜市東部病院

取材・文/小林裕子 撮影/沼尻 淳子  構成/黒川 安弥(本誌)
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