スクールカウンセラーとは? 必要な資格・やりがいは? お仕事密着レポ
学校現場で児童や生徒のカウンセラーとして活躍するスクールカウンセラー。複雑化する社会において、児童や生徒、その保護者の悩みは不登校やいじめなど多岐にわたる。
スクールカウンセラーはそんな悩みをもつ児童や生徒、保護者に寄り添い、臨床心理の専門知識を生かしてカウンセリングを行う職業だ。
目次
東京成徳大学大学院心理学研究科/応用心理学部臨床心理学科 教授
公認心理師・臨床心理士・学校心理士スーパーバイザー・ガイダンスカウンセラー
田村節子先生
主に小中学校のスクールカウンセラーとして、長年カウンセリングを行ってきた。
保護者の援助力を生かし、教師と保護者が一体となって子どもを援助する“チーム援助”を提唱。
その過程で開発した、「石隈・田村式援助チームシート」は、全国の教育現場に広がった。
主な著書として『保護者をパートナーとする援助チームの質的分析』(風間書房)、『子どもにクソババァと言われたら』(教育出版)などがある。
スクールカウンセラーとは
スクールカウンセラーの制度が始まったのは1995年。学校生活における不登校やいじめなどで悩む児童・生徒に寄り添い、心のケアを行う職業だ。
学校で児童・生徒の心のケアをする心理の専門家
スクールカウンセラーは、学校現場における、児童や生徒、保護者、教師の相談や支援を行う心理の専門家だ。心理学的支援に関する専門知識とスキルでカウンセリングを行い、心の悩みに寄り添い、早期の立ち直りやケアを促す。
いじめや不登校のほか、多様性の問題、学校外でのかかわりなど、児童・生徒の周りは大きく変化してきており、スクールカウンセラーによる児童・生徒へのケアはさらに重要度が高まっている。
※いじめや不登校などの問題は増大傾向にあり、スクールカウンセラーへの期待は大きい
「スクールカウンセラーの全国配置の試みが開始されたのは1995年度からです。
文部省(現文部科学省)が立ち上げた『スクールカウンセラー活用調査研究委託事業』によるもので、初年度に派遣されたのは全国154 校でした。配置件数は毎年増えていて、令和2年度では2万9939校(全公立小中学校)に配置されています。
事業開始の背景にあったのは、当時増えていたいじめや不登校の問題です。当初の業務は『不登校や、いじめなどの問題行動の未然防止、早期発見および対応』でした。
しかし、児童・生徒を取り巻く環境や問題は大きく変化し、悩みも複雑化しています。子どもの数が減っているのに、いじめや不登校の件数が増えているという状態です。
スクールカウンセラーの役割や配置、養成など、体制の強化も今後の課題となっています」
スクールカウンセラーの仕事
スクールカウンセラーは主に非常勤職員として、自治体から学校に派遣される。仕事内容は、児童・生徒のカウンセリングのほか、教員との情報共有やコンサルテーションなど、その業務は多岐にわたる。
※児童や生徒にとって相談しやすい環境を作るのもスクールカウンセラーの大切な仕事だ
カウンセリングから研修の開催まで多岐にわたる仕事
スクールカウンセラーの仕事は大きく分けて「児童・生徒へのカウンセリング」「保護者に対する助言・援助」「教職員に対する助言・援助」の3つがある。児童・生徒へのカウンセリングは、悩みを聞き解決に向けて一緒に考えていく。
話しやすい雰囲気を作り、難しい問題にも向き合い寄り添う姿勢が重要だ。
保護者に対する助言や援助では、児童・生徒からの相談について助言するほかに、保護者からの相談にも応じる。
不登校やいじめの不安から、学校に馴染めない、先生との折り合いが悪いなどの相談が多いという。
教職員に対する助言・援助では、悩みを抱える児童・生徒に対して、教師がどのように接していけば良いのかを、専門家の立場で助言や問題の解決に向けた協働、あるいは外部の医療機関や地域の福祉機関へつなげる業務を行う。
このほか、生徒や児童に向けた特別授業の講師や、教師に向けた研修を行うことも。
学校内の人々や保護者が、平穏に安心して過ごせるようにコーディネートすることも、スクールカウンセラーの大切な役割だ。
雇用形態は非常勤職員
各自治体の教育委員会、または私立学校の募集に応募し、採用されることでスクールカウンセラーとして活動できる。勤務先は全国の小中学校と高等学校、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校。
多多くは同一学校に1年契約・週1回1日8時間など、任用期間が定められている任期制でかつ、決まった曜日の決まった時間帯に勤務する非常勤職員だ。
文部科学省の規定では、原則として、年間35週、週当たりの配置時間は8時間以上12時間以内としている。
このため、いくつかの学校をかけもちすることも多い。
賃金体系はほとんどの場合時給制で、時給額はその自治体、学校によってさまざまだ。
複数の自治体のスクールカウンセラー募集内容を調べてみたところ、スクールカウンセラーは時給5000円程度、「スクールカウンセラーに準ずる者」は時給3500円程度となっている。
なお、「スクールカウンセラーに準ずる者」とはどういう人を指すのか、このあとの「スクールカウンセラーになるには」のところでふれているので、しっかり読んでほしい。
業務範囲は学校内のみ
スクールカウンセラーはカウンセラーであり医師ではないため、投薬や治療、診断はできない。また、保護者へのカウンセリングを行う場合は、その子どもの教育や育児に関する相談を受けることはできるが、子どもの問題以外の家庭の問題には立ち入ることはできない。
例えば、夫婦や介護の問題における子どもへの影響について相談はできるが、問題そのものについての相談は対象外となる。
さらに、カウンセリングしていた児童・生徒が担当している学校を卒業・転校した場合、スクールカウンセラーはその児童・生徒へのケアは継続できない。
継続したケアが必要な場合は、地域の支援機関や教育相談室を紹介する。
これは、スクールカウンセラーは派遣された学校に属する立場のためだ。
※学校へ派遣される非常勤のため、学校をかけもちする場合も多い
「スクールカウンセラーは、自治体の教育委員会から派遣されて学校に所属します。なので、児童・生徒の悩みを解決する手段の実行には、校長先生などその学校の許可が必要です。
例えば、その子どもにとって『ゲーム機』はお守りのようなもので、そのお守りを常に持ち歩くことで心の安定につながるとスクールカウンセラーが判断したとしても、学校の規則で『ゲーム機を持って来てはならない』とあり、許可が得られない場合は別の方法を考えなければなりません。
スクールカウンセラーは、教師や学校に向けて支援も行う独立した職業に見えますが、学校に所属している組織人でもあるのです」
スクールカウンセラーになるには
現在、「スクールカウンセラー」という国家資格はないが、スクールカウンセラーになるための必要な要件として、文部科学省が指定している資格がある。
公認心理師か臨床心理士の資格取得が必要
文部科学省が指定する「スクールカウンセラー」の要件は、下記となっている。文部科学省が定める「スクールカウンセラー」の要件は下記の5項目で、これら5項目の中のどれかを満たす必要がある。
(1) 公認心理師(国家資格)
(2)公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する臨床心理士
(3)精神科医
(4) 児童生徒の心理に関して高度に専門的な知識及び経験をもち、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、学部長、教授、准教授、講師(常時勤務をする者に限る)もしくは助教の職にある者、またはそれらの職にあった者
(5)都道府県または指定都市が上記の各者と同等以上の知識及び経験があると認めた者
また、 文部科学省では、スクールカウンセラーに加え、「スクールカウンセラーに準ずる者」の要件も規定している。
「スクールカウンセラーに準ずる者」の要件は、次の通り。
1)大学院修士課程を修了した者で、心理業務または児童生徒を対象とした相談業務について、1年以上の経験をもつ者
2)大学もしくは短期大学を卒業した者で、心理業務または児童生徒を対象とした相談業務について、5年以上の経験をもつ者
3)医師で、心理業務または児童生徒を対象とした相談業務について、1年以上の経験をもつ者
4)都道府県または指定都市が、上記の各者と同等以上の知識及び経験があると認めた者
このようにいくつかの要件が定められているが、高校生がスクールカウンセラーを目指す場合、要チェックの資格は公認心理師、臨床心理士。
公認心理師または臨床心理士の取得を目指せる学校・学科を選ぶことが、進学先選びのポイントだ。
公認心理師は心理職の国家資格で、2018年から年1回、国家試験が行われている。
一方、臨床心理士は、1988年に認定が始まったという歴史をもつ民間資格だ。
それでは公認心理師、臨床心理士のそれぞれについて、資格の取り方を紹介しよう。
☆公認心理師
大学の心理系学部・学科で学び、心理学に関する指定科目を修めて卒業。
さらに大学院へ進学し、指定科目を修めることで、国家試験の受験資格を得ることができる。
大学と大学院の両方で指定科目のすべてを修めなければならないので、要注意。
(※)大学で指定科目を修めて卒業後、国が認定する施設で規定のプログラムを受けながら実務経験を積み、公認心理師国家試験の受験資格を得る方法もある。ただし、該当する施設は全国に9カ所(2022年10月現在)と少ない。
☆臨床心理士
臨床心理士の資格試験に合格することで資格を取得できるが、受験資格を得るためのルートは次の3つがある。
いずれのルートも、大学で学んだ学部・学科は不問となっている。
●第一種指定大学院を修了する。
修了後、実務経験なしで受験資格が得られる。
●第二種指定大学院を修了する。
修了後、1年以上の実務経験を積んで受験資格を得る。
●臨床心理専門職大学院を修了する。
修了後、実務経験なしで受験資格が得られる。また、受験の際には一次試験(筆記)の論文記述試験が免除になる。
つまり、公認心理師や臨床心理士の資格を取得してスクールカウンセラーを目指すのであれば、大学院進学を視野に入れて進学先を選ぶことが重要になる。
「一部の自治体ではありますが、日本スクールカウンセリング推進協議会によるガイダンスカウンセラー、スクールカウンセラーに準ずる者として学校心理士認定運営機構が認定する学校心理士を要項に入れているところもあります。
私自身も、学校での援助に特化したガイダンスカウンセラーと、学校心理士の上位資格である学校心理士スーパーバイザーも取得しています」
経験や人間性が問われる仕事
資格を取得し、各自治体の教育委員会や私立学校の公募に応募し採用されれば、スクールカウンセラーとして業務することができる。とはいえ、スクールカウンセラーは児童・生徒へのカウンセリングだけではなく、明確な解決へと導く能力も求められる。
学校から見えない友人関係や災害後のPTSD、保護者との関係など深刻な問題にも向き合わなくてはならず、その責任は重大だ。
このため、臨床心理学の専門知識とそれに基づく分析力、見立て力や心を開かせる質問力、傾聴力はもちろん、外部の機関や学校内、自治体への的確で迅速な対応力、チームビルディングの能力も重要だ。
さらに、不登校の児童・生徒へ手紙を書く、情報共有のための報告書の作成などがあるため、文章力も必要となる。
また、守秘義務についての理解も求められる。
※児童・生徒の心の声に、本気で向き合う覚悟を
「スクールカウンセラーに限らず、福祉や医療の現場でもそうですが、避けて通れない問題に相談者の『自殺』に関連するできごとへの対応があります。
カウンセラーは、冷静に相談者と向き合い、例えばその相談者の自殺の実効性を査定しなければなりません。それほどに、責任が伴う仕事です。
本当に死にたい、死にたいほどつらいという気持ちに、本気で真剣に向き合ってくれる大人がいると知るだけでも、相談者にとって救いとなります。
そこを怖がったり動揺してしまったりすると、子どもは敏感に感じ取り、もう何も言わなくなります。取り返しのつかないことになってしまうかもしれません。
また、問題の解決には、教師や学校、家庭を説得して認知を変える必要も出てきます。仮説を立てて判断し、見立てに基づいた的確で迅速なコンサルテーションが求められます。
信頼関係を構築する力、共感力、責任感、見立て力、判断力、コミュニケーション能力などをもち、さらに命にかかわるという覚悟をもつこと。これがスクールカウンセラーに必要な素質だと思います」
スクールカウンセラーの将来性・キャリアは
当初は馴染みのなかったスクールカウンセラー制度だが、開始から27年経った現在、配置件数は3万を超えている。しかし、1校に1人のスクールカウンセラーを常駐するまでには至っておらず、浸透とまでは言い難いのが実情だ。
しかし、発達障害の理解や災害PTSDケアの重要性など、社会の意識改革の啓蒙も担うスクールカウンセラーの重要性が、見直されつつあるようだ。
社会が複雑化する現代に必須な職業
1995年当時は、いじめや不登校の対応を目的とされていたスクールカウンセラー制度。しかし最近では、ヤングケアラーなどの家庭環境、本人の発達障害や精神疾患、PTSDやジェンダーなど、問題が複雑かつ多様になっている。
当然、児童・生徒が抱える悩みも多様化しており、保護者や教師だけでは知識や理解が追い付かない場合も多い。
これらの多様な問題に対する教師や自治体への意識改革や協働などのコンサルテーション能力や、カウンセリングだけで終わらせない助言や支援を行う能力は、これまで以上に求められている。
さらに、企業や福祉の現場においても、メンタルヘルスの分野は注目されている。
スクールカウンセラーは今後も需要の増大が見込まれる職業だといえるだろう。
※福祉や企業など、学校現場以外でも注目されているメンタルヘルス分野
「いじめや不登校の件数は中学校で増え続けています。件数が増大していることもあり、スクールカウンセラーの人数や常駐時間を増やさなくては、対応が難しくなっています。
また、中学生になると思春期に差しかかることもあり、相談へのハードルが上がってしまいます。大人への反発心などから、相談を躊躇してしまうのです。
小学生のうちから『相談して良かった』という経験ができれば、中学校での相談件数や対応は、もっと良い方向になるはずです。小学校のスクールカウンセラーの常駐化なども、今後考える必要があるでしょう」
スクールカウンセラー・田村先生にインタビュー
※たくさんの小中学生の悩みに寄り添ってきた田村先生
どんなきっかけでスクールカウンセラーになりましたか?
スクールカウンセラーの制度が始まった当時はまだ有資格者が少なく、スクールカウンセラーと同様の業務経験が長いということで、自治体から声をかけられ採用されました」
スクールカウンセラーのやりがいは?
スクールカウンセラーは、そんな彼らにとって最初の相談窓口です。つらい心に寄り添う仕事ですからしんどい時もありますが、その先の笑顔が見えた時、やっていて良かったと思います。
人の役に立ちたいという気持ちは、人間がもつ本能だと思います。その『人の役に立つ』という実感を得られるというのは、カウンセラーの大きな魅力です。
また、その子どもの違う一面を引き出せた時はうれしいですね。親も先生も本人も『ダメだ』と考えていたマイナスの面が、実はプラスの側面だったと気づけた時、子どもの表情が本当に変わるんです。
そのきっかけを作ることができるというのも、この仕事のやりがいだと思います」
どんな人がスクールカウンセラーに向いていますか?
最初は、経験者や先輩カウンセラーの指導を素直に取り入れて、相談者の反応を見ながらトレーニングすることが大切です。うまくいかないと感じたら報告して、アドバイスを自分のスタイルに取り入れていく。これができる人は、カウンセラーとして伸びます。
コミュニケーション能力も非常に重要です。スクールカウンセラーは、学校や保護者の協力なしでは業務を進めることができません。特に、いじめの問題に対してはチーム戦です。
また、自分がカウンセラーに相談した経験がある、あるいはいじめられていた経験がある、という人は、相談者の悩みを自分事としてとらえることができます。悩みの深さや問題点の見極めに加え、相談者の「相談を躊躇する」ところから考えることができるのですね。
相談者の視点で考えられることも、重要な素質のひとつです」
高校生活の中で大切な勉強は何ですか?
例えば、野山や海に出かけて、温度や手ざわり、におい、音を感じてください。自分の感情の動きも意識すると良いでしょう。
また、悲しみや怒り、喜びなど、感情を揺さぶる経験も大切です。本を読む、映画を見る、芝居を見る。できれば、ブラウザやテレビではなく、映画館や舞台など生で観てほしいですね。
なぜ経験が必要なのかというと、疑似体験ができるからです。
例えば『本当に悲しい時には涙も出ないんだ』という気づき、怒りや悲しみ、葛藤などの感情があふれる時の声の抑揚や表情などの疑似体験は、スクールカウンセラーとして児童・生徒と向き合う時に、表に出さない、あるいは出せない感情を見抜く力になります」
スクールカウンセラーを目指す高校生へのメッセージ
スクールカウンセラーは、社会に求められているやりがいのある仕事です。
頭の勉強だけではなく、経験がすべて大切な勉強だと思って、高校生活を楽しんでください」
参考文献/スクールカウンセラー等活用事業に関する Q&A(文部科学省)
スクールカウンセラー等活用事業補助(文部科学省)
スクールカウンセラー・スクールロイヤーについて(文部科学省)
公認心理師(厚生労働省)
公認心理師の資格取得方法について(厚生労働省)
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