スクールカウンセラーに必要な資格は?なり方・仕事内容・収入まで詳しく解説
学校で子どもたちの心のケアをするスクールカウンセラー。心理学の専門知識や経験を生かし、いじめや不登校など、子どもたちを取り巻く問題の解決に取り組んでいる。今回はそんなスクールカウンセラーの仕事を深掘り!スクールカウンセラーとして活躍するために取得しておきたい資格や、進学先選び、仕事内容、収入、働き方など詳しく解説しよう。
目次
中村洸太先生東洋学園大学人間科学部専任講師
博士(ヒューマン・ケア科学)
公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士、産業カウンセラー
大学院修了後、心療内科・精神科クリニックや大学病院勤務などを経て、現職。
スクールカウンセラーとしての経験も豊富で、公立小学校・中学校・高等学校のそれぞれで実績がある。
そのほかにも、企業や働く人のメンタルヘルスの支援や性的マイノリティのメンタルヘルス支援、オンラインを用いた臨床活動の研究や実践など多岐にわたって活動をしている。
著書は、『遠隔心理療法の理論と実践~オンラインを活用した心理支援のためのガイド~』(平泉拓氏との共著・金子書房)など。
スクールカウンセラーとは
スクールカウンセラーとは、学校で活躍する心理の専門家。児童・生徒、その保護者、教員のメンタルサポートを行うなど、学校にかかわる人や組織に心理の面から携わる。児童・生徒の悩みは、いじめ、不登校、発達の障害、児童虐待や貧困といった家庭環境の課題など、多岐にわたる。スクールカウンセラーはそんな悩みを抱える児童・生徒、その保護者からの相談に対応し、心理学の専門知識を生かして問題解決に向けた支援を行う。
心のケアをする専門家として児童・生徒、保護者、教員をサポート
スクールカウンセラーが学校に導入されたのは1995年。背景には、学校で深刻化していたいじめや不登校の問題があった。いじめなどの未然防止、早期発見を目的に、文部省(現・文部科学省)が『スクールカウンセラー活用調査研究委託事業』を立ち上げ、初年度は全国154校に派遣。その後、配置件数は増えていき、2023(令和5)年度では3万991校(公立の小・中・高校)に配置されている。現在、いじめや不登校のほか、児童・生徒の悩みや問題行動は多様化かつ複雑化しており、虐待など家庭環境の問題が背景にあるケースもある。そうした状況とあって、スクールカウンセラーの役割は重要だ。専門性を生かして児童・生徒の心のケアを行い、保護者や教員に対してもサポートをする。
※参考『スクールカウンセラー等活用事業の予算額及び配置の推移』(文部科学省)『令和7年度スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーによる教育相談体制の充実』(文部科学省)
スクールカウンセラーの仕事内容
スクールカウンセラーは常勤職員として働くケースもあるが、多くは非常勤職員として勤務し、公立学校の場合は自治体の教育委員会から地域の学校に派遣される。主には「児童・生徒に対するカウンセリング」「保護者に対する助言・援助」「教員に対するコンサルテーション」「児童・生徒に関するアセスメント」「カンファレンス(会議など)に参加」「児童・生徒への心理教育や教員・保護者への研修会の実施」「緊急時の対応」となっている。
児童・生徒に対するカウンセリング
校内の相談室で児童・生徒からの相談に対応。児童・生徒一人ひとりの悩みに寄り添いながら、一緒に解決策を考える。
保護者に対する助言・援助
保護者からの相談にも対応。不登校やいじめの問題、学校になじめない、発達障害の問題などさまざまな悩みに寄り添い、児童・生徒の心理状態や保護者としてのかかわり方を助言する。教員に対するコンサルテーション
スクールカウンセリングは、学校教育の一環として行われるもの。児童・生徒、保護者から相談を受けたら本人の同意を得ながら、教員とも情報共有を行う。悩みを抱える児童・生徒、保護者について、教員がどのように接し、指導をしていけばいいのか、心理の専門家の立場で助言する。
児童・生徒に関するアセスメント
児童・生徒との面談や、行動観察などを行い、その子どもが抱える心理的な課題を把握する。児童・生徒の日常の様子を知るために、教員の許可を得て、授業中や休み時間の様子を見にいく場合もある。
カンファレンス(会議など)に参加
学校では、児童・生徒の問題行動に対する解決策やいじめ防止策などを協議するための会議として、教育相談委員会などが開催される。そこにスクールカウンセラーも参加し、専門家としてかかわる。また、学校外の機関との連携のサポートにかかわる場合もある。児童・生徒への心理教育や教員・保護者への研修会の実施
児童・生徒に対し、保健体育「心の健康」などの授業で、「ストレスへの対処法」などをテーマに、教員と一緒に指導するケースもある。教員や保護者に対しても、児童・生徒の心理に関する研修や講習会を実施する。研修のテーマは不登校への対応、思春期の子どもへの接し方など、子どもたちの様子を見ながら企画する。
緊急時の対応
児童・生徒の生命にかかわる重大な事故や事件、トラブル、自然災害など、予期しないことが起こる場合がある。そうした緊急事態に際し、スクールカウンセラーは心理の専門家として児童・生徒の心のケアなどの支援を行う。また、緊急時の場合には外部から心理の専門家がかわる場合もある。
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スクールカウンセラーになるには資格は必要?
スクールカウンセラーになるための必須資格はないが、スクールカウンセラーとして働くために必要な要件として、文部科学省が指定している資格がある。どんな資格が必要とされているのか知っておこう。
資格がなくてもなれるの?
「スクールカウンセラー」という名前の資格はなく、なるための必須資格はない。しかし、資格がなくてもなれるというわけではない。文部科学省が定めるスクールカウンセラーの要件のなかで、求められる資格を指定している。この文部科学省の要件を基準に、スクールカウンセラーの採用が行われているので、高校生がこれから目指すのなら資格の取得が必要だ。
文部科学省が定めるスクールカウンセラーの資格要件
文部科学省が定めるスクールカウンセラーの要件は、次の5項目。これらのなかのどれかを満たす必要がある。(2)公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する臨床心理士
(3)精神科医
(4)児童生徒の心理に関して高度に専門的な知識と経験をもち、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、学部長、教授、准教授、講師(常時勤務をする者に限る)もしくは助教の職にある者、またはそれらの職にあった者
(5)都道府県または指定都市が上記の各者と同等以上の知識および経験があると認めた者
※参考『スクールカウンセラー等活用事業実施要領』(文部科学省:平成25年4月1日、令和6年4月1日一部改正)
文部科学省ではスクールカウンセラーの要件に加えて、「スクールカウンセラーに準ずる者」の要件も定めている。「スクールカウンセラーに準ずる者」の要件は次のとおり。これらのなかのどれかを満たす必要がある(いずれも心理業務などの経験者が対象)。
(1)大学院修士課程を修了した者で、心理業務または児童生徒を対象とした相談業務について、1年以上の経験をもつ者
(2)大学もしくは短期大学を卒業した者で、心理業務または児童生徒を対象とした相談業務について、5年以上の経験をもつ者
(3)医師で、心理業務または児童生徒を対象とした相談業務について、1年以上の経験をもつ者
(4)都道府県または指定都市が、上記の各者と同等以上の知識および経験があると認めた者
現在、「スクールカウンセラーに準ずる者」の要件での募集・採用は少ない。ただし、公認心理師、臨床心理士の人材が不足している地方では、「準ずる者」の要件で募集・採用を行っている場合もある。
※参考『スクールカウンセラー等活用事業実施要領文』(文部科学省:平成25年4月1日、令和6年4月1日一部改正)
スクールカウンセラーに求められる資格と取り方
文部科学省が定めるスクールカウンセラーの要件として提示されている資格は、公認心理師と臨床心理士。実際、募集・採用の際、自治体によって異なってはいるが、公認心理師または臨床心理士を条件としている場合がほとんどなので、スクールカウンセラーになりたいなら取得を目指したい。また、公認心理師、臨床心理士のほかにも心理系資格は複数ある。スクールカウンセリングの仕事をするうえでスキルアップに役立つ資格には、学校心理士、ガイダンスカウンセラーなどがある。
公認心理師(国家資格)
公認心理師は、高い専門性をもつ心理職の人材を育てようという目的で創設された国家資格。2018年から年1回、国家試験が行われ、試験に合格して登録することで資格を取得できる。国家試験の受験資格を得るには、大学と大学院の両方で学び、心理学に関する指定科目を修めなければならない。また、大学で指定科目を修めて卒業後、国が認定する施設で指定のプログラムを受けながら2年以上の実務経験を積み、国家試験の受験資格を得る方法もある。ただし、認定施設は全国に12カ所(2025年8月現在)と現時点では多くはない。
※参考『公認心理師試験の受験を検討されている皆さまへ』(厚生労働省)・指定試験機関:一般財団法人公認心理師試験研修センター
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臨床心理士
臨床心理士は、1988年に認定が始まった民間資格。心理職の専門技能を認定する資格として歴史があり、有資格者はスクールカウンセラー制度が始まった1995年から学校に派遣されてきた。現在も多くのスクールカウンセラーが臨床心理士の資格をもって活動している。公認心理師と臨床心理士の両方の資格をもつスクールカウンセラーも少なくない。臨床心理士の資格は、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が実施する試験に合格すると取得できる。資格試験を受験するには、指定大学院または専門職大学院を修了し、所定の条件を満たしていることが必要。
※参考 主催団体:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会
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その他の心理系資格
公認心理師、臨床心理士のほかにも、スクールカウンセラーとして自己研鑽につながる心理系資格がある。どんな資格があるのか、以下に概要を紹介しよう。●学校心理士
学校生活に悩みを抱える子どもたちの援助や、教員、保護者へのコンサルテーションなどの専門技能を認定する資格。自治体によっては、スクールカウンセラーの採用要件として指定する資格の一つにしている。
資格認定試験を受験できるのは、「大学院で学校心理学に関する科目を修得して修了し、専門的な実務経験が1年以上ある者」「公認心理師の有資格者」など。
※参考 主催団体:一般社団法人学校心理士認定運営機構・日本学校心理士会
●ガイダンスカウンセラー
学校で子どもたちや保護者、教員が直面している問題に対し、心理と教育のアプローチで指導・助言を行う専門技能を認定する資格。自治体によっては、スクールカウンセラーの採用要件として指定する資格の一つにしている。
資格認定試験の受験条件は学歴やスクールカウンセリングの実務経験年数、所有している心理系資格などによって決められている。
※参考 主催団体:一般社団法人日本スクールカウンセリング推進協議会
スクールカウンセラーを目指すための進路
スクールカウンセラーを目指すための進路は、公認心理師や臨床心理士の資格取得を視野に入れて選ぶことが重要。資格試験を受験するために、大学院(修士課程)進学まで見据えて進路を検討しよう。高校を卒業してからスクールカウンセラーになるまでの一般的なステップは「大学で心理学を学ぶ」⇒「大学院に進学する」⇒「資格試験を受験し、合格する」⇒「スクールカウンセラーの募集に応募し、採用試験に合格する」という流れになる。それぞれのステップについて概要を解説する。
STEP1大学で心理学を学ぶ
スクールカウンセラーは心理学の専門知識と技術をもち、学校で活躍する仕事。大学で心理学を学ぶことが、目指すための第一歩になる。講義のほか、心理演習(心理面接のロールプレイングなど)や、現場での実習を通して基礎を固める。また、小学校でスクールカウンセラーとして働く場合、発達障害など特別支援に関する相談が多いので、発達心理学の専門知識を深めておくといいと思います」(中村先生)
STEP2大学院に進学する
公認心理師、臨床心理士といった資格を取得するには、指定された課程をもつ大学院に進学することが必要。大学院でより専門的な理論と、現場実習やインターンシップの機会を通じて実践的な技能を身につける。所定の科目を修め、修士課程を修了することで公認心理師国家試験や臨床心理士試験の受験資格が得られる(臨床心理士を目指せる大学院によっては、資格試験を受験するには実務経験が必要な場合もあるので、よく調べておこう)。
STEP3資格試験を受験し、合格する
公認心理師国家試験は年1回、3月に実施される(2025年時点)。臨床心理士試験も年1回の実施で、10月に第一次試験、11月に第二次試験が実施される。それぞれの資格試験の概要は次のとおり。
◇公認心理師国家試験
公認心理師として必要な知識と技能を問う筆記試験(マークシート方式)。
・合格率:66.9%(2025年実施)
◇臨床心理士試験
一次試験(筆記/多肢選択方式試験・論文記述試験)と二次試験(口述面接試験)が行われる。
・合格率:66.1%(2024年実施)
※参考 公認心理師試験『令和8年版公認心理師試験出題基準・ブループリント』(一般財団法人公認心理師試験研修センター)『第8回公認心理師国家試験(令和7年3月2日実施)合格発表について』厚生労働省)『臨床心理士資格取得者の推移』(公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会)『臨床心理士資格審査の実施』(同上)
スクールカウンセラーの募集に応募し、採用試験に合格する
資格試験に合格して資格を取得し、採用試験に合格すればスクールカウンセラーとして働くことができる。公立学校に勤務する場合、採用試験は自治体の教育委員会が行う。私立学校は各校で募集・採用を実施。募集情報は、教育委員会や学校のWebサイトのほか、求人サイトなどでも見つけることができる。自治体などによって、大学院修了後すぐに応募できる求人募集がある場合もあれば、経験年数が求められる場合もある。
スクールカウンセラーになるための大学選び
スクールカウンセラーになるための大学選びは、公認心理師や臨床心理士の資格取得を目指せる大学・学部学科を選ぶことが重要。さらに受験資格を得ることができる大学院への進学も要検討事項だ。「公認心理師国家試験の受験資格が得られる大学・大学院」「臨床心理士試験の受験資格が得られる大学院」をポイントに、具体的に解説しよう。
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公認心理師国家試験の受験資格が得られる大学・大学院
公認心理師国家試験の受験資格を得るには、大学と大学院の両方で心理学を学び、指定科目のすべてを修めて卒業(修了)することが必須。高校卒業後の進学先選びの時点で、志望する大学の心理系学部・学科に公認心理師の資格取得を目指せるカリキュラムがあるのかどうか、確認することが重要になる。大学選びで、中村先生が教えてくれた注意ポイントは次の3つ。
●履修制限はある?
公認心理師の資格取得に対応したカリキュラムがあっても、指定科目のなかの心理演習や心理実習には、受講できる人数に制限(履修制限)を設けている大学があるので注意が必要。演習や実習を履修できないということは、公認心理師の資格を取ることができなくなるので、要チェックだ。
履修できる条件は、規定の単位数の修得や、学業成績による基準があるなど、大学によって異なります。履修制限があるのかどうか、制限がある場合には履修できる条件など、確認しておきましょう」(中村先生)
公認心理師の働く分野は幅広く、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働の5分野にわたる。このすべての分野に実習先を設けている大学もあれば、2~3の分野に集中している大学もある。そのため、どのような実習先があるのかもチェックポイントだ。
心理学にも産業心理学や行動心理学、犯罪心理学など、さまざまな分野がある。スクールカウンセラーを志望するなら、教育心理学を専門とする先生でスクールカウンセリングに関する知見が豊富な先生から教われるかどうか、確認しておこう。
臨床心理士試験の受験資格が得られる大学院
臨床心理士試験の受験資格は、大学で学ぶ学部・学科については不問。心理学系以外の学部・学科で学んでも目指せるが、受験資格を得るには指定の大学院に進学し、所定の科目を履修して修了しなければならない。臨床心理士試験の受験資格を得るための大学院の種類は次の3種類がある。
●第一種指定大学院
修了後、実務経験なしで受験資格が得られる。
●第二種指定大学院
修了後、1年以上の実務経験を積んで受験資格を得る。
●専門職大学院
修了後、実務経験なしで受験資格が得られる。また、資格試験を受験の際には一次試験(筆記)の論文記述試験が免除になる。なお、公認心理師と臨床心理士の両方の受験資格を得られるコースをもつ大学院もある。
スクールカウンセラーの働き方
スクールカウンセラーは各自治体の教育委員会、または私立学校の募集に応募し、採用されることで業務を行うことができる。勤務先は全国の小中学校と高等学校、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校。常勤で働くスクールカウンセラーは少なく、ほとんどが非常勤職員として働いている。
非常勤職員としての雇用がほとんど
スクールカウンセラーの活動の場は学校だが、教員とは異なり、学校に毎日出勤してフルタイムで働いている常勤のケースはかなり少ない。ほとんどが非常勤職員としての雇用で、週1回(1回6時間)など、決まった曜日の決まった時間帯に勤務するという働き方だ。文部科学省が定めたガイドラインでは、一つの学校に年間35週、週当たりの配置時間は8時間以上12時間以内となっている。このガイドラインを基準にしながらも自治体の方針や、地域の状況、学校の規模によって、スクールカウンセラーの勤務時間が決められている。例えば、「週1回(1回8時間)・年間43週」、「週1~2回(1回4~8時間)・年間30週」「週1回(1回4時間)・年間35週」など勤務形態はさまざま。
公立学校のスクールカウンセラーの場合、勤務する学校の種類(小・中・高など)は、希望を出せる場合もあるが、自治体の方針や地域の実情、学校のニーズによって決められている。担当する学校の数も1校とは限らず、複数校を受け持つ場合がある。
スクールカウンセラーの勤務方式は、自治体によって次の3種類がある。
●配置校方式
配置された学校の児童・生徒、教職員、保護者に対してスクールカウンセリングを行う。
●拠点校方式
配置された学校を拠点として、その学校の周辺にある複数の学校も担当する。
●巡回方式
教育委員会などに配置され、地域にある複数の学校を定期的に巡回する。
※参考『令和5年度スクールカウンセラー等活用事業実践活動事例集』(文部科学省)
「1年契約」の任期制で働くケースが多い
「ほとんどが非常勤職員」という雇用形態とともに、スクールカウンセラーの働き方の特徴として知っておきたいのは、雇用期間が「1年契約」になっていることが多いということ。公立学校では、1年間の契約終了後、勤務評価などの条件を満たせば、採用試験を受けなくても継続勤務が可能になる場合もあるが、採用試験によらない再任用の回数は「2回まで」「4回まで」など、上限が決まっている自治体もある。
スクールカウンセラーは公務員?
公立学校で働く場合、スクールカウンセラーの身分は会計年度任用職員という非常勤の地方公務員になる。会計年度任用職員とは、地方公務員法の規定に基づき任用される非常勤の一般職。任期は会計年度に合わせて1年間(通常4月1日〜翌年3月31日まで)となっている。在職期間などの条件を満たせばボーナス(勤勉手当・期末手当)なども支給される。
スクールカウンセラーの収入
スクールカウンセラーの収入はほとんどが時給制。担当する学校に出向くのは週1回8時間、週2回(1回4時間)などという具合に、自治体ごとに勤務時間の上限が決められているため、スクールカウンセラー以外の心理の仕事とかけもちしている人も少なくない。報酬は時給制が多い
スクールカウンセラーのほとんどが非常勤職員で、報酬は時給制になっていることが多い。時給額はその自治体、学校によって異なっているが、複数の自治体のスクールカウンセラーの募集内容を調べてみたところ、時給は5000円前後、「スクールカウンセラーに準ずる者」の要件で採用された場合には時給3500円前後となっている。勤務時間は自治体や学校の方針によって決められていて、1校あたり週1回(4時間~8時間程度)、年間35日程度の勤務としているケースが多い。
東京都教育委員会が採用するスクールカウンセラーの事例をみてみよう。報酬は日給制で次のようになる。
●勤務日数
1校につき、年間38回(1回あたり7時間45分)
●日給
4万5700円
※経験年数による加算はない。
●年収
1校あたり約174万円
●その他
条件を満たせば期末手当・勤勉手当が支給される。
東京都の場合は最大3校まで担当できるので、3校のスクールカウンセリングを受け持つことができれば、年収は約520万円になる。ただ、東京都のスクールカウンセラーは、年間38回(長期休みを除き、おおむね週に1回、毎週学校にいるような回数)の勤務。この勤務日数は全国的にみても比較的多く、日給も比較的高いので、報酬も多い方であるといえる。
自治体によって、報酬額には違いがあることを知っておこう。
※参考『令和8年度東京都公立学校スクールカウンセラーの募集案内』(東京都教育委員会)
スクールカウンセラー以外の心理の仕事とかけもちする人も
スクールカウンセラーは一つの学校に週1回程度出向くという非常勤での勤務。勤務時間が少ないうえ、夏休みなどは勤務がないので、収入的に不安定な面がある。そうしたことから、学校でスクールカウンセラーとして働くほか、医療機関(クリニックや病院の精神科など)や、カウンセリングルーム、福祉施設などさまざまな職場の心理職をかけもちする人が多い。なお、スクールカウンセラーとして複数の学校を受け持つという選択肢もあるが、自治体によって担当できる学校の数が決められていて、希望通りにならない場合がある。
非常勤という働き方にもメリットはある?
スクールカウンセラーは非常勤で、雇用や収入が不安定という一面があるが、この働き方はデメリットばかりではないという。収入面もありますが、スクールカウンセラーとしてスキルの幅や専門性を高めていくために、さまざまな領域の仕事を経験することは価値があるという考え方もあります。学校現場以外で培った経験が、スクールカウンセラーの仕事の現場でも役に立つことがあるというのは、私も実感することがあります。
例えば、医療機関で働くことで医療機関の仕組みを理解したうえでの連携がしやすくなることや、幅広い精神疾患への対応の経験は学校現場でも役に立ちます。また、福祉領域で働いた経験から、学校現場で貧困やヤングケアラーなどの問題を抱える子どもに対しての支援において、手立てをより幅広く検討できる力が身につくこともあると考えられます」(中村先生)
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スクールカウンセラーの募集・採用
スクールカウンセラーの募集・採用は、公立学校の場合は自治体の教育委員会、私立学校の場合は学校がそれぞれの基準で行っている。採用試験や募集の内容を調べてみた。公立学校は自治体の教育委員会が募集・採用を行う
公立学校で働くスクールカウンセラーは、自治体の教育委員会が募集・採用を行っている。採用試験を実施する自治体は「都道府県」と「政令指定都市」で、このほか、地域のニーズに応じて、「市区町村」で募集・採用が行われるケースもある。それぞれの受験要件を満たしていれば、都道府県、政令指定都市、市区町村のすべての採用試験を受験することは可能。
スクールカウンセラーの採用試験の内容は?
スクールカウンセラーの採用試験は、書類選考と面接試験による審査が一般的。論文試験を課す自治体もある。募集情報は各自治体の教育委員会のHPで公開されているので調べてみよう。
新卒でも採用してもらえる?
自治体のスクールカウンセラーの募集では、応募要件のなかに経験年数を指定している場合も少なくない。子どもたちを取り巻く複雑な問題に対応する仕事なので経験が重視され、採用されるのも多くは経験者という。スクールカウンセラーの募集事例
自治体の教育委員会が実施するスクールカウンセラー募集の事例を紹介しよう。自治体により、応募条件が異なっていることがわかる。◆応募資格
次の(1)(2)について、いずれかの要件を満たしていること。
(1)正資格者
ア公認心理師
イ公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士
ウ精神科医
エ児童・生徒の心理に関して高度に専門的な知識および経験を有し、学校教育法第1条に規定する大学の学長、副学長、学部長、教授、准教授、講師(常時勤務をする者に限る)または助教の職にある者またはあった者
(2)準ずる者※採用校種は、公立中学校(政令市を除く)のみです。
ア大学院修士課程を修了した者で、心理業務または児童・生徒を対象とした相談業務について、1年以上の経験を有する者
イ大学もしくは短期大学を卒業した者で、心理業務または児童・生徒を対象とした相談業務について、1年以上の経験を有する者
※相談業務については、大学等卒業後の経験に限定しません。また、教員として学校に勤務している期間に行った相談等は経験年数に含みませんが、公立の教育相談センター等において専門的立場による相談は、経験年数に含むことができます。
◆選考方法
・一次選考(書類審査)、二次選考(面接試験)
◆勤務時間
原則として1日あたり7時間、年間35日勤務
◆報酬
・正資格者…1時間あたり5000円
・準ずる者…1時間あたり3000円
※スクールカウンセラーとして公立小・中学校または高等学校、中等教育学校に勤務した経験が3年に満たない者は、1時間あたりの基本報酬額から500円を減じた額とします。
※『令和8年度神奈川県教育委員会スクールカウンセラー採用候補者選考募集案内』より一部抜粋して作成。
◆応募資格
以下の(1)・(2)・(3)・(4)のすべての要件に該当する人
(1)地方公務員法第16条の欠格事項に該当しない人
(2)令和7年1月1日現在、公認心理師、または臨床心理士の資格を有する人
(3)次のいずれかの要件を満たす人
ア:令和7年1月1日現在、学校教育法に定める小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、または高等専門学校において、スクールカウンセラーまたはそれに準ずる職(準スクールカウンセラー)にあって有給での相談業務経験を1年以上有する人(ただし、勤務はおおむね1週間に1日以上とする)
イ:令和7年1月1日現在、医療、教育、福祉、産業等の分野において、有給での心理相談または心理支援業務経験を3年以上有する人(ただし、勤務はおおむね1週間に1日以上とする)
(4)学校教育および臨床心理学(カウンセリング)に関する一定の知識・理解を有し、スクールカウンセラーとして積極的に取り組む意欲のある人
◆選考方法
レポート審査、面接審査
◆勤務時間
拠点校1校につき年間280時間(1日7時間30分まで、約38回)を基本とする
◆報酬
時給5000円
※『令和7年度京都市スクールカウンセラー募集要項』より一部抜粋して作成。
スクールカウンセラーに向いている人の特徴
スクールカウンセラーに向いている人の特徴は、主には次に挙げる5つ。・相手の立場を尊重してコミュニケーションができる
・協調性がある
・論理的な思考ができる
・自分と違う価値観を受け入れることができる
・スキルアップの努力を続けていける
それぞれについて、解説しよう。
相手の立場を尊重してコミュニケーションができる
スクールカウンセラーは児童・生徒をはじめ、保護者や教員、医療・福祉の専門家など、多くの人とかかわる仕事。相手の話を聞く力、自分の考えを適切に伝える力を備えていることはもちろん、自分の意見だけを押し通すのではなく、立場が異なる相手の意見を尊重しながらコミュニケーションができる人に適性がある。協調性がある
スクールカウンセラーは、非常勤の専門職という立場で勤務するが、学校組織の一員として学校全体のために働く意識をもつことが必要。不登校などさまざまな問題を解決するには、教員たちと連携して取り組む姿勢が求められるので、スクールカウンセラーの適性として協調性があることが不可欠になっている。
論理的な思考ができる
相談者が抱える不安や悩みはさまざまで、そうした感情に向き合うのがスクールカウンセラー。その対応方針を考える際には専門家として客観的な視点をもち、論理的な思考で問題に対応していく姿勢も必要になる。自分と違う価値観を受け入れることができる
カウンセリングでは、悩みや問題の本質をつかむために、相手が安心して話せるような環境作りが必要。そのためにも相手の考え方や価値観を尊重することが大切で、スクールカウンセラー自身の価値観と違っていても、相手を否定せず、ありのままの気持ちを受け入れる姿勢が求められる。文化祭などが嫌だという子どもの感情を受け入れ、じっくりと相手の話に耳を傾けます。そうした対話のなかから好きになれない原因がわかってくることがあります。いじめや友達がいないなど、これまで表に出てこないことが見えてきて、そこから解決の糸口をみつけだしていくのです」(中村先生)
スキルアップの努力を続けていける
スクールカウンセラーは、学校教育を取り巻く状況の変化や、複雑化している子どもたちの悩みに対応する仕事であるため、スキルを高めていかなればならない。スクールカウンセリングの分野に精通した専門家(スーパーバイザーと呼ばれる)から指導を受けたり、学会や関連団体が主催する研修、勉強会に参加するなど、継続的なスキルアップの努力が必要だ。スクールカウンセラーを目指せる学校を探す
スクールカウンセラーのやりがい
スクールカウンセラーは雇用や収入的に不安定という一面があるが、多くのスクールカウンセラーはやりがいを感じながら働いているという。どんなやりがいがあるの?
つらいことがあっても誰にも話せない、話してもわかってもらえない…一人で苦しんで『死んでしまおうか…』と思い詰めてしまう子どももいます。そんな子どもにとって、『自分の話を聞いてくれた大人がいた』『自分のことを考えてくれた大人がいた』という経験をすることは、その子がこれからの人生を頑張っていくためにも大切だと思うのです。スクールカウンセラーがそういう役割を果たせる大人でいられることに、やりがいを感じています。
私がカウンセリングをした生徒が楽しそうに学校生活を送る姿を見たり、大学に進学して充実している様子を知らせてくれることがあり、とてもうれしいです」(中村先生)
スクールカウンセラーの将来性は?
いじめや不登校への対応を目的に、1995年に始まったスクールカウンセラー制度。創設後もいじめや不登校、校内の暴力行為などの発生件数は増え続け、児童・生徒の自殺も跡を絶たない。さらにはヤングケアラー、虐待などの家庭環境、貧困、児童・生徒の発達障害や精神疾患、ゲーム依存、性に関する悩みなど、児童・生徒が抱える問題が多様化かつ、深刻化している。こうしたさまざまな問題に対応するために、スクールカウンセラーの役割はますます重要になっている。専門性の高いスクールカウンセラーのニーズは今後も増え続けていくだろう。スクールカウンセラーの収入や雇用の安定、常勤化を進める動きも出てきているので、今後の情勢に着目していきたい。
スクールカウンセラーのキャリアパスは?
スクールカウンセラーは、学校現場で経験を積みながらスキルアップを重ねていくことで、新たな活躍の道を切り拓いていくことができる。そんなキャリアの道筋として、次のような進路がある。●スーパーバイザーとして指導・統括する立場になる
一定以上の経験年数や実績があれば、スーパーバイザーとして活躍することも可能。スーパーバイザーとは、スクールカウンセラーとしての専門性を高めるためのスーパービジョンを提供するという、熟練した専門家。一部の自治体では、スクールカウンセラーのほかに、スーパーバイザーの募集・採用も行っている。
また、東京都の場合は、5年以上のスクールカウンセラー経験者が応募できる「シニア・スクールカウンセラー」という職務もある。シニア・スクールカウンセラーは、スクールカウンセラーが行う日常のカウンセリング業務等に関する助言や新規に配置されたスクールカウンセラーへの支援、スクールカウンセラー同士が情報交換等を行う連絡会の企画・立案などを行っている。
●研究者や大学の教員になる
スクールカウンセリングを現場から支えるだけではなく、調査や研究を行う研究者になる道や、大学でスクールカウンセラーについて教える教員になるという道もある。その方向に進みたいなら、大学院の博士課程で学び、博士号の学位を取得しておきたい。
スクールカウンセラーを目指したい高校生へ
スクールカウンセラーの仕事に興味がある高校生に向けて、中村先生からメッセージをもらった。高校生の皆さんにはまず自分自身のことを知って、自分自身をケアすることを心がけてほしいと思います。自分の行動や性格などを考えて、どんなことに生きづらさを感じるのか、好きなことは何か、何を大切にしたいのかなどを知り、自分らしく、生きやすく過ごすことに意識を向けてみましょう。そのためにも、いろいろなことに興味をもって、高校生活を楽しんでくださいね」
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心理学とはどんな学問?研究内容や学び方などを解説
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取材・文/小林裕子 監修・取材協力/中村洸太・東京学校臨床心理研究会(一般社団法人東京公認心理師協会) 構成/寺崎彩乃(編集部)
※この記事は2025年9月に取材した記事です。














































