保健師とは?仕事内容、種類、看護師との違いを解説!現役保健師の1日のスケジュールを紹介
保健師という職業があることは知っていても、どんな仕事をするのか、よくわからない……そんな人って多いと思う。保健師はさまざまなところで働いていて、高校生のみんなが住んでいる地域の役所や保健所でも活躍している。
感染症の予防や対策の分野でもなくてはならない存在なんだ。
そんな保健師の仕事をしっかりと知るべく、神奈川県横浜市緑区役所で保健師として働く大沼香穂さんにお話を聞いた。
大沼香穂さん
2022年3月に看護系大学を卒業し、同年4月に神奈川県横浜市に保健師として入庁。
緑区役所の福祉保健センター・こども家庭支援課こども家庭支援担当に勤務する。
ちなみに上の写真で大沼さんが手にしているのは、緑区のキャラクター「ミドリン」のぬいぐるみ。
目次
保健師の仕事とは
保健師とは? 看護師とどう違う?
保健師とは、「保健師助産師看護師法」という法律で定められた看護職のひとつ。この法律のなかで、「厚生労働省の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。」と定義されている。
看護師の仕事との違いを踏まえて、大沼さんがこう教えてくれた。
療養生活のお世話をしたり、診療の補助をします。
それに対して、保健師は人々が病気にならないよう、病気を予防したり、病気が悪化しないよう健康維持をしたりするための保健活動をするのが仕事です。
健康相談や健康づくり教室の企画・運営、健康診断の実施、健診の結果を受けての保健指導など、人々が健康に暮らしていけるよう、さまざまな支援を行います」
保健師の活躍の場は?
活躍の場は、大きく分けて次の4種類がある。●行政保健師
都道府県や市区町村の役所、自治体が管轄する保健所や保健センターなどで働く保健師は、総称して行政保健師と呼ばれ、乳幼児から高齢者まで、地域住民の健康を守るための保健活動を行う。
保健・健康に関する政策に関わる保健師もいる。
ちなみに現在、就業する保健師の約72.7%が行政保健師(※)。
(※)出典:「令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)」(厚生労働省)
●産業保健師
企業の健康相談室や医務室などに勤務し、従業員の健康を管理するのが産業保健師。
健康相談やメンタルヘルス対策、職場環境の調整などに携わる。
●学校保健師
学校(小学校、中学校、高校、大学、専門学校など)の保健室に勤務し、児童・生徒・学生や教員、職員の健康を管理する。
●病院保健師
病院や診療所など医療機関に勤務。
退院後の療養生活についての助言や指導、健康診断対象者に対する健康指導、病院内で働く医師や職員の健康管理、感染症対策室の運営などを行う。
保健師になるには
看護師と保健師の国家資格が必須
保健師になるには、看護師と保健師のそれぞれの国家試験を受けて合格し、両方の国家資格を取得することが必須。つまり、高校卒業後の進学先選びでは、2つの国家試験の受験資格が得られるような学校に進学する必要がある。
大きく2つのルートがある。
1)看護系大学か短大、専門学校で学んで看護師国家試験に合格。
その後に所定の保健師養成学校(大学院修士課程、短大専攻科、専門学校など)で1年以上学んで保健師国家試験に合格する。
2)保健師養成課程のある看護系大学か4年制専門学校で学び、卒業と同時期に看護師と保健師の両方の国家試験に合格する。
☆参考データ
・保健師国家試験合格率:89.3%(2022年2月実施)
・看護師国家試験合格率:91.3%(2022年2月実施)
出典:厚生労働省「第108回保健師国家試験、第105回助産師国家試験及び第111回看護師国家試験の合格発表」
進学先選びの注意ポイント
大沼さんは、保健師養成課程のある大学の看護学科で学んだ。でも、全員が希望するコースに進めるわけではありません。
保健師を希望するなら3年生までに必要な単位を履修し、さらに選抜審査に合格しなければなりません。
私は選抜審査をクリアして保健師コースで学ぶことができ、看護師に加えて保健師の国家試験の受験資格を得ることができました」
その一方で、3年生までに所定の単位を履修していれば保健師養成課程で学べる大学もあれば、4年間で看護師と保健師の統合カリキュラムを学べる大学や専門学校もある。
進学先を検討する際に注意してほしい。
また、最近では看護師として働いた後に保健師養成課程のある看護系大学に編入したり、他の業種の仕事を経験してから看護系大学に入学して保健師に転職する人も増えているという。
※大学での4年間は、看護師養成課程の実習、保健師コースの実習、看護師・保健師の両方の国家試験の受験勉強、地方公務員試験の勉強など、保健師をめざして頑張った日々だった
学校保健師をめざす場合には
公立の小学校・中学校・高校の保健室に勤務する場合は、看護師、保健師の資格だけではなく、養護教諭免許状が必要になるので、要注意。養護教諭の免許には一種免許、二種免許、専修免許(大学院修了相当)がある。
一種免許は看護系大学や教員養成系大学で所定の単位を、二種は短大で所定の単位を修得することで取得できる。
いずれにしても、学校保健師になりたい人は、志望校に養護教諭養成課程があるかどうか、確認しよう。
なお、保健師の資格をもち、大学で所定の科目を履修していれば、各都道府県の教育委員会に申請することによって、二種免許が得られる。
保健師の年収
厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、保健師(平均年齢41.9歳、平均勤続年数8.1年)の月収は32万2400円(※)となっている。年間賞与(ボーナス)は92万7500円。年収に換算すると、479万6300円。
この賃金構造基本統計調査は主要産業で働く人たちの賃金を調査するもので、調査対象としている全産業の一般労働者の平均月収は30万7400円、年間賞与が87万5500円。
保健師の年収は全産業の平均よりも高いという結果が出ている。
(※)基本給、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、超過労働給与額などが含まれている。
行政保健師にインタビュー!
保健師になろうと思ったきっかけは?
母が病院で看護師をしていたので、私も看護職には親しみを感じていたのです。
看護職のことを調べていくなかで、『保健師は病気になってからではなく、病気の予防や健康づくりに関わる仕事』と知って、いいな!と思ったのが始まりです」
行政保健師になる道を選んだ理由は?
ある市役所での保健師実習を経験したことで、心が動きました。
実習先の市役所で働く保健師さんたちが、地域で暮らす人たちのために頑張っている姿を目の当たりにしたのです。
窓口にこられた方の健康相談に親身になって対応していたり、乳幼児のいる家庭を訪問して熱心に相談援助に取り組んでいたり、エネルギッシュに働く保健師さんたちを見て、私もこんなふうに働きたいと思いました。
また、地域には赤ちゃんから高齢者まで、いろいろな方が住んでいて、その分、さまざまな分野の保健活動を経験できると感じ、行政保健師になろうと決めたのです」
神奈川県横浜市で働く行政保健師を志望したのは?
また、横浜は人口約370万人と大きな都市で、18の行政区があります。
およそ3年~6年に1回くらいのペースで配属される区や課の異動があり、さまざまな区の業務に取り組めて楽しそうだなと思ったのです。
それと、人材育成のしくみが整っていて、経験を重ねながら専門職としてキャリアアップしていける環境になっている点にも魅力を感じました」
行政保健師の仕事内容は幅広い
念願かなって横浜市職員(保健師)採用試験に合格し、入庁した大沼さん。約600人の保健師が、さまざまな部署で働いている。
保健師の配属先は、「市役所(本庁)」と、「区役所」に大別される。
それぞれについて、主な業務を紹介しよう。
●市役所(本庁)に勤務する保健師の場合
横浜市全体の保健・医療・福祉に関する施策立案を行う。
例えば、次のような業務に携わる。
◇市民が安心して出産・育児ができる環境をつくる
◇高齢者や障害者の福祉保健政策
◇救急・災害時の医療体制づくり
◇新型コロナウイルスなど感染症対策
◇在宅医療や地域医療計画の策定
このほか、水道局や消防局などに所属し、各局で働く職員の健康づくりや病気の予防に取り組む保健師もいる。
また、児童相談所、「こころの健康相談センター」といった、横浜市が管轄する専門機関でも保健師は活躍している。
●区役所に勤務する保健師の主な業務
横浜市は18の行政区があり、保健師は各区役所の福祉保健センターに配属され、地域密着で保健活動を行う。
福祉保健センターは、次の3つの課からなる。
◇福祉保健課
地域の住民や団体と協働して、地域福祉保健計画をつくったり、地域住民の健康づくり活動を進める。
結核や新型コロナウイルスなど感染症の予防・対策、健診、生活習慣病などの予防、相談への対応といった業務も担う。
なお、区の施設で結核検査やHIV検査などを行う場合には、保健師が採血をする。
◇高齢・障害支援課
高齢者、障害者、難病患者を対象に支援。
住み慣れた地域でできる限り自立して、健康に暮らしていけるよう、家庭訪問などの個別訪問や、認知症・介護予防に関する講座の企画・運営、相談への対応などを行う。
◇こども家庭支援課
大沼さんが所属しているのはこの課。
緑区内の子育て家庭を対象に、乳幼児健診や家庭訪問などの母子保健事業、子育て支援事業、虐待防止などに取り組んでいる。
※こども家庭支援課で電話相談に対応している大沼さん
ある1日の流れと仕事内容
大沼さんはどのような仕事をしているのだろう?ある1日をみてみよう。
●8時30分
朝礼
その日の予定の確認や連絡事項の共有
●8時45分
家庭訪問や面談などの記録の確認、メールチェックなど
●9時~
家庭訪問
生後3ヵ月くらいまでの赤ちゃんのいる家庭を訪問。
体重測定などをして成長発達の確認をしたり、子育てのアドバイス。
例えば、ミルクの量のや夜泣きのこと、赤ちゃんが風邪をひかないようにするための服の着せ方など、たくさん聞かれます。
コロナ禍でママ友などお友達と対面で会いづらい状況なので、保護者の方はネットの情報に頼るしかなく、不安を感じているのです。
そうした質問に対して、当たり前のことですが、正確な情報をお伝えするよう心がけています。
赤ちゃんの健康や成長にかかわることなので、責任重大です。
そのため、電話で訪問のアポイントを入れる際に『質問したいことがありますか?』と、保護者の方からあらかじめお聞きしておき、お答えするべき情報をできる限り、整理しておくようにしています。
少しでもあやふやなことがあれば、資料をあたって調べたり、先輩保健師からアドバイスをもらっています」
※家庭訪問では体重計や、胸囲や頭囲などを測るメジャーなどを持参
●10時~地域ケアプラザで「赤ちゃん教室」を開催
「赤ちゃん教室」とは0歳児(第一子対象)と保護者、妊婦を対象に、親子がふれあえる遊びや子育て情報の提供、育児相談などを行うというもの。
昼休み
●13時~
乳幼児健診
問診、結果説明、個別相談に対応。
※乳幼児健診の問診の様子。4か月児健診では母乳やミルクの頻度、便通の状態などについて質問。おもちゃを使って、音に反応するか、目でものを追うかなどの確認もする
●16時~家庭訪問や乳幼児健診などの記録の作成
区役所窓口や電話相談の対応
※記録の作成は重要な仕事
●17時15分退勤
☆このほかに大沼さんが担当している仕事
◇母子健康手帳の交付
医療機関で妊娠の診断を受けたら、区役所に妊娠の届け出をする。
その届け出の際に妊婦と面談し、母子健康手帳(※)を交付するのも大沼さんの仕事。
(※)母子健康手帳とは、妊娠中及び出産時の母子の状態、子どもの成⾧・健康状況を、小学校入学時まで継続的に記録するための冊子。市区町村で交付する。
※母子健康手帳(写真中央)のほか、緑区の保育施設や医療機関、子どもと出かけられる場所などをまとめた「みどり子育て応援ガイドブック」を子育て家庭に配布
◇プレパパ・プレママ講座を開催
これから子育てをする妊娠中の女性と、父親になる人を対象に、沐浴実習(新生児のお風呂の入れ方)や、胎児の成長、出産後の生活についての講習。
助産師と組んで実施している。
※沐浴実習でプレパパに指導する大沼さん
◇母親(両親)教室の講師出産を間近に控えている人(初産の人)を対象にした講座で、妊娠中の生活や出産の準備と経過、産後の生活などを講習。
全4回の講座で、助産師や保健師が講師をつとめる。
※母親(両親)教室で講師をつとめる
◇子育て支援事業の運営・管理子育ての悩みをもつ保護者に対し、区内の先輩ママが子育て支援者として相談にのったり、情報交換を行うという子育て支援事業を担当。
大沼さんは子育て支援者の定例会にも参加し、子育てしやすい地域づくりを一緒に考える。
保健師の役割とは
親子が生活している場へ出向き、一人ひとりに合わせた支援を行うために、保護者の方が感じている育児の不安や悩みにしっかり耳を傾けることが大切。
『赤ちゃんが便秘気味』『赤ちゃんが泣き止まない』といった相談を受けたときなど、病気がひそんでいないかという視点に立って考え、そのまま様子をみていていいものなのか、すぐにお医者さんを受診するのがいいのか、判断して的確な助言をするのが保健師の仕事です。
必要に応じて、地域の医療機関の情報も提供します。
また、地域住民や関係機関と協力・連携しながら、安心して子育てができる地域づくりに取り組みます」
ここで、保健師の仕事を定めている「保健師助産師看護師法(※1)」ができた1948年当時にさかのぼってみる。
日本は第2次世界大戦後の食糧不足の時代で人々の健康状態も良好ではなく、生まれてすぐに命を落とす赤ちゃんも多かった。
1948年には、1年間に16万5400人の乳児(生後1歳未満)が亡くなっていて、1000人に対する死亡率は約61.7だった。
それが72年後の2020年には乳児死亡数は1512人、死亡率(対1000人比)も、1.8(※2)と、世界的にも乳児死亡率が低い国になっている。
戦後の医療保険制度の整備や医療技術の進歩もあったけれども、地域の保健師の活動も乳児死亡率を下げる力になったという。
(※1)当時の法律名は「保健婦助産婦看護婦法」
(※2)出典:「令和2年人口動態統計調査(確定数)の概況」(厚生労働省)
仕事のやりがい
今、親と子の問題のひとつに、子育ての不安からくる児童虐待の問題がある。それを未然に防ぐことも、保健師の役割だ。
例えば、育児の悩みを抱えてしまっているのに、お父さんは仕事が忙しくて育児に参加できないし、実家のご両親も遠方にいて、頼れる人がまわりにいないというお母さん……つらいことがあっても育児を頑張っている方を、一人でも多く支援したいと思っています。
でも、自分から助けを求めることができない方もいるので、家庭訪問や健診でお会いしたときなどのSOSサインを見逃さないようにすることが大切。
たやすいことではありませんが、タイミングをみはからって声をかけ、子育て中の思いや困っていることなどを聞きながら、私も一緒に考え、解決していけるよう支援します」
Q.やりがいを感じるのはどんなとき?
「家庭訪問のとき、育児に自信がなくて不安そうにしていたお母さんに『赤ちゃん教室にいけば、子育て相談会もあるし、親同士でお話する時間もあるので、お友達もできますよ』とお伝えしたところ、参加してくれたのです。
赤ちゃん教室で楽しそうにしている母子の笑顔をみて、私が役に立ててよかったなと思いました。
また、赤ちゃん教室や家庭訪問でお会いしている親子が乳幼児健診にきて、『大沼さん!』と声をかけてくださるときもあって、嬉しいです。
今はまだ保健師として1年目の駆け出しですが、地域の人にとって身近で頼れる保健師になれるよう、頑張りたいです」
※保健師の仕事について、生き生きと語ってくれた大沼さん
保健師に向いている人は?
これまで会ったことのない人の家も訪問するので、初対面の相手であってもコミュニケーションをとることができる人に向くと思います」
保健師の仕事をめざす高校生へのメッセージ
それぞれの人の生活や健康状態を伺い、適切な支援をしていくには、相手との信頼関係を築くことが欠かせません。
そのためには、保健師は人としての魅力を身につけることが大事だと思うのです。
実際、職場の先輩保健師は、魅力的な人たちばかりです。
魅力的な人になるというと、難しそうに感じるかもしれませんが、これまで経験してきたことのすべてがその人の魅力になると思うので、高校生のみなさんは好きなことを思いっきり、やってほしいです。
部活やボランティア活動などで楽しんだり、悩んだり、いろいろなことを経験し、感じることがその人の魅力につながると思います」
※取材協力
横浜市緑区役所福祉保健センター こども家庭支援課
横浜市健康福祉局 福祉保健課
取材・文/小林裕子 撮影/沼尻 淳子 構成/寺崎彩乃(本誌)
※この記事は2022年8月に取材した記事です。
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