防災に欠かせない地球のお医者さん 「地質調査」の仕事とは?
みんなも知ってのとおり、日本は世界的にも自然災害大国。防災関連の仕事に興味をもっている人も多いのでは?
地震、火山、台風、洪水などの自然災害が起こった時に、被害が少なくなるように備え、みんなの命や暮らしを守るために作られるのが「防災計画」。
そんな防災計画に大きくかかわる仕事の一つが「地質調査の技術者」である。
「地盤を調査する人」と言うと、ビルやトンネルの工事現場でみかける体格の良い男性の作業員をイメージするだろう。しかし近年は女性の技術者も増えている。
地質調査の技術者として働く大村さつきさん(30歳)もその1人。地盤調査といっても、市街地、山、川、海底など、調べる範囲は広い。大村さんは、岩などが多く固い地盤の調査をメインとし、みんなが社会科の授業で見る地形図や地質図、自治体が発行する土砂災害ハザードマップ(起こる可能性のある災害の影響範囲や避難場所等を記した災害予測地図)作成のための調査をしている。
■大学では地質科学を専攻、はじまりは化石へのあこがれ
大村さんの地質への興味は小学生時代がきっかけ。もともとは、化石の発掘にあこがれていた。
「親に連れて行ってもらった博物館で化石がカッコいいな、と思って。そこから化石だけじゃなく、面白い形の石を集めたり、図鑑もよく見ていました」
高校時代も、現在ジオパーク(地球活動の遺産を主な見所とする自然の中の公園)となっている地域に住んでいたこともあり、自然が長い年月をかけて生み出す鉱物や化石への興味は尽きることがなかった。そして大学で理学部地質科学科に進学。
とはいえ、地質学の知識を生かせる職業があるとは思っていなく、将来は大学院の研究室に進むか、学校の先生、またはまったく関係ない仕事に就くのも仕方ない、と考えていた。
しかし、大学で「地すべり」の現場の調査を見学する実習があり、“地質調査技術者”の存在を知った。そこから、地質調査技術者になることを目指して就職活動をし、東京タワーの地盤工事をしたことでも知られる、業界最大手の現在の会社に就職した。
入社後に担当したのは、トンネルや道路工事のために地面を深く掘って地盤の状況を調べるボーリング調査の仕事。技術者といっても、大村さんの場合は現場で実際に機械の操作をするわけではなく、現場スタッフに調査の進め方について指示を出し、ボーリングコア(ボーリングで抜き取った地層の標本)を観察し、現場での試験や周囲の踏査(実際に現地を歩いて地表面の様子を地形図に記入すること)結果を合わせて、地質学的な判断をするもの。そのため、業務の半分は報告書作成のオフィスワークだ。
発注を受けたら、調査をどのように進めるかを計画し、結果をまとめ、現場の地質データ(土の柔らかさや固さ、成分、地層の内訳など)から、その土地に建てようとしている構造物や対策工(地滑りなどを防止する施設)の設計時に必要となる数値の検討をして、資料にまとめる。そこから大学で学んだ地質学の基礎に加え、会社にあるデータベースや文献も調べて、どんな対応をすればその場に安全なトンネルや橋を造れるのかをまとめていく。
■防災対策と地質調査のかかわりをわかりやすく伝えるために
大学時代の研究との違いを感じるのは、コミュニケーションの大切さ。発注者が求めていることをしっかりとらえる力と、どうやって信頼されるかということが求められる。
地質調査の現場は、山や崖に近い住宅地の場合もあるため、その土地に暮らす住民たちへもしっかりと説明しなくてはいけない。地元での説明会では、専門的な知識はない住民に調査の内容や目的、結果を説明する。専門用語を言い換えたり、資料にも略図や、実際に発生した土砂災害の現場写真などを交えて、わかりやすく伝えるための工夫は欠かせない。
大村さんが、防災の分野を担当して5年。その間にも、日本では多くの自然災害が起こった。今では住民向けの説明会でも「調査を元にハザードマップを作成します」と言うと、歓迎されることが多く、防災への意識は年々高まっていることも肌で感じているという。
日々変化する地盤の状態を正確に把握して、災害に耐えるための薬とも言える防災対策を示す。そんな役割から大村さんの仕事は「地球のお医者さん」と言われることも。みんなの安全・安心な暮らしに貢献する、やりがいに満ちた仕事だ。
※大村さんが働く応用地質株式会社については公式サイトにて更新中
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