高校生のうちに読んでほしい!良質な小説9選【ミニコラム】
受験に部活動に塾にと忙しくてなかなかじっくり腰を据えて本を読むひまがないという人もいると思います。移動中や寝る前など少しの隙間時間を見つけて、小説を読む癖をつけておくと、大学に入ってレポートを書く際に文章への抵抗がなくなり役に立ちます。高校生の時期というのは感受性の強い時期です。今回は、高校生のうちに読んでほしい小説をご紹介します。
三浦しをん「風が強く吹いている」
"走るために生まれてきたような男"大学1年生・蔵原走(カケル)は、ひょんなことから4年生の清瀬灰二(ハイジ)に魅入られ、寄宿先のボロアパート"アオタケ荘"の住人と一緒に箱根駅伝を目指すことに…。といっても、灰二と走以外は、運動音痴のマンガオタク、25才のヘビースモーカー、小心者のクイズマニア…と陸上なんてやったことない人ばかり。こんなメンツで本当に大丈夫? ありえない話なのに、個性的なアオタケの面々の心の葛藤や光がうまく描かれていて、読む手が止まらなくなります!終わりに近づくごとに、この世界が終わってほしくない…!と願いながら読んでいたい一作です。
三島由紀夫「金閣寺」
金閣寺にあこがれ続けていた青年はなぜ火を放つに至ってしまったのか。実際の事件をベースに書かれた三島由紀夫の傑作。吃音を気にして、常に人に、世の中に対してコンプレックスを抱いていた彼の悲しいこころの闇が、三島独特の美しい文章でとつとつと語られます。 破滅に向かうことを知りながらそれでもぐいぐいと引き込まれてしまうのは、私たちの奥深くに共鳴するような何かが隠されているからなのでしょうか。
湊かなえ「告白」
松たか子主演で映画化もされた"イヤミス"の女王・湊かなえの作品。夏のある日、4歳の少女が小学校のプールに転落して死亡する。これは果たして事故なのか?物語は主人公の独白形式で進められます。そして次々と明かされていく真相に、読む手が止まりません。"悪"って、なんなのか?はじまりがはじまりだけに、けして良い読後感とは言えませんが、それでも面白かった!と思える小説です。
町田康「パンク侍、斬られて候」
時代設定は江戸時代。浪人の侍が就職のために「腹ふり党という宗教団体が、この藩を滅ぼそうとしている」とウソをつくところから話は始まります。時代劇、とはいえコトバも内容も完全に現代劇。しかしこれはこれで違和感のない町田節。独特の文体とリズム感がなんとも癖になり、次へ次へと読み進めていくうちにどんどんスケールの大きい話になってきて…!?この続きはぜひ小説でお確かめください。
曽野綾子「神の汚れた手」
産婦人科医の話です。といっても、ありきたりな感動押しつけ系ではなく、かなりリアルに迫っている小説です。「いのちを生み出すこと」と「亡きものにすること」にかかわっている、重いテーマなのにもかかわらず、主人公の野辺地医師のあっけらかんとした性格ゆえか、とても読みやすく描かれています。彼にとっては"日常"、だけれども微かにとまどいも見せる。そんな彼の"ゆれ"が、物語に深みと面白みを与えています。かなり専門的な内容にも踏み込んでおり、この小説を書くにあたっての曽野綾子の本気が感じられ、面白いです。
筒井康隆「家族八景」
人の心の声が聞こえる少女・七瀬が、住み込みの家政婦として行く先々の家庭で起こる出来事を描いた短編集。家族といえどもそれぞれが隠し持っているドロドロとした想いが渦巻いて織りなす人間模様はとても興味深いです。シニカルな目線で人間を描く筒井康隆ならでは!テレパス使いってなんだかあこがれちゃいますが、実はそんなに良いものでもないのかも…。この作品に続く「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」とともに「七瀬シリーズ」として幾度となく映像化もされている本作。一話完結ずつで、読みやすい短編集なので、これを機会に筒井康隆ワールドへの一歩を踏み入れてみてはいかがでしょう。
有吉佐和子「恍惚の人」
子育てもひと段落し、法律事務所で働くバリバリのキャリアウーマン・昭子。働くことに喜びとやりがいを見出していたある日、同居の義母が亡くなり、その日を機に義父がおかしな行動を取るようになっていき…。女性のキャリアと、痴呆老人の介護問題に真っ向から向き合った問題作。1972年に書かれた小説なのに、まったく古さを感じさせないのは、有吉佐和子の力量によるというだけでなく、このテーマが普遍的なものだからなのでしょう。重いテーマなのに話のテンポが良くサクサクと読み進められます。気づくと昭子に感情移入しており、一緒に泥沼にはまっていくような気分を味わえます。小説の底力を感じさせてくれる一冊です。
夏目漱石「こころ」
「向上心のないやつはばかだ」という台詞で有名なこの作品。この作品は、一部の高校の教科書にも掲載されています。若者ならではの友への蔑みや羨み、下宿先の女性への恋心など複雑な人間の心情が描かれています。教科書内では一部のみ読むことができますが、全文を読むことで初めて登場人物の感情の移り変わりがわかる作品です。高校を出て、大人になった後にもう一度読み返すとまた違う読後感を得られます。
辻村深月「スロウハイツの神様」
直木三十五賞を受賞した、辻村深月の「スロウハイツの神様」も自分に刺激をくれる素敵な小説です。「スロウハイツ」というシェアハウスに住む脚本家、漫画家、小説家、画家などのクリエイターたちがお互い切磋琢磨する姿を描いた作品です。ものづくりに対する苦悩を抱えながら激しい熱量で目標に向かい努力をする登場人物たちの姿を見ているうちに自分も何かしなくてはと背中を押されます。目的は違えど切磋琢磨する登場人部たちをみることで、受験に向かっていくモチベーションアップするのにおすすめです。
忙しい?そんなときこそ本を読もう!
受験や遊びとで忙しい高校生だからこそ、目の前のことから少し離れて、リフレッシュも兼ねて小説を読んでみてはいかがでしょうか。小説を読むことによって場面の想像力が高まったり、登場人物に感情移入をすることで新しい視点を持ったりすることができます。今回は純文学と現代小説の2冊を紹介しましたが、もちろんこれ以外にも優れた小説はたくさんあります。ぜひ受験勉強の合間を見て、いろいろなジャンルの小説に挑戦してみてくださいね。