~Vol.2~ G7伊勢志摩サミットの裏側を覗いてみよう。

先ごろ、閉幕されたG7サミット。
 
8年ぶりの議長国となった日本で、サミットの準備に携わった、外務省の原琴乃さんの話から、サミットに関するトリビアや成果を作り上げていく仕事についてご紹介します。
 
さあ、みなさんの知らない外務省の世界、覗いてみてください。
 

G7サミットの開催国になると、いつもの忙しさが倍増。
 

 

(C)Ministry of Foreign Affairs

 

G7サミットは持ち回りで、“議長国"の役割が回ってくることをみなさんは知っていますか?そうなると、サミット・チームの忙しさは倍増します。
 
それでも、議長国の一員としてサミットに携われるのは、本当に誇らしいこと。
 
だから、毎日わくわくしながら仕事をしています。
 
そんな私たちサミット・チームは、G7の間で「シェルパ・オフィス」という名称で呼ばれています。
 
その理由は、「サミット」という言葉にあります。
 
サミットを英訳すると“頂上"。
 
各国の首脳が集まる場だからですが、そこから転じて、サミットで首脳をサポートする補佐役を、エベレストなどで登山者を頂上にナビゲートするシェルパに擬えているんです。
 
面白いですよね。
 
さらに、現実のシェルパにはヤクと呼ばれる動物が寄り添っているので、私たちスタッフはヤクと呼ばれることも。
 
実際にG7のスタッフ間のやりとりでも「Hey、 Yaks!!」と言ったりしています。
 

話し合うテーマや成果を考えるのも、議長国の役目。
 

 

さて、そんなサミット・チームの一員である私たちの議長国としての大きな仕事の1つが、議長である総理の指示を仰ぎつつ、G7サミットで話し合う議題と具体的な成果のたたき台をつくり、G7と交渉していくこと。
 
具体的には、私たちチームが中心となって、財務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省などの各省庁と話し合って、たとえば女性の活躍や感染症対策などの保健といった、世界で話し合うべき議題について、一から考えていきます。
 
議題を選ぶ上で、日本だけではなく、G7を含む国際社会にとって重要か。
 
国連などのほかの国際会議ではなく、あえてG7サミットという場で取り上げるにふさわしいか。
 
先進7カ国の首脳によるリーダーシップが期待され、また発揮できるか。
 
これらのことを大切にしています。
 
そうして選ばれた議題それぞれについて、より深く内容を練っていくために、私たちは日々、G7や、官邸・関係省庁の方と話し合いを重ねていきます。
 

1人で4つの顔を持つ、サミット・チームの仕事。
 

 

G7サミットに携わって改めて感じるのが、私たち外務省職員には、いくつもの面白い役割が求められること。
 
まずは、過去のG7サミットで積み上げた議論に立脚しつつも、新たな付加価値のあるメッセージを国際社会に出していかなければならない。
 
議長国として、前例踏襲のゆるされない、アイデア勝負である点で、「クリエイター」の役割が求められていると思います。
 
一方で、私たちは関係省庁などと話し合って、要望や意見をかたちにしていく「コーディネーター」の役割を担い、それをG7との間で交渉してまとめあげる「ネゴシエーター」にもなります。
 
さらに、サミットで発出される首脳のメッセージや具体的な方針を、世界に効果的なかたちで発信し、国際社会での実現につながる流れや動きをつくる。
 
そこは、まさに「プロモーター」の役割です。
 
だから、1人4役をしっかり演じきるつもりで、仕事をしています(笑)。
 

日本が世界に発信するメッセージの裏側に私たちがいます。
 

 

ハイレベルを含め、日本政府から国際社会へ向けて発信するメッセージのたたき台を考えるのも、私たちの重要な仕事。
 
そこで、求められるのは「伝えるチカラ」、そして「聞くチカラ」。
 
国境や文化・言葉を超えて、メッセージを正しく効果的に届けるには、オーディエンスの考えや関心をよく把握することがとても大切。
 
マニュアルがあるわけもなく、まして、そのようなチカラが直ぐに身につくはずもなく(笑)。
 
入省後の在外研修(留学)での経験や、先輩方の助言、良い前例からの学びなどを通じて、書いては直しを繰り返し、試行錯誤する中で、すこしずつ備わってくるものだと感じます。
 
様々なプロセスを経て、最終的に政策スピーチや記者会見などで発信される瞬間は、やはりやりがいと達成感を感じます。
 
先程、外務省職員の4つの役割に触れましたが、その礎には、人の想いを受け止め、人を動かす、「聞くチカラ」と「伝えるチカラ」があるのかな、と思っています。
 
どちらも身につけるのはとっても難しく、まだまだ修行中の身です(笑)。
 

原さんの受験必勝法

 

受験の時は、私は「書く」ことにこだわっていました。
 
参考書を読むだけでは、なかなか自分のものにならないので、とにかく手を動かす。
 
それは、大学院でも、国家公務員試験でも同じでした。
 
教科書の内容をまとめ直したり、英単語を何度も書いたり。
 
手を動かすと記憶の定着が良くなると聞いたことがあります。
 
また、しっかり整理して自分のものにしてしまえば、問題の切り口が変わったときも、応用が利いたりします。
 
歴史を勉強するなら、事象をつなげて、自分なりの年表に作り直してみるとか。
 
こういうやり方で、色々な受験をくぐり抜けてこれたのかな、と思います。
 

高校生のみなさんへ

 


 

私が高校生の頃は、自分が外交官になるなんて夢にも思っていませんでした。
 
中学の時は「お料理の先生になろうかな?」と思っていたほど。
 
でも、友人が父親の関係で海外に引っ越したことをきっかけに、短期留学にチャレンジしてみたり。
 
それがきっかけで、途上国の開発問題に関心を持ったり。
 
その後も沢山の方から影響や助言をいただいて、一度は違う道を目指したこともありましたが、自然だったのか、必然だったのか、外務省職員として、外交官としての道に進むことになりました。
 
皆さんも、目の前にあるたくさんの刺激にアンテナを立てて、さまざまな出会いや経験を、どうか大切にしてください。
 
成功も、失敗も、回り道と思うような経験も、きっと、皆さんのより良い未来につながっていると信じています。
 

サミットのバッジ

 

サミットのバッジのデザインは実は、みなさんと同じ高校生が考えたものです。
 
首脳が参加する伊勢志摩サミットに先立ち、G7各国の高校生によるサミット(ジュニアサミット)も三重県で開催され、グローバル課題を英語で議論する姿や意見、そこで生まれる友情に、すごく勇気づけられました。
 

カレンダー

 

必需品は、世界の休日カレンダー。
 
これなしには、海外の方と、テンポの良い仕事はできません(笑)。
 
愛用のノートに、過去のサミットでの決定事項を整理して、日本の議長国下ではどうしていこうかな?と思いを描いていきます。
 
いまも、パソコンではなくて、まずは紙と鉛筆を使って、手を動かしながら、日本と世界のことを考えているんです。
 

プロフィール

原 琴乃
外務省 経済局政策課
05年外務省入省

2005年に外務省入省後、国際協力局で、発展途上国のODAプロジェクトなどを担当し、その後2年間、イギリスの大学院へ留学。
 
(注:外務省の在外研修制度)。
 
帰国直後は、広報文化交流を担当する部署で、特に東京オリンピック・パラリンピック競技大会やラグビーW杯の招致活動に、東日本大震災後には、経済局で、エネルギー・鉱物資源・食料の安定供給や被災地復興支援などに携わる。
 
また近年には、欧州局で、総理などの欧州歴訪を含め、日本の対欧州外交をどう戦略的に進めていくかについて担当。
 
外交官を目指したのは、フランス・パリの大学院に留学時、「日本の魅力」をあらためて感じ、「日本人としての誇り」を大切に、世界と日本の架け橋になりたいと思ったことがきっかけだそう。