高校生が知っておきたい奨学金の賢い借り方・返し方

大学や短期大学、専門学校への進学を予定している高校生の中には、「奨学金を利用したほうがいいかも」と考えている人も多いはず。

しかし、奨学金制度があることは知っていても、詳しいことはわかっていないという人もいるのでは?

そこで今回は奨学金に関する著作もあるファイナンシャル・プランナーの竹下さくらさんに、「奨学金の賢い借り方・返し方」について聞いてみた。

【今回のインタビューに答えてくれたのは】

奨学金の賢い借り方・返し方

※ ファイナンシャル・プランナーの竹下さくらさん

[プロフィール]
なごみFP事務所 竹下さくら

損害保険会社、生命保険会社を経て、1998年にファイナンシャル・プランナー(FP)として独立。

個人を対象としたライフプランニングや保険の見直し・住宅購入に関するコンサルティングを中心に、講師や執筆などでも活躍。千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科客員教授。

保有資格はCFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など多数。
「著書に『緊急対応版「奨学金」上手な借り方新常識』(青春新書プレイブックス)、『「教育費をどうしようかな」と思ったときにまず読む本』(日本経済新聞出版社)、『親と子の夢をかなえる! “私立"を目指す家庭の教育資金の育てかた(共著)』(近代セールス社)など。」

2020年度からJASSOの給付型奨学金が大幅拡充! どんな奨学金制度があるかはしっかり調べておこう

2020年度からJASSOの給付型奨学金が大幅拡充! どんな奨学金制度があるかはしっかり調べておこう

※2020年度からJASSOの給付型奨学金が大幅拡充!


まず、知らなくてはいけないのは「奨学金にはどんな種類があるのか」ということ。

代表的なのは独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)の奨学金。多くの大学・短期大学・専門学校で使うことができ、利用者数も非常に多い。

このJASSOの奨学金には、大きく給付型と貸与型(第一種・無利子)、貸与型(第二種・利子が付くタイプ)の3つがある。
「2020年春の大きなトピックが給付型の対象が一気に広がったことです。

今までは、家庭の収入などの条件が厳しかったのですが、2020年度の進学分から、大幅に条件が緩和されました。

また、奨学金を受け取る高校生本人についても、『進学先で学ぶ意欲があること』が条件で、現状の成績だけでは単純に判断しないとされています。

さらに、この制度では、進学先の大学・短期大学・専門学校で入学金・授業料の減免も受けられるのです」(竹下さん)
高校生にとっても保護者にとっても大歓迎の改正だ! では、気になる給付額や減免額などを見ていこう。

給付型の対象となる世帯は、収入に応じて第Ⅰ区分、第Ⅱ区分、第Ⅲ区分の3種類に分けられる。

家族構成や共働きかどうかなどで収入の条件は変わってくるが、例えば、保護者2人、本人、中学生の4人家族で保護者の一方が給与所得者の場合、の場合、保護者の一方が年収221万円以下、もう一方が115万円以下なら第Ⅰ区分、保護者の一方が242万円以下、もう一方が155万円以下なら第Ⅱ区分、保護者の一方が320万円以下、もう一方が155万円以下なら第Ⅲ区分となる(年収の上限額はいずれも目安。

世帯構成や障害者の有無、各種保険料の支払い状況などにより変わる)。

支給額はこの区分によって異なるが、第Ⅰ区分を例にとると以下の表のとおり。

給付型奨学金の支給月額 ※第Ⅰ区分の場合

区分 自宅通学 自宅外通学
大学・短期大学・専門学校 国公立   2万9200円(3万3300円)  6万6700円
大学・短期大学・専門学校 私立   3万8300円(4万2500円)  7万5800円

※( )内は生活保護世帯の場合
続いて入学金・授業料の減免額。これも第1区分を例にとると上限額は以下のとおり。

授業料等の免除・減額の上限額(年額) ※第Ⅰ区分の場合

  国公立 私立
  入学金 授業料 入学金 授業料
大学 約28万円 約54万円 約26万円 約70万円
短期大学 約17万円 約39万円 約25万円 約62万円
専門学校 約7万円 約17万円 約16万円 約59万円

第Ⅱ区分、第Ⅲ区分の上限額は、給付型奨学金と授業料等の減免額の合計が、第Ⅱ区分なら第1区分の約2/3、第Ⅲ区分なら約1/3となる。
貸与型はさらに収入の基準は緩やかになる。

第一種よりも第二種はさらに緩やか。

詳細は以下のJASSOのホームページでチェックしてほしいが、第二種はそこそこ以上に裕福な家庭以外はだいたい対象になると考えてOKだ。


JASSOの奨学金紹介ページ


このJASSOの奨学金のほか、大学が独自に設けている奨学金、自治体や民間団体が設けている奨学金などもある。
「奨学金というとJASSOしかチェックしない人も多いのですが、そのほかにもさまざまな奨学金があります。

成績などの基準や審査が厳しいものもありますが、意外と条件が緩やかなものも。

最近は地方出身者への奨学金を設ける都市部の私立大学なども増えてきました。JASSOと比べれば採用数の規模は小さめですが、調べてみる価値は十分あります」
JASSO以外の奨学金については、まずは志望する大学・短期大学・専門学校のホームページをチェックしてみよう。

さらに以下のページでも検索できる。


大学・地方公共団体等が行う奨学金制度(JASSO)

高校3年の4月までには保護者と話し合って奨学金を利用するかどうかを決めておこう

奨学金の情報収集や申し込みのスケジュール

※奨学金を利用するか保護者と話し合おう


次に奨学金の情報収集や申し込みのスケジュールについて。

JASSOの奨学金は高校在学中に申し込む予約採用と大学等に進学してから申し込む在学採用があるが、今の時点で奨学金が必要なことがわかっているなら予約採用に申し込むべき。

予約採用は高校を通じて申し込みを行うが、高校3年の4月頃に説明会を開いて、4~6月に申し込みを行うのが一般的(今年は新型コロナウイルスの流行への対応の関係で各高校でスケジュールが大幅に変更になっているので要注意)。

ただし、学校によって説明会の時期は異なり、説明会の後、数週間で申し込みという場合もある。

今年は新型コロナウイルスの影響で従来のスケジュールが変更になる可能性もあるのでさらに注意が必要。

高校3年生での申し込みのタイミングは春のほか、秋もあるが、秋の募集は第二種のみ。

つまり春の時点で採用を決めておくことが大切ということだ。
「そもそも高校生自身が、『自分の家庭が奨学金を必要としている』と認識していない場合があります。

そのせいで説明会のプリントを保護者に渡さず、春の申し込みのタイミングを逃してしまうということがよくあるのです。

ですから、勝手に『ウチは大丈夫』と思い込まず、まず保護者に聞いてみることが大切ですね。

そして、その前提として、志望校もある程度決めておく必要があります。国公立で自宅通学の場合と私立で自宅外通学の場合とでは、必要な金額が大幅に違ってきますから」
そして、ここからが重要なポイント。

奨学金が必要な場合、年収基準が該当しそうなら、春の申し込みで、給付型、貸与型第一種・第二種のすべてを視野にいれて検討することが大切だと竹下さん。
「すべて同時に申し込むことが可能ですし、仮にすべて申請が通ったとしても、後から不要な分はキャンセルすることができます。それを知らずに、受かる確率が高い第二種だけ申し込むという人も実際いるんですね。

『第一種に申し込んで落ちてから第二種を申し込むと第二種も借りられないリスクが高まる』といった事実無根の情報も出回ったりするので…。

JASSOのHP(進学資金シミュレーター)である程度見通しを立てられるので、採用の可能性があれば前向きに申し込みを!貸与型より給付型、第二種より第一種のほうが絶対いいのですから」
なお、給付型、貸与型第一種・第二種は原則として併用もできる。これも賢く借りるためのポイントの一つ。
「進学後に生活費も含めていくら必要になるかはしっかりシミュレーションしておきましょう。

そのうえで少し余裕をもった額を借りておくといいですね。給付型だけ、第一種だけでは足りない場合は、給付型と第一種・第二種、第一種と第二種の併用も検討すべき。

『残りはアルバイトで稼げばいい』と考える人も多いのですが、思った以上に学業で忙しくなることもあります。

入学後、進学届を出すまでに判断して、こんなに必要ないと思えば、借りる金額を切り替えたり辞退することもできます」

JASSOの奨学金は入学金の支払いに間に合わない!国の教育ローンなどの利用も考えておこう

JASSOの奨学金で注意しておきたいのが、給付が始まるのは入学後だということ。

入学金や前期授業料などはその前に納付の締め切りがあるので、奨学金を直接使うことはできないのだ。
「入学までにかかる費用は、ほかに受験料、設備費などの学校納付金などがあります。

また、一人暮らしをするならその費用もかかります。

トータルすると少ない場合でも130万円程度、多い場合は200万円を超えるお金が必要になるのです」
つまり、奨学金を予約しただけでは決して安心できないということ。

今までに保護者が蓄えてきた貯金や学資保険では足りないときはどうしたらいいのだろう。
「そこで、まず検討したいのが、金利が低い日本政策金融公庫の『国の教育ローン』を利用することです。

審査に約10日間、振り込まれるまでに約10日間かかるので、必要なら早めに申し込んでおきましょう。

ただし、所得水準が上がるほど審査も厳しくなるので落ちる可能性もあります。

その次に検討してほしいのがJASSOの入学時特別増額貸与奨学金。

第一種・第二種に加えて借りることができる貸与型の奨学金で、10~50万円までを借りることができます。

こちらは日本政策金融公庫の『国の教育ローン』に落ちていることが利用条件の一つになっています」
だから、JASSOの入学時特別増額貸与奨学金にまず申し込んだうえで、「国の教育ローン」にも申し込んでおく必要があるというわけだ。

しかし、この入学時特別増額貸与奨学金も振り込まれるのは入学後の4月下旬以降。

直接入学前の費用に充てることはできない。
「そこは安心してください。

労働金庫(ろうきん)の入学時必要資金融資という制度を利用すれば、入学時特別増額貸与奨学金で受け取る額を入学前に借りることができます。

このお金は入学時特別増額貸与奨学金が振り込まれたら利子を付けてすぐに返すことになります」
高校生にとってはややこしいしくみに感じられるかもしれないが、安心して進学するためには大切なこと。

少なくとも「入学前にいくら必要になるか」「貯金や学資保険でまかなうことができるのか」を保護者としっかり話し合って、上記のような制度があるという情報も保護者にしっかり伝えておこう。

返済額は月々2万5000円を超えると負担大!事前にシミュレーションをしておこう

貸与型の奨学金は、大学などを卒業して貸与期間が終わったら分割で毎月返還しなくてはならない。

例えば、第二種で毎月8万円を借りて、利率が1%(利率は貸与が終わった時期に応じて変わる)とすると、返還総額は425万7117円。毎月1万7737円を20年間返し続けることになる。

「そのくらいならなんとかなりそう」と考える高校生も多いかもしれないが、甘く考えてはいけない。
「大卒の初任給が平均約20万円。税金や社会保険料などを除いた手取りは平均16万円台です。

一般的に毎月無理なく返済できる金額は手取りの10%までが目安。

その後昇給することを含めて考えても、毎月の返済額は2万円までにおさえておきたいところです。2万5000円を超えるとかなり苦しくなります。

その範囲内に収めるようにしないと返済が滞ることにもなりかねません」
以下のページで返還額のシミュレーションをして、借りる前に必ず大まかな返還額をイメージしてみよう。

月々2万5000円を超えてしまうようなら、借りる金額を再検討したほうがいいだろう。


奨学金貸与・返還シミュレーション(JASSO)

また、貸与型奨学金は、あるタイミングで全額または一部をまとめて返還する繰上返還も可能。

ボーナスなどを利用して一部でも繰上返還できれば、その分だけ返還期間も短くなるし、利息は残金に対してかかるので、トータルで支払う利息も減らすことができる。これも賢く返済するための一つの方法だ。

給付型奨学金の条件が大幅に緩和されたように、JASSOの奨学金制度は頻繁に改正が行われている。

奨学金の賢い借り方・返し方

※JASSOの奨学金は入学金の支払いに間に合わない!


また、大学独自の奨学金が新設されることも多いので、奨学金に関しては、最新の情報を自分でしっかりチェックすることが大切だ。

そのうえで、できるだけ損のないよう賢く借りて、賢く返すようにしよう!

※2021年3月取材時の情報になります。

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