【現文講師・小柴大輔直伝】志望理由書&小論文対策!医学系分野編

小論文や、総合型選抜・学校推薦型選抜の対策には読書がいいというけれど、実際どんな本を読んだらいいんだろう?

そんな人のために、スタディサプリで「現代文」と「小論文」を担当する小柴大輔先生が読書案内をしてくれるコーナーがスタート!

今回は、医学系の本を紹介してもらったよ。

【現文講師・小柴大輔直伝】志望理由書&小論文対策!経済学・経営学分野編
小柴大輔先生 プロフィール

Z会東大進学教室で講師を務めるほか、ロースクール(法科大学院)や司法試験受験の予備校においても一般教養小論文を指導している。

感覚ではなく論理的に答えを導く指導に定評があり、「現代文に対するイメージが変わった」と受験生から圧倒的な支持を集めている。

スタディサプリでは、現代文のほか、小論文や総合型選抜・学校推薦型選抜対策講座を担当。

『アフガニスタンの診療所から』中村 哲(なかむら てつ)著/ちくま文庫/2005年

 長きにわたり、「ペシャワール会」というNGO(非政府組織)を組織し、アフガニスタンで医療活動と千本を超える井戸掘りを続けてきた中村医師。彼自身によるレポートです。2019年に現地で銃撃されてお亡くなりになりました。

報道を目にした人もいるでしょう。自分の地位や名誉のためではなく、他者を救い続ける強靭な意志に強く打たれます。  

中村医師のほかの本として『医者 井戸を掘る─アフガン旱魃との闘い』(石風社2001年)、『医者 用水路を拓く』(石風社2007年)、『医は国境を越えて』(石風社1999年)など多数あります。

医師のスキルと高度な倫理観は国境をも越えます。

そうした文字どおり国際的な医療活動として、中村医師のような国際NGOもあれば、国連の専門機関であるWHO、政府レベルでの国際協力もあります。

まず、最も有名な国際NGOとして、1999年にノーベル平和賞を贈られた「国境なき医師団(MSF)」があります。

次に紹介するのは、これに参加した日本人医師の本です。

『国境なき医師団:貫戸 朋子(かんと ともこ)』NHK「課外授業 ようこそ先輩」制作グループ/KTC中央出版/2000年

本書は、NHKの番組を書籍にまとめたものです。

この授業は、貫戸医師の母校、京都教育大学附属京都小学校で行われています。

内戦下のボスニア・ヘルツェゴビナでも医療活動をはじめとする貫戸医師からのメッセージとともに、子供たちとのやりとりも収録されています。

貫戸医師へのインタビューをまとめた本として『「国境なき医師団」が行く (That's Japan)』ウエイツ/2003年があります。

『国境なき医師団が行く』久留宮隆(くるみや たかし)著/岩波ジュニア新書/2009年 

久留宮医師は外科医で、本書の執筆時は「国境なき医師団」日本支部副部長でした。

「医者としての原点に立ち返りたい」との思いで参加したアフリカでの医療活動の記録です。

こうした貧困地域や被災地域での医療活動が、「医者としての原点」となると多くの方々が語っておられますが、それがどうしてなのか、本書からわかります。  

次は、日本政府の国際救急医療チームの本です。

『救急医、世界の災害現場へ』山本保博(やまもとやす ひろ)著/筑摩書房/2001年

山本医師当時は、日本医科大学救急医学科教授で、1977年の「国際救急医療チーム(JMTDR)」設立にかかわった人物です。

JMTDRは、政府の国際協力・開発援助(ODA)を担う組織、JICA(独立行政法人 国際協力機構)の中にある医療チームです。

次に、実は本ではないのですが、ぜひとも読んでもらいたくて紹介します。ある日の新聞に掲載されたオピニオンです。

ネットで見ることができます。 「医学生へ 医学を選んだ君に問う」河崎 一夫(かわさき かずお)2002年4月16日 朝日新聞:朝刊 私の視点より  私はリアルタイムで、この記事を読み、切り取って保管してあります。

感銘を受けましたし、医学系の小論文に出題されるだろうなと思い、実際そのとおりになりました。  

当時、金沢大学医学部附属病院の院長であられた(現在は、金沢大学名誉教授)河崎さんが、新年度始まりの4月に「医学生」向けにたいへん厳しい「覚悟」と医師の「喜び」について、語りかけております。

強烈な説得力があります。  

その「覚悟」とは、医学生には「よく学び、よく遊び」は許されない、医学生には「よく学び、よく学び」しかないと覚悟せねばならないという厳格なものです。

続いて、医師の「喜び」が二つあると指摘しています。

まず、直接救った患者の喜びがそのまま医師の第一の喜びであるということ。

さらに医学研究の成果によって、直接診療したわけではない、何億という人の命を救い続ける喜びです。

シビレます。

この記事は、医学生はもちろん、多くの医療従事者の心も打ったようです。

順天堂大学医学部教授で、上皇陛下の心臓パイパス手術の執刀医を務め、〝神の手〟をもつといわれる天野篤さんは、ご自身の教授室にこの記事を貼りつけているそうです。

私も、予備校での医系小論文の授業では、この記事を必ず紹介します。  

言われてみると、研究医は常にすでに国際的なのですね。

ちなみに医学論文の世界的データベースであるPUBMEDに収録されている論文の9割以上が英語です。

英語が医学研究の世界共通フォーマットになっているわけです。

研究医の仕事の一端がわかる本として次のものを挙げます。

『医の希望』斎藤英彦(さいとう ひでひこ)著/岩波新書/2019年

 9人の研究医が登場します。

「ips細胞」でノーベル医学生理学賞を受賞した山中 伸弥(やまなか しんや)教授も出てきます。

また医学部ではなく工学部出身で、人・ロボット・情報系の融合複合新領域〝サイバニクス〟を開拓している山海嘉之(さんかい よしゆき)博士の研究も興味深いです。

一種のパワードスーツである「医療用HAL」はもう実用化されていますね。  

さらに理学部数学科出身の宮野悟(みやの さとる)博士による医療支援の人工知能(AI)の研究も紹介されています。

医療による貢献には医学部医学科以外にもさまざまなルートがあることがわかります。

『がんばらない』鎌田實(かまた みのる)著/集英社文庫/2003年

鎌田さんが大学卒業後に勤めた諏訪中央病院でのエピソードが中心です。

病と闘う〝闘病〟ではないあり方を模索した本です。

どんな患者さんがいて、鎌田さんがどう対応してきたかがよくわかります。

鎌田さんは内科医ですが看護師志望者をはじめ、広く医療系を目指す人の参考になります。

医療人ではない私(小柴)にとっても、すぐれた医療がどういうものであるか、とても参考になりました。

続刊に『それでも やっぱりがんばらない』がありますが、受験生は自分の希望をかなえ、患者さんに貢献できるようになるために、私たちと共に頑張っていこうね。

『死ぬ瞬間─死とその過程について─』エリザベス・キューブラー・ロス著/中公文庫/2001年 (リストに入っています)

氏は1926年スイス生まれ、チューリッヒ大卒、アメリカで医療活動。

従来、ガンや余命半年などという重篤な病気の本人告知は、ショックを与え、死期をはやめてしまうから、「本人のため」を思って知らせないということがありました。

ところが、多くの患者との誠実な対応から、「ショック→死亡」ではないことを彼女はつきとめます。

「衝撃→否認→怒り→悲嘆→受容」といった死を受け止めるプロセスがあったのです。

今では日本でも、重篤な病気の時にもインフォームドコンセント(説明と合意)が基本原則になっていますが、その背景には彼女の功績があります。

『どちらであっても─臨床は反対言葉の群生地─』徳永進著/岩波書店/2016年 

氏は1948年生まれ、京都大学医学部卒の内科医。

鳥取市内にホスピスケアのある有床診療所を開設。

〈生きると死ぬ〉〈キュアとケア〉〈エビデンスとナラティブ〉〈鬼手と仏心〉などさまざまな対義語に医療現場でどう出会ってきたかが平明にそれでいて印象深く語られる、すぐれた医療エッセイです。

※2020年5月時点の取材内容になります。

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