「聞く」「聴く」の違いは?意味、使い分け、英語表現までスタディサプリ講師が解説!

同じ読み方でほとんど同じ意味も持つ同訓異字。

ほとんど同じ意味でも微妙なニュアンスの違いがあり、何となく雰囲気で使ってしまうことも多いのではないだろうか。

漢字の意味を知れば、使い分けを間違えることはない。今回は「聞く」と「聴く」の違いを考えてみよう。

解説してくれるのは
スタディサプリ高校講座の現代文講師 小柴大輔先生

解説してくれるのは スタディサプリ高校講座の現代文講師 小柴大輔先生

Z会東大進学教室で講師を務めるほか、ロースクール(法科大学院)や司法試験受験の予備校においても一般教養小論文を指導している。

感覚ではなく論理的に答えを導く指導に定評があり、「現代文に対するイメージが変わった」と受験生から圧倒的な支持を集めている。

スタディサプリでは、現代文のほか、小論文や総合型選抜・学校推薦型選抜対策講座を担当。

「聞く」「聴く」の意味と違いは?

※「聞」と「聴」の意味の違いを知るには?

 

「聞く」とは「音や声が自然と耳に入る」という意味、また「聴く」とは「理解しようと自ら進んで耳を傾ける」という意味をもつ。

つまり、「聞く」と「聴く」の違いは「本人が意図的に行っているかそうでないか」の違いと言えるだろう。
 
なぜこのような違いがあるのか、それぞれの成り立ちを詳しくみてみよう。

「聞く」「聴く」の違いは意図的かどうか

「聞く」と「聴く」は、似て非なる、相反する言葉というよりも、広くカバーする「聞く」の一部に「聴く」があるという関係だ。

「聞」と「聴」の意味の違いを知るには、漢字の成り立ちをみると理解しやすいだろう。

「聞」は、「門」と「耳」によってできている。

このうち、「門」は立ち上がった二人の直立した人間の側面を表した象形文字。

この二人の人間の間には「耳」がついており、「響いてくる神の声をきく」というのが「聞」の原義だ。

もっと古い字形だと、「門」の上に耳があったという。

天からのありがたい声を、二人の人間が聞いている形というわけだ。

「聴」も「聞」と同じく神の声をきくという意味だが、神の声を、よりはっきりきくことができる「神の声をきく能力がある」と、「聞く」よりも一歩踏み込んでいる。

より能動的に意図的にきこうとする様子を表すのが「聴く」だ。

「聞く」とは「音や声が耳に入る」

「聞く」「聴く」の違いは?意味、熟語までスタディサプリ講師がわかりやすく解説!
漢字の成り立ちからもわかるように、「聞く」は黙っていても耳に入ってくる際に使う。

したがって、BGMとして音楽を流しているときは「音楽を聞く」だ。

授業も、意識的にきくのではなく、教科書をみながらなんとなく先生の授業の様子をきいているときには「授業で先生の声を聞いている」となる。

意識的に敢えてきこうとしなくても、広い範囲できこえてくるようなイメージだ。
【例文】

遠くから消防車のサイレンが聞こえる。

喫茶店で本を読んでいたら懐かしい曲が聞こえてきた。

物音が聞こえるので様子を見に行ったが気のせいだった。

「聴く」とは「理解しようと進んで耳を傾ける」

興味を持って話を聴く
「聞く」に対して「聴く」は、積極的に耳を傾けるイメージだ。

例えば、ぼんやり聞いている授業も、テストの範囲に重要な情報は積極的に「聴く」体勢になる。

音楽も、何となく流れてきた曲を聞いているのではなく、ラジオや動画で好きなアーティストの曲に興味をもって耳を傾けたり、メロディーや歌詞をきいて味わったりする場合は、意識的な「聴く」を使う。
【例文】

ラジオで好きなアーティストの新曲を聴く。

落語を聴くために寄席に行ってきた。

レポートを書くために講演を聴きに行く。 

「音楽をきく」「ラジオをきく」正しいのは?


「音楽」も「ラジオ」も、「きく」はその時の状況に応じて使い分けよう。
 
例えば、店内や勉強中のBGMとしてであれば、「聞く」だ。
 
その場合、「音楽が聞こえて来る」「ラジオを聞きながら勉強している」という表現にすると伝わりやすい。
 
能動的に集中している場合は、「音楽を聴く」「ラジオを聴く」となる。
 
この場合もやはり状況を説明するとわかりやすい。
 
「好きなアーティストの新曲を聴く」「ラジオの英語講座を聴く」など、対象を入れると伝わりやすくなるだろう。
【from小柴先生】

コミュニケーションに大切なのは「聞く」「聴く」どっち?
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円滑なコミュニケーションには会話のキャッチボールが大切です。

したがって、相手の話をしっかりきき、その言葉に何が含まれているのか、何を希望しているのかききとり理解しなければなりません。

演出家栗山民也(くりやまたみや)氏によれば、「相手との人間関係やコミュニケーションは、まず相手のことばを「聞く」ことから始まる」と言います。

最初は自分のことばかり話すのではなく、相手の話を「聞く」。

そして、相手との理解を深め、より感情や言葉の意味を知るためには「聴く」ことが大切です。

相手の話を聞き、必要に応じて質問を投げかけながら「聴く」。

どちらの「きく」も意識することで、コミュニケーションを円滑にすることができます。

「聞く」「聴く」に関連する熟語は?

「聞く」の熟語は「見聞」「伝聞」「百聞」など

見聞…見たり聞いたりすること。見て聞いて知識や経験を広げることを「見聞を広げる」という。

伝聞…伝わってきたことが耳に入ること。伝え聞くこと。

百聞…何度も聞くこと。「百聞は一見に如かず」の意味は、百回聞くよりも目で確かめたほうが早いという意味。 

「聴く」の熟語は「傾聴」「拝聴」「聴覚」など 

傾聴…耳を傾けてよく聴くこと。

拝聴…聴くことの謙譲語。つつしんで聴くこと。

聴覚…音を聴く感覚。

「聞く」「聴く」の英語表現は? 

「聞く」の英語表現は「hear」

「聞く」の英語表現は「hear」だ。次のように使われる。
【例文】

I heard my name called.
(私は自分の名前が呼ばれるのを聞いた)

Can you hear the bird singing?
(鳥が鳴いているのが聞こえますか?)

「聴く」の英語表現は「listen」

「聴く」の英語表現は「listen」となる。

英語の音を聴くテストを「リスニング」というが、一昔前は「ヒアリング」だった。

英語を聴き取る試験では、能動的に耳を傾ける必要があるため、言い方が変わったのだろう。
【例文】

I'm listening to my favorite music right now.
(私は今、大好きな音楽を聴いているところだ)

Listen to me  carefully.
(私の言うことをよく聴いて)

「聞く」「聴く」と似ている言葉の使い分けは?

「聞く」「聴く」を文中で使い分けるとき、微妙な状況の場合はどちらを使ったらよいのだろうか。
 
また、「きく」の同音異義語である「訊く」「効く」「利く」はどのような場面で使うのか。
 
漢字の意味を理解しながら使い方を習得しよう。

「訊く」の意味、「聞く」「聴く」との違いは?

質問をしたり尋ねたりするときには、「聞く」と「聴く」、どちらを使うのが正しいのだろうか。
 
厳密に使うのならば、この場合は「尋ねる」という意味をもつ「訊く」が適切だ。
 
わからないことを知ろうとして質問を投げかける場合に使う。
 
「先生に訊く(尋ねる)」「本音を訊く(尋ねる)」など、「尋ねる」に置き換えられるのが特徴だ。
 
ただし、「聞く」には「質問する」という意味も含まれているため、「先生に聞く」でも間違いではない。
 
また、質問に対する答えに耳を傾ける場合は、講義や講演など状況によっては「聴く」にもなるが、問いかける意味としては使われない。
 
「訊く」は「聞く」よりも、答えを得るために問いかけている場合に使うとよいだろう。

「効く」「利く」と「聞く」「聴く」との違いは?

「きく」のバリエーションは、ほかにも「効く」「利く」がある。
 
「聞く」「聴く」が耳から入る音に対することに対して、「効く」「利く」は効果効能・有益実用のニュアンスをもつと覚えよう。
 
「効く」は効果が表れることをいい、「薬が効く」などと使われる。
 
「利く」は役に立つ、可能であるという意味で、「機転が利く」「融通が利く」のように使われる。

「言語学」って知ってる?
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この「聞く」「聴く」の意味を考えるように、言語の成り立ちや仕組みを追究する学問を「言語学」という

言語はそれを用いる人々が属する社会や文化の影響を強く受けている。

言語学では、実際にその言語が話されている地域に出向き、その言語の音韻の特徴、意味、語順などを調査するフィールドワークを行う。

文法など言語の構成要素をはじめ、音声や音韻といった各要素を分析したり、言語と社会・文化とのかかわりについても探求していく奥深い学問だ。

 

練習問題をやってみよう!

意識しなくても耳に入って来る状態の「聞く」、理解するために進んで耳を傾ける「聴く」、またそれ以外の同音異義語の「きく」について違いを理解できただろうか。
 
漢字の成り立ちや意味を理解して、文章の状況を読み取り当てはめよう。
 
この練習問題を解いて、理解できているか確認してみてほしい。
【問題】以下の文章に適切な「きく」を入れてみよう。

1:胃腸薬がきいて楽になる。

2:テストの注意事項を試験監督にきく

3:危機的状況で機転をきかせて乗り越える。

4:音楽をききながらデスクワークする。

5:夏目漱石の講演をきく

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【解答】1:効  2:訊  3:利  4:聞  5:聴

小柴先生からのメッセージ 

【from小柴先生】

著者によっては、耳から入る音を「きく」場合、すべて「聞く」で統一する場合もあります。

「聞く」の意味は広く使われる(例えば「聞き取る」という意識的、積極的態度も含む)ため、「聞く」としても間違いではありません。

しかし、敢えて「聴く」という表現を使う書き手はそこに強い意味を込めていると考えてよいでしょう。
漠然ときこえてくる音を「聞く」、ひとことももらすまいと情報を「聴く」。

この2つを使い分けることで微妙なニュアンスが伝わる。

天から聞こえてくるのか、神の声を聴き取り理解するのか、漢字の意味や成り立ちを考えることで、もう違いに迷うことはないだろう。


参考文献:『新訂 字統』(2007/6/1・白川 静著・平凡社)
取材・文/櫻庭由紀子 監修/小柴大輔 デザイン/ロンディーネ 構成/寺崎彩乃(本誌) ※2023年6月一部追記


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