大鏡「花山院の出家」の現代語訳・品詞分解をスタサプ講師が解説!

大鏡「花山院の出家」の現代語訳と品詞分解をセットでスタディサプリ講師が解説!

授業では聞き逃してしまったり、扱われなかったりした箇所をこの記事で確認していこう。定期テストに向けた対策や授業の復習に役立ててほしい。

もっと詳しく「花山院の出家」を理解したい人はこちら!登場人物や重要な単語、古文常識を解説!
大鏡「花山院の出家」の現代語訳をスタサプ講師が解説!
【今回教えてくれたのは…】

岡本梨奈先生

岡本梨奈先生
古文・漢文講師

スタディサプリの古文・漢文すべての講座を担当。自身が受験時代に、それまで苦手だった古文を克服して一番の得点源の科目に変えられたからこそ伝えられる「わかりやすい解説」で、全国から感動・感謝の声が続出。

著書に『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『岡本梨奈の1冊読むだけで漢文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『古文ポラリス[1基礎レベル][2標準レベル]』(以上、KADOKAWA)、『古文単語キャラ図鑑』(新星出版社)などがある。

大鏡「花山院の出家」の現代語訳と品詞分解を読んでいこう

次の帝、花山天皇と申しき。
次の帝は、花山天皇と申し上げました。

次…名詞
の…格助詞
帝…名詞
花山天皇…名詞
と…格助詞
申し…動詞「申す」サ行四段活用の連用形
き…助動詞・過去の「き」終止形 連用形接続
※「申し」……「言ふ」の謙譲語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
『大鏡』は大宅世継と夏山繁樹という老人たちが話している内容を作者が側近くで聞いて書いているという「語り物」の設定であることから、ここは厳密には「話者(=大宅世継か夏山繁樹)から」の敬語ですが、会話文中の敬語と紛らわしくなるため、この記事では地の文の敬語は便宜上「筆者から」と記載します。
冷泉院の第一の皇子なり。
冷泉院の第一の皇子です。

冷泉院…名詞
の…格助詞
第一…名詞
の…格助詞
皇子…名詞
なり…助動詞・断定の「なり」終止形〔体言・連体形接続〕
御母、贈皇后宮懐子と申す。
御母様は、贈皇后宮懐子と申し上げます。

御母…名詞
贈皇后宮…名詞
懐子…名詞
と…格助詞
申す…動詞「申す」サ行四段活用の終止形
※「贈皇后宮」……天皇即位以前に亡くなった妻に対して、即位後に皇后の地位を追贈した場合の称号。
※「申す」……「言ふ」の謙譲語。筆者から贈皇后宮懐子への敬意を表す。
(中略)
(花山天皇は)永観二年八月二十八日、位につかせ給ふ。御年十七。
(花山天皇は)永観二年八月二十八日、ご即位なさった。御年十七歳(の時でいらっしゃいました)。

永観二年…名詞
八月…名詞 ※
二十八日…名詞
位…名詞
に…格助詞
つか…動詞「つく」カ行四段活用の未然形
せ…助動詞・尊敬の「す」連用形 未然形接続
給ふ…動詞「給ふ」ハ行四段活用の終止形
※「八月」……葉月(はづき)。
※「せ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ふ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。

御年…名詞
十七…名詞
寛和二年丙戌六月二十二日の夜、あさましく候ひしことは、人にも知らせさせ給はで、みそかに花山寺におはしまして、御出家入道せさせ給へりしこそ。御年十九。
寛和二年丙戌六月二十二日の夜、驚きあきれましたことは、人にも知らせなさらないで、ひそかに花山寺においでになって、ご出家入道なさった(ことです)。(この時)御年十九歳。

寛和二年…名詞
丙戌…名詞
六月…名詞
二十二日…名詞
の…格助詞
夜…名詞
※「丙戌」……十二支と十干(甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸)を組み合わせた「十干十二支」という六十種類の干支のうちのひとつ。「ひのえいぬ」と読む。
※「六月」…… 水無月(みなづき)。

あさましく…形容詞「あさまし」シク活用連用形
候ひ…動詞「候ふ」ハ行四段活用連用形
し…助動詞・過去の「き」連体形 連用形接続
こと…名詞
は…係助詞
※「あさましく」……「あさまし」は「驚きあきれる」「意外だ」という意。
※「候ひ」……「あり」の丁寧語。筆者から読者への敬意を表す。

人…名詞
に…格助詞
も…係助詞
知ら…動詞「知る」サ行四段活用の未然形
せ…助動詞・使役の「す」未然形 未然形接続
させ…助動詞・尊敬の「さす」連用形 未然形接続
給は…動詞「給ふ」ハ行四段活用の未然形
で…接続助詞 打ち消して接続
※「させ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給は」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「で」……打ち消して接続する接続助詞。「~(し)ないで」と訳す。活用語の未然形に接続する。

みそかに…形容動詞「みそかなり」ナリ活用の連用形
花山寺…名詞
に…格助詞
おはしまし 動詞「おはします」サ行四段活用の連用形
て…接続助詞
※「みそかに」……「ひそかに」「こっそり」の意。
※「おはしまし」……「行く」の尊敬語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
御出家…名詞
入道…名詞
せ…動詞「す」サ行変格活用 未然形
させ…助動詞・尊敬の「さす」連用形 未然形接続
給へ…動詞「給ふ」ハ行四段活用已然形
り…助動詞・完了の「り」の連用形 已然形接続
し…助動詞・過去の「き」の連体形 連用形接続
こそ…強意。訳出不要。
※「させ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院(以降、回想で花山天皇時も含めて「花山院」と表記)天皇への敬意を表す。
※「給へ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。

御年…名詞
十九…名詞
世を保たせ給ふこと二年。
世を治めなさること二年。

世…名詞
を…格助詞
保た…動詞「保つ」タ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬の「す」連用形 未然形接続
給ふ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連体形
こと…名詞
二年…名詞
※「せ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ふ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
その後二十二年おはしましき。
出家後は二十二年間ご存命でいらっしゃった。

そ…代名詞
の…格助詞
後…名詞
二十二年…名詞
おはしまし…動詞「おはします」サ行四段活用連用形
き…助動詞・過去の「き」終止形 連用形接続
※「おはしまし」……「あり」の尊敬語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
あはれなることは、おりおはしましける夜は、藤壺の上の御局の小戸より出でさせ給ひけるに、有明の月のいみじく明かかりければ、「顕証にこそありけれ。いかがすべからむ。」と仰せられけるを、
しみじみと心が痛む思いがすることは、ご退位なされた夜、藤壺の上の御局の小戸からお出ましになられたところ、有明の月がたいそう明るかったので、(天皇が)「あまりにあらわ(では気が引けること)だなあ。どうしたらよかろうか。」とおっしゃったが、

あはれなる…形容動詞「あはれなり」ナリ活用連体形
こと…名詞
は…係助詞
おり…動詞「おる」ラ行上二段活用 連用形
おはしまし…動詞「おはします」サ行四段活用連用形
ける…助動詞・過去の「けり」連体形 連用形接続
夜…名詞
は…係助詞
※「あはれなる」……「あはれなり」は「しみじみと趣深い」。ここは「気の毒だ、かわいそうだ」の意。
※「おり」……「おる」は「位を退く」「退位する」の意。
※「おはしまし」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。

藤壺…名詞
の…格助詞
上…名詞
の…格助詞
御局…名詞
の…格助詞
小戸…名詞
より…格助詞
出で…動詞「出づ」ダ行下二段動詞未然形
させ…助動詞・尊敬の「さす」連用形 未然形接続
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
ける…助動詞・過去の「けり」連体形  連用形接続
に…接続助詞
※「させ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ひ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。

有明…名詞
の…格助詞
月…名詞
の…格助詞
いみじく…形容詞「いみじ」シク活用連用形
明かかり…形容詞「明かし」ク活用連用形
けれ…助動詞・過去の「けり」已然形
ば…接続助詞・未然形と已然形に接続
※「有明の月」……夜が明けてもまだ空に残っている月。
※「いみじく」……「とても」の意。
※「ば」……ここでは已然形に接続しており、原因理由を表し、「~ので」と訳す。

顕証に…形容動詞「顕証なり」ナリ活用の連用形
こそ…係助詞
あり…動詞「あり」ラ行変格活用の連用形
けれ…助動詞「けり」詠嘆 已然形〔連用形接続〕
※「こそ」…強意、訳出不要
いかが…副詞
す…動詞「す」サ行変格活用 終止形
べから…助動詞「べし」適当 未然形〔終止形接続〕
む…助動詞「む」推量 連体形〔未然形接続〕
と…格助詞
仰せ…動詞「仰す」サ行下二段活用 未然形
られ…助動詞「らる」尊敬 連用形〔未然形接続〕
ける…助動詞「けり」過去 連体形〔連用形接続〕
を…接続助詞
※「仰せ」……「言ふ」の尊敬語。筆者から花山院への敬意を表す。
「さりとて、とまらせ給ふべきやう侍らず。神璽・宝剣渡り給ひぬるには。」と、粟田殿の騒がし申し給ひけるは、
「そうかといって、とりやめなさるわけにはまいりますまい。神璽と宝剣が(すでに東宮の御方に)お渡りになってしまったからには。」と、粟田殿がせき立てて申し上げなさったのは、

さりとて…接続詞
とまら…動詞「とまる」ラ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬の「す」連用形 未然形接続
給ふ…動詞「給ふ」ハ行四段活用終止形
べき…助動詞・当然の「べし」連体形 終止形接続
やう…名詞
侍ら…動詞「侍り」ラ行変格活用未然形
ず…助動詞・打消の「ず」終止形 未然形接続
※「せ」……尊敬の意を表す…助動詞。粟田殿(会話主)から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ふ」……尊敬の意を表す補助動詞。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。
※「やう」……漢字は「様」。さまざまな意味がある。ここでは「理由」。
※「侍ら」……「あり」の丁寧語。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。

神璽…名詞
宝剣…名詞
渡り…動詞「渡る」ラ行四段活用連用形
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
ぬる…助動詞・完了の「ぬ」連体形 連用形接続
に…格助詞
は…係助詞
※「給ひ」……尊敬の意を表す補助動詞。粟田殿から神璽・宝剣への敬意を表す。

と …格助詞
粟田殿…名詞
の…格助詞 主格を表す「が」と訳す
騒がし…動詞「騒がす」サ行四段活用連用形
申し…動詞「申す」サ行四段活用連用形
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
ける…助動詞・過去「けり」連体形 連用形接続
は…係助詞
※「粟田殿」……藤原道兼。蔵人として、花山院天皇に仕えていた。
※「申し」……謙譲の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ひ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
まだ帝出でさせおはしまさざりけるさきに、手づから取りて、春宮の御方に渡し奉り給ひてければ、帰り入らせ給はむことはあるまじく思して、しか申させ給ひけるとぞ。
まだ天皇がお出ましになられる前に、(粟田殿が)自ら(神璽と宝剣を)取って、東宮の御方にお渡し申し上げなさっていたので、(天皇が宮中へ)お帰りなさるようなことはあってはならないとお思いになって、そのように申し上げなさったということだ。

まだ…副詞
帝…名詞
出で…動詞「出づ」ザ行下二段活用未然形
させ…助動詞・尊敬の「さす」連用形 未然形接続
おはしまさ…動詞「おはします」サ行四段活用未然形
ざり…助動詞・打消の「ず」連用形 未然形接続
ける…助動詞・過去の「けり」連体形 連用形接続
さき…名詞
に…格助詞

手づから…副詞
取り…動詞「取る」ラ行四段活用連用形
て…接続助詞
※「させ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「おはしまさ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。

春宮…名詞
の…格助詞
御方…名詞
に…格助詞
渡し…動詞「渡す」サ行四段活用連用形
奉り…動詞「奉る」ラ行四段活用連用形
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
て…助動詞 完了「つ」連用形 連用形接続
けれ…助動詞・過去「けり」已然形 連用形接続
ば…接続助詞 未然形と已然形に接続する
※「春宮」……皇太子。読みは「とうぐう」。
※「奉り」……謙譲の意を表す補助動詞。筆者から春宮への敬意を表す。
※「給ひ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
※「てけれ」……助動詞「けり」の前の「て」は完了の助動詞「つ」の連用形。
※「ば」……ここでは已然形に接続しており、原因理由を表し、「~ので」と訳す。

帰り入ら…動詞「帰り入る」ラ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬「す」連用形 未然形接続
給は…動詞「給ふ」ハ行四段活用未然形
む…助動詞・婉曲「む」連体形 未然形接続
こと…名詞
は…係助詞
ある…動詞「あり」ラ行変格活用連体形
まじく…助動詞・打消 当然の「まじ」連用形 ラ変型には連体形接続
思し…動詞「思す(おぼす)」サ行四段活用連用形
て…接続助詞
※「せ」……尊敬の意を表す…助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給は」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「む」……助動詞「む」が連体形で用いられているときは「婉曲」「仮定」の意。ここでは「婉曲」。
※「まじく」……助動詞「まじ」は終止形接続だが、直前の語がラ変型活用をする場合は連体形に接続する。他の終止形接続の助動詞も同様の接続をする。
※「思し」……「思ふ」の尊敬語。筆者から粟田殿への敬意を表す。

しか……副詞
申さ…動詞「申す」サ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬「す」連用形 未然形接続
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
ける…助動詞・過去「けり」連体形 連用形接続
と…格助詞
ぞ…係助詞 強意
※「しか」……「そのように」という意味。先に述べたことがらを指す。ここでは粟田殿の言葉である「さりとて~神璽・宝剣渡り給ひぬるには。」を指す。
※「申さ」……「言ふ」の謙譲語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「せ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
※「給ひ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
※「ぞ」……「係り結びの法則」の中の「結びの省略」。このように結びが省略されることはよくある。文脈から判断し、省略された語を補って訳す。「言ふ」「思ふ」「あり」などが省略されることが多い。ここでは「言ふ」などを補って訳す。
さやけき影を、まばゆく思し召しつるほどに、月の顔にむら雲のかかりて、少し暗がりゆきければ、
明るい月の光を、気が引けるとお思いになっているうちに、月の表に群雲がかかって、わずかに暗くなっていったので、

さやけき…形容詞「さやけし」ク活用連体形
影…名詞
を…格助詞
まばゆく…形容詞「まばゆし」ク活用連用形
思し召し…動詞「思し召す」サ行四段活用連用形
つる…助動詞・完了の「つ」連体形 連用形接続
ほど…名詞
に…格助詞
※「さやけき」……「さやけし」は「はっきり見える、明るい」。
※「影」……月の光。
※「思し召し」……「思ふ」の尊敬語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。

月…名詞
の…格助詞
顔…名詞
に…格助詞
むら雲…名詞
の…格助詞・主格を表す。「が」と訳す。
かかり…動詞「かかる」ラ行四段活用連用形
て…接続助詞
※「顔」……表面。
※「むら雲」……むらがっている雲。一群の雲。

少し…副詞
暗がりゆき…動詞「暗がりゆく」カ行四段活用連用形
けれ…助動詞・過去の「けり」已然形 連用形接続
ば…接続助詞 未然形と已然形に接続する
※「暗がりゆき」……暗くなっていき。
※「ば」……ここでは已然形に接続しており、原因理由を表し、「~ので」と訳す。
「わが出家は成就するなりけり。」と仰せられて、歩み出でさせ給ふほどに、
「私の出家は成就するのだなあ。」と(天皇が)おっしゃって、歩き出しなさると、

わ…代名詞
が…格助詞
出家…名詞
は…係助詞
成就する…動詞「成就す」サ行変格活用連体形
なり…助動詞・断定の「なり」連用形 連体形接続
けり…助動詞・詠嘆の「けり」終止形 連用形接続
と…格助詞
仰せ…動詞「仰す」サ行下二段活用未然形
られ…助動詞・尊敬の「らる」の連用形 未然形接続
て…接続助詞
※「仰せ」……「言ふ」の尊敬語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「られ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。

歩み出で…動詞「歩み出づ」ダ行下二段活用未然形
させ…助動詞・尊敬の「さす」連用形 未然形接続
給ふ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連体形
ほど…名詞
に…格助詞
※「させ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ふ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
弘徽殿の女御の御文の、日ごろ破り残して御身も放たず御覧じけるを思し召し出でて、
(亡くなった)弘徽殿(こきでん)の女御のお手紙で、平素破り捨てずに残して御身から離さず御覧になっていたお手紙を思い出しなさって、

弘徽殿…名詞
の…格助詞
女御…名詞
の…格助詞
御文…名詞
の…格助詞 同格。「~で」と訳す。

日ごろ…名詞
破り残し…動詞「破り残す」サ行四段活用連用形
て…接続助詞
※「弘徽殿の女御」……花山院天皇が寵愛していた女御。亡くなってしまった。

御身…名詞
も…係助詞
放た…動詞「放つ」タ行四段活用未然形
ず…助動詞・打ち消し「ず」連用形 未然形接続
ご覧じ…動詞「御覧ず」サ行変格活用連用形
ける…助動詞・過去の「けり」連体形 連用形接続
を…格助詞
思し召し出で…動詞「思し召し出づ」ダ行下二段活用連用形
て…接続助詞
※「放た」……ここでは「離す」の意。
※「御覧じ」……「見る」の尊敬語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「けるを」……「弘徽殿の女御の御文の」の同格の「の」と並ぶ部分なので、「ける」と「を」の間に「御文(お手紙)」や「の」(体言の代用)を補って訳す。
※「思し召し出で」……「思ひ出づ」の尊敬語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
「しばし。」とて、取りに入りおはしましけるほどぞかし、
「しばらく(待て)。」と言って、取りにお戻りになった時のことだよ、

しばし…副詞
とて…格助詞「と」に接続助詞「て」がついたもの。「とて」で一つの格助詞とする考えがあります。
取り…動詞「取る」ラ行四段活用連用形
に…格助詞
入り…動詞「入る」ラ行四段活用連用形
おはしまし…動詞「おはします」サ行四段活用連用形
ける…助動詞・過去「けり」連体形 連用形接続
ほど…名詞
ぞ…係助詞 強意
かし…終助詞 念押し
※「に」……体言や連体形に接続する助詞だが、「目的を示す」場合は多く連用形に接続する。
※「おはしまし」……尊敬の補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
粟田殿の、「いかにかくは思し召しならせおはしましぬるぞ。ただ今過ぎば、おのづから障りも出でまうで来なむ」と、そら泣きし給ひけるは。
粟田殿が、「どうしてこのように(未練がましく)お考えになられるのか。今が過ぎたならば、自然と差し障りも出てまいりましょう」と、うそ泣きをなさったのは。

粟田殿…名詞
の…格助詞 主格を表す。「が」と訳す。
いかに…副詞
かく…副詞
は…係助詞
思し召し…動詞「思し召す」サ行四段活用連用形
なら…動詞「なる」ラ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬の「す」連用形
おはしまし…動詞「おはします」サ行四段活用連用形
ぬる…助動詞・完了の「ぬ」連体形
ぞ…係助詞 疑問の意を強める用法
※「思し召し」……「思ふ」の尊敬語。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。
※「せ」……尊敬の意を表す…助動詞。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。
※「おはしまし」……尊敬の意を表す補助動詞。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。
※「ぞ」……文末について断定や疑問の意を強める終助詞的な用法。終助詞とする説もある。

ただ今…名詞
過ぎ…動詞「過ぐ」ガ行上二段活用未然形
ば…接続助詞 未然形と已然形に接続する
おのづから…副詞
障り…名詞
も…係助詞
出でまうで来(く)…動詞「出でまうで来」カ行変格活用連用形
な…助動詞・強意の「ぬ」未然形 連用形接続
む…助動詞・推量の「む」終止形 未然形接続
※「ば」……ここでは未然形に接続しており、順接の仮定条件を示し、「~ならば」と訳す。
※「おのづから」……「自然と」という意。
※「障り」……「さしつかえ」「妨げ」「支障」「障害」という意。
※「出でまうで来」……「出で来(いでく)」の謙譲語。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。
※「なむ」……連用形に接続する「なむ」は、強意の「ぬ」の未然形+推量の「む」。

と…格助詞
そら泣き…名詞
し…動詞「す」サ行変格活用連用形
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
ける…助動詞・過去の「けり」連体形 連用形接続
は…係助詞
※「給ひ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
さて、土御門より東ざまに率て出だし参らせ給ふに、
そうして、(粟田殿が天皇を)土御門大路を通って東の方向へお連れ出し申し上げなさった時に、

さて…接続詞
土御門…名詞
より…格助詞
東ざま…名詞
に…格助詞
率…動詞「率る(ゐる)」ワ行上一段活用連用形
て…接続助詞
出だし…動詞「出だす(いだす)」サ行四段活用連用形
参らせ…動詞「参らす」サ行下二段活用連用形
給ふ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連体形
に…格助詞
※「東ざま」……接尾語「~ざま」(「さま」の濁音形)は、場所や方角を示す語について使う。「~の方」と訳す。
※「参らせ」……謙譲の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ふ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
晴明が家の前を渡らせ給へば、自らの声にて、手をおびたたしくはたはたと打ちて、
安倍晴明の家の前をお通りになると、晴明自身の声で、手をしきりにぱちぱちとたたいて、

晴明…名詞
が…格助詞 連体修飾。「の」と訳す。
家…名詞
の…格助詞
前…名詞
を…格助詞
渡ら…動詞「渡る」ラ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬の「す」連用形
給へ…動詞「給ふ」ハ行四段活用已然形
ば…接続助詞 未然形と已然形に接続する
※「晴明」……安倍晴明。陰陽師。
※「せ」……尊敬の意を表す助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給へ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「ば」……ここでは已然形に接続しており、「~と、~たところ」と訳す。

自ら…名詞
の…格助詞
声…名詞
にて…格助詞
手…名詞
を…格助詞
おびたたしく…形容詞「おびたたし」シク活用連用形
はたはたと…副詞
打ち…動詞「打つ」タ行四段活用連用形
て…接続助詞
「帝おりさせ給ふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな。
「天皇がご退位なさると思われる天変があったが、既に(ご退位は)決まってしまったと思われるなあ。

帝…名詞
おり…動詞「おる」ラ行上二段活用未然形
させ…助動詞・尊敬の「さす」連用形 未然形接続
給ふ…動詞「給ふ」ハ行四段活用終止形
と…格助詞
見ゆる…動詞「見ゆ」ヤ行下二段活用連体形
天変…名詞
あり…動詞「あり」ラ行変格活用連用形
つる…助動詞・完了の「つ」連体形
が…接続助詞
※「おり」……「おる」は「位を退く」「退位する」の意。
※「させ」……尊敬の意を表す助動詞。晴明から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ふ」……尊敬の意を表す補助動詞。晴明から花山院天皇への敬意を表す。
※「見ゆる」……「見ゆ」は「見る」とは違い、「自然に目に入る」「見える」「目に映る」という意味。ここでは、「思われる」「感じられる」の意。

すでに…副詞
なり…動詞「なる」ラ行四段活用連用形
に…助動詞・完了の「ぬ」の連用形 連用形接続
けり…助動詞・過去の「けり」の終止形 連用形接続
と…格助詞
見ゆる…動詞「見ゆ」ヤ行下二段活用連体形
かな…終助詞 詠嘆
※「にけり」……助動詞「けり」の前の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形。
※「見ゆる」……「思われる」の意。
参りて奏せむ。車に装束疾うせよ。」
参内して奏上しよう。車の支度を早くしろ。」

参り…動詞「参る(まゐる)」ラ行四段活用連用形
て…接続助詞
奏せ…動詞「奏す」サ行変格活用未然形
む…助動詞・意志の「む」終止形 未然形接続
※「参り」……「行く」の謙譲語。晴明から花山院天皇への敬意を表す。ここは「宮中へ行く」なので、「参内する」と訳す。
※「奏せ」……「言ふ」の謙譲語。晴明から花山院天皇への敬意を表す。「奏す」は、天皇または院に対して申し上げるときに使う謙譲語。

車…名詞
に…格助詞
装束…名詞
疾う…形容詞「疾し(とし)」連用形のウ音便
せよ…動詞「す」サ行変格活用命令形
※「疾う」……「疾し」は「早い」「速い」。ここは「早く」「すぐに」。
※「せ」……尊敬の意を表す…助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
と言ふ声聞かせ給ひけむ、さりともあはれには思し召しけむかし。
と言う(晴明の)声をお聞きになった天皇のお心は、お覚悟のうえとは言え、しみじみとお思いになったことだろうよ。

と…格助詞
言ふ…動詞「言ふ」ハ行四段活用連体形
声…名詞
聞か…動詞「聞く」カ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬の「す」連用形
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
けむ…助動詞・過去推量の「けむ」連体形
※「給ひ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「けむ」……「と言ふ声聞かせ給ひけむ(と言う声をお聞きになったであろう)」の後に「花山院天皇のお気持ちは」が省略されていると考えられるので、「けむ」は連体形。

さりとも…副詞
あはれに…形容動詞「あはれなり」ナリ活用連用形
は…係助詞
思し召し…動詞「思し召す」サ行四段活用連用形
けむ…助動詞・過去推量の「けむ」終止形
かし…終助詞 念押し
※思し召し……「思ふ」の尊敬語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
「かつがつ、式神一人内裏に参れ。」と申しければ、
「とりあえず、式神一人宮中へ参内せよ。」と(晴明が)申し上げたところ、

かつがつ…副詞
式神…名詞
一人…名詞
内裏…名詞
に…格助詞
参れ…動詞「参る」ラ行四段活用命令形
と…格助詞
申し…動詞「申す」サ行四段活用連用形
けれ…助動詞・過去「けり」已然形
ば…接続助詞 未然形と已然形に接続
※「かつがつ」……「とりあえず」「急いで」という意味。
※「式神」……陰陽師(ここでは晴明)の命に従って、不思議なわざをなすという鬼神。
※「参れ」……「行く」の謙譲語。晴明から花山院天皇への敬意を表す。ここは内裏(宮中)へ行くので、「参内せよ」と訳す。
※「申し」……「言ふ」の謙譲語。晴明から式神への敬意を表す。
※「ば」……ここでは已然形に接続しており、「~と、~たところ」と訳す。
目には見えぬものの、戸を押し開けて、御後ろをや見参らせけむ、
(人間の)目には見えない何者かが、戸を押し開けて、(花山天皇の)後ろ姿を拝見したのだろうか、

目…名詞
に…格助詞
は…係助詞
見え…動詞「見ゆ」ヤ行下二段活用未然形
ぬ…助動詞・打ち消しの「ず」連体形 未然形接続
もの…名詞
の…格助詞 主格を表す。「が」と訳す。

戸…名詞
を…格助詞
押し開け…動詞「押し開く」カ行四段活用連用形
て…接続助詞
御後ろ…名詞
を…格助詞
や…係助詞 疑問
見…動詞「見る」マ行上一段活用連用形
参らせ…動詞「参らす」サ行下二段活用連用形
けむ…助動詞・過去推量の「けむ」連体形(「や」の結び) 連用形接続
※「や~けむ」……「係り結びの法則」。や(係助詞)があるので、「けむ」は終止形ではなく連体形。「や」は疑問反語の意を表すが、ここでは疑問。
※「参らせ」……謙譲の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
「ただ今、これより過ぎさせおはしますめり。」といらへけりとかや。
「ただ今、ここをお通りになっているようです。」と答えたとかいうことだ。

ただ今…副詞
これ…代名詞
より…格助詞
過ぎ…動詞「過ぐ」ガ行上二段活用未然形
させ…助動詞・尊敬の「さす」連用形
おはします…動詞「おはします」サ行四段活用終止形
めり…助動詞・推定の「めり」終止形 終止形接続
※「させ」……尊敬の意を表す助動詞。式神から花山院天皇への敬意を表す。
※「おはします」……尊敬の意を表す補助動詞。式神から花山院天皇への敬意を表す。

と…格助詞
いらへ…動詞「いらふ」ハ行下二段活用連用形
けり…助動詞・過去の「けり」終止形 連用形接続
と…格助詞
か…係助詞
や…間投助詞
※「とかや」……文末について①伝聞を表す(~ということだ)②感動を表す(~であることよ)。ここでは①の伝聞。
その家、土御門町口なれば、御道なりけり。
晴明の家は、土御門大路と町口小路の交わる辺りなので、(ちょうど天皇の)お通り道であったのだ。

そ…代名詞
の…格助詞
家…名詞
土御門町口…名詞
なれ…助動詞・断定の「なり」已然形 体言・連体形接続
ば…接続助詞 未然形と已然形に接続する
御道…名詞
なり…助動詞・断定「なり」連用形 体言・連体形接続
けり…助動詞・過去の「けり」終止形
※「ば」……ここでは已然形に接続しており、原因理由を示し、「~ので」と訳す。
花山寺におはしまし着きて、御髪おろさせ給ひて後にぞ、
(天皇が)花山寺にお着きになり、ご剃髪なさって(出家なされた)後に、

花山寺…名詞
に…格助詞
おはしまし着き…動詞「おはしまし着く」カ行四段活用連用形
て…接続助詞

御髪…名詞
おろさ…動詞「おろす」サ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬「す」連用形 未然形接続
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
て…接続助詞
後…名詞
に…格助詞
ぞ…係助詞
※「おはしまし着き」……「行き着く」の尊敬語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「せ」……尊敬の意を表す…助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ひ」……尊敬の意を表す補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「ぞ」……結びは、粟田殿の言葉の後「と申し給ひける」となるところ、接続助詞の「ば」につながるために「と申し給ひけれ」と已然形になっている。このように、接続助詞を伴って下に続く形になっているため係り結びが成立しないことを「結びの流れ」「結びの消滅」という。
粟田殿は、「まかり出でて、大臣にも、変はらぬ姿、いま一度見え、かくと案内申して、必ず参り侍らむ。」と申し給ひければ、
粟田殿が、「(私はちょっと)退出して、(父の)大臣にも、(出家する前の)変わらない姿を、もう一度見せ、これこれと事情をお話し申し上げて、必ず参上いたします。」と申し上げなさったので、

粟田殿…名詞
は…係助詞
まかり出で…動詞「まかり出づ」ダ行下二段活用連用形
て…接続助詞
大臣…名詞
に…格助詞
も…係助詞
変はら…動詞「変はる」ラ行四段活用未然形
ぬ…助動詞・打ち消し「ず」連体形 未然形接続
姿…名詞
いま…副詞
一度…名詞
見え…動詞「見ゆ」ヤ行下二段活用連用形
※「まかり出で」……「出づ」の謙譲語。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。
※「大臣」……東三条殿(藤原兼家)。粟田殿の父親。
※「見え」……「見ゆ」、ここでの意味は「見せる」。

かく…副詞
と…格助詞
案内…名詞
申し…動詞「申す」サ行四段活用連用形
て…接続助詞
必ず…副詞
参り…動詞「参る」ラ行四段活用連用形
侍ら…動詞「侍り」ラ行変格活用未然形
む…助動詞・意志の「む」終止形
※「申し」……「言ふ」の謙譲語。粟田殿から大臣(父)への敬意を表す。
※「参り」……「行く」の謙譲語。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。
※「侍ら」……丁寧の補助動詞。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。

と…格助詞
申し…動詞「申す」サ行四段活用連用形
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
けれ…助動詞・過去の「けり」已然形
ば…接続助詞 未然形と已然形に接続
※「申し」……「言ふ」の謙譲語。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ひ」……尊敬の補助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
※「ば」……ここでは已然形に接続しており、「~と、~たところ」あるいは「~ので(原因理由)」と訳す。
「朕をば謀るなりけり。」とてこそ泣かせ給ひけれ。
(天皇は)「私をだましたのだな。」とおっしゃって泣きなさった。

朕…名詞
を…格助詞
ば…係助詞 「は」の濁音
謀る…動詞「謀る」ラ行四段活用連体形
なり…助動詞・断定の「なり」連用形 連体形接続
けり…助動詞・詠嘆の「けり」終止形 連用形接続

と…格助詞
て…接続助詞
こそ…係助詞 強意
泣か…動詞「泣く」カ行四段活用未然形
せ…助動詞・尊敬の「す」連用形 未然形接続
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
けれ…助動詞・過去の「けり」已然形(「こそ」の結び) 連用形接続
※「こそ~けれ」……「係り結びの法則」。こそ(…係助詞)があるので、「けれ」は文末だが、終止形ではなく已然形になっている。
※「せ」……尊敬の助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ひ」……尊敬の補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
あはれに悲しきことなりな。
しみじみとおいたわしく悲しいことであるよ。

あはれに…形容動詞「あはれなり」ナリ活用連用形
悲しき…形容詞「悲し」シク活用連体形
こと…名詞
なり…助動詞・断定の「なり」終止形 体言・連体形に接続する
な…終助詞・詠嘆
日ごろ、「よく御弟子にて候はむ。」と契りて、すかし申し給ひけむがおそろしさよ。
(粟田殿は)平素、「(もし天皇が出家なさいましたら、私も)お弟子としてお仕えいたしましょう。」と約束しておいて、だまし申し上げなさったというのが恐ろしいことよ。

日ごろ…名詞
よく…副詞
御弟子…名詞
にて…格助詞
候は…動詞「候ふ」ハ行四段活用未然形
む…助動詞・意志の「む」終止形 未然形接続
※「候は」……「仕ふ」の謙譲語。粟田殿から花山院天皇への敬意を表す。

と…格助詞
契り…動詞「契る」ラ行四段活用連用形
て…接続助詞
すかし…動詞「すかす」サ行四段活用連用形
申し…動詞「申す」サ行四段活用連用形
給ひ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連用形
けむ…助動詞・過去伝聞の「けむ」連体形 連用形接続
が…格助詞
おそろしさ…名詞
よ…間投助詞 詠嘆
※「すかし」……「すかす」は「だます」の意。
※「申し」……謙譲の補助動詞。筆者から花山院天皇への敬意を表す。
※「給ひ」……尊敬の補助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
東三条殿は、「もしさることやし給ふ。」とあやふさに、
(粟田殿の父である)東三条殿[=兼家]は、「ひょっとして(我が子が)出家なさるのではないか。」と気がかりなために、

東三条殿…名詞
は…係助詞
もし…副詞
さる…連体詞
こと…名詞
や…係助詞 疑問
し…動詞「す」サ行変格活用連用形
給ふ…動詞「給ふ」ハ行四段活用連体形(「や」の結び)
と…格助詞
あやふさ…名詞
に…格助詞
※「東三条殿」……粟田殿の父親。
※「さる」……「そのような」の意。「さること」とは、ここでは「粟田殿が花山院天皇と共に出家してしまうこと」。
※「や~給ふ」……「係り結びの法則」。や(係助詞)があるので、「給ふ」は文末だが、終止形ではなく連体形。「や」は疑問反語の意を表すが、ここでは疑問。
※「給ふ」……尊敬の補助動詞。東三条殿から粟田殿への敬意を表す。
※「あやふさ」……心配。
さるべくおとなしき人々、なにがしかがしといふ
このような場合にふさわしい思慮分別がある人々で、誰それと言う

さる…連体詞
べく…助動詞・当然の「べし」連用形 ラ変型には連体形接続
おとなしき…形容詞「おとなし」シク活用連体形
人々…名詞
なにがし…代名詞
かがし…代名詞
と…格助詞
いふ…動詞「いふ」ハ行四段活用連体形
※「べく」……助動詞「べし」は終止形接続だが、他の終止形接続の助動詞同様、直前の語がラ変型活用をする場合は連体形に接続する。ここでの直前の語「さる」は連体詞だが、もともとはラ変動詞「さり(然り)」の連体形からの転なので、ラ変型活用語としてとらえる。
※「かがし」……「誰それ」の意。
いみじき源氏の武者たちをこそ、御送りに添へられたりけれ。
立派な源氏の武者たちを、お見送りに付けられた。

いみじき…形容詞「いみじ」シク活用連体形
源氏…名詞
の…格助詞
武者たち…名詞
を…格助詞
こそ…係助詞 強意
御送り…名詞
に…格助詞
添へ…動詞「添ふ」ハ行下二段活用未然形
られ…助動詞・尊敬の「らる」連体形 未然形接続
たり…助動詞・存続の「たり」連用形 連用形接続
けれ…助動詞・過去の「けり」已然形(「こそ」の結び) 連用形接続
※「こそ~けれ」……係り結びの法則。こそ(係助詞)があるので、文末は、終止形(けり)ではなく已然形(けれ)。
※「られ」……尊敬の助動詞。筆者から東三条殿への敬意を表す。
京のほどは隠れて、堤のわたりよりぞうち出で参りける。
(武者たちは)京の町にいる間は隠れて、鴨川の堤のあたりから姿を現してお供した。

京…名詞
の…格助詞
ほど…名詞
は…係助詞
隠れ…動詞「隠る」ラ行下二段活用連用形
て…接続助詞
堤…名詞
の…格助詞
わたり…名詞
より…格助詞
ぞ…助詞 強意
うち出で…動詞「うち出づ」ダ行下二段活用連用形
参り…動詞「参る」ラ行四段活用連用形
ける…助動詞・過去の「けり」連体形(「ぞ」の結び) 連用形接続
※「わたり」……「あたり」「辺り」
※「ぞ~ける」……係り結びの法則。ぞ(…係助詞)があるので、文末は、終止形(けり)ではなく連体形(ける)。
※「参り」……「行く」の謙譲語。筆者から粟田殿への敬意を表す。
寺などにては、「もし、おして人などやなし奉る。」とて、
寺に着いてからは、「もしや、無理に誰かが(道兼を)出家させ申し上げるのではないか。」と思って、

寺…名詞
など…副助詞
にて…格助詞
は…係助詞
もし…副詞
おして…副詞
人…名詞
など…副助詞
や…係助詞 疑問
なし…動詞「なす」サ行四段活用連用形
奉る…動詞「奉る」ラ行四段活用連体形(「や」の結び)
と…格助詞
て…接続助詞
※「おして」……「無理に」「強引に」。
※「や~奉る」……係り結びの法則。や(…係助詞)があるので、「奉る」は文末だが、終止形ではなく連体形。「や」は疑問反語の意を表すが、ここでは疑問。
※「奉る」……謙譲の補助動詞。武者たちから粟田殿への敬意を表す。
一尺ばかりの刀どもを抜きかけてぞ守り申しける。
一尺ばかりの刀を抜きかけてお守り申し上げた。

一尺…名詞
ばかり…副助詞
の…助詞
刀ども…名詞
を…格助詞
抜きかけ…動詞「抜きかく」カ行下二段活用連用形
て…接続助詞
ぞ…係助詞 強意
守り…動詞「守る」ラ行四段活用連用形
申し…動詞「申す」サ行四段活用連用形
ける……助動詞・過去の「けり」連体形(「ぞ」の結び) 連用形接続
※「ぞ~ける」……係り結びの法則。ぞ(…係助詞)があるので、文末は、終止形(けり)ではなく連体形(ける)。
※「申し」……謙譲の補助動詞。筆者から粟田殿への敬意を表す。
/『大鏡』より

岡本先生のコメント

初見の古文の文章に出会った時、まったく手がつけられない…そんなことはありませんか?

文字自体は読めるのに、何が書いてあるのか理解できない人の多くは、品詞分解(=文を品詞ごとに分ける作業)ができません。品詞分解が正しくできてこそ、古文の文章を正しく解釈することができるのです。

どこまでが一つの語なのか、その語がその文ではどのような意味になるのか、それらを理解していなければ、たとえ現代でも使用しているひらがなや漢字で書かれていても、手がつけられないのは当然ですよね。重要単語や重要文法をきちんと理解できれば、品詞分解が自力でできるようになります。一つひとつの語を確認しながら、大鏡「花山院の出家」をていねいに読み解いていきましょう。

監修/岡本 梨奈 文・構成/スタサプ編集部(2025年9月更新)

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