蜻蛉日記「うつろひたる菊」原文と現代語訳・テスト対策のポイントをわかりやすく解説!

蜻蛉日記は、古典の授業や定期テスト、共通テストにも出題されることが多い。

特に、和歌の解釈や文章の特徴が問われることがあるため、しっかり押さえておこう!

そこで今回は、蜻蛉日記「うつろひたる菊」について、スタディサプリの古文・漢文講師 岡本梨奈先生に解説してもらった。
 
今回教えてくれたのは

蜻蛉日記「うつろひたる菊」原文と現代語訳・テスト対策のポイントをわかりやすく解説!岡本梨奈先生

古文・漢文講師
スタディサプリの古文・漢文すべての講座を担当。
自身が受験時代に、それまで苦手だった古文を克服して一番の得点源の科目に変えられたからこそ伝えられる「わかりやすい解説」で、全国から感動・感謝の声が続出。

著書に『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『岡本梨奈の1冊読むだけで漢文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『古文ポラリス[1基礎レベル][2標準レベル]』(以上、KADOKAWA)、『古文単語キャラ図鑑』(新星出版社)などがある。

『蜻蛉日記』とは?

平安時代中期の女流日記文学。作者は藤原道綱母で、夫・兼家との結婚生活が書かれています。

最初は夢中でアピールしてきたにもかかわらず、物忌みなどを口実に他の女性のところへ行き、作者の家にはなかなか通ってこなくなるなど、一夫多妻時代の女性の苦悩・不満や、兼家との間にできた一人息子の道綱に対する愛情などが描かれています。

漫画でわかる!蜻蛉日記「うつろひたる菊」のあらすじ

漫画でわかる!蜻蛉日記「うつろひたる菊」のあらすじ蜻蛉日記「うつろひたる菊」原文と現代語訳・テスト対策のポイントをわかりやすく解説!

 

蜻蛉日記「うつろひたる菊」の登場人物は?

●作者(藤原道綱母)

●藤原兼家(作者の夫)

●他の女〔=町の小路の女〕

●作者の召使

●兼家の召使

蜻蛉日記「うつろひたる菊」の原文と現代語訳を読んでみよう

さて、九月ばかりになりて、出でにたるほどに、箱のあるを手まさぐりに開けて見れば、人のもとにやらむとしける文あり。

さて、九月頃になって、(夫の兼家が)出て行った時に、文箱があるのを手なぐさみに開けて見ると、他の女のもとに贈ろうとした手紙がある。
あさましさに、見てけりとだに知られむと思ひて、書きつく。

驚きあきれて、せめて(自分が)見たということだけでも(夫の兼家に)知られようと思って、(女への手紙の端に)書きつける。
うたがはし ほかに渡せる ふみ見れば ここやとだえに ならむとすらむ

疑わしいこと。他の女に送る手紙を見ると、ここへ(訪れること)は途絶えようとしているのだろうか。
など思ふほどに、むべなう、十月つごもりがたに、三夜しきりて見えぬ時あり。

などと思ううちに、思った通り、十月末頃に、三夜続けて(兼家が)来ないときがある。
つれなうて、「しばし試みるほどに」など、気色あり。

(兼家はその後)素知らぬ顔で、「しばらく(あなたの気持ちを)試しているうちに」などと、思わせぶりな様子である。
これより、夕さりつかた、「内にのがるまじかりけり」とて出づるに、心得で、人をつけて見すれば、「町の小路なるそこそこになむ、とまり給ひぬる」とて来たり。

ここ〔=作者の家〕から、夕方に、(兼家が)「宮中に断れない用事があるのだよ」と言って出かけるので、(私は)おかしいと思い、召使をつけて(兼家の様子を)見させると、「町の小路にあるどこそこに、車を停めなさった」と言って帰って来た。
さればよと、いみじう心憂しと思へども、言はむやうも知らであるほどに、二日、三日ばかりありて、暁方に門をたたく時あり。

思った通りだと、たいそう嘆かわしいと思うが、言いようもわからないでいるうちに、二、三日ほどして、夜明け前に門をたたくときがある。
さなめりと思ふに、憂くて、開けさせねば、例の家とおぼしきところにものしたり。

そう〔=兼家の来訪)であるようだと思うと、気が進まないで、(門を)開けさせないでいると、例〔=町の小路の女〕の家と思われるところに行ってしまった。

つとめて、なほもあらじと思ひて、

翌朝、このままにはしておくまいと思って、
嘆きつつ 一人で寝る夜の あくる間は いかに久しき ものとかは知る

嘆き続けて一人で寝る夜が明けるまでの間は、どんなに長いものかわかりますか(いえ、わからないでしょうね)。
と、例よりはひきつくろひて書きて、うつろひたる菊にさしたり。

と、いつもよりは注意を払って書いて、色あせた菊に(手紙を)挿し(て送っ)た。
返り言、「あくるまでも試みむとしつれど、とみなる召使ひの来あひたりつればなむ。いと理なりつるは。

返事は、「夜が明けるまで戸を開けてくれるのを待とうと試みたが、急用の召使が来合わせたので(去ってしまったのだ)。(あなたが怒るのも)まことにもっともなことであるよ。
げにやげに 冬の夜ならぬ 真木の戸も おそくあくるは わびしかりけり」

本当に(冬の夜はなかなか明けないが)冬の夜ではない真木の戸も、なかなか開けてもらえないのはつらいことよ」
さても、いとあやしかりつるほどに、ことなしびたる、しばしは、忍びたるさまに、「内に」など言ひつつぞあるべきを、いとどしう心づきなく思ふことぞ、限りなきや。

それにしても、とても不思議に思ったくらいに、(兼家が)何気ないふりをしているのは、しばらくは、こっそりしている様子で、「宮中に」などと言って取り繕うべきなのに、ますます不愉快に思うことが、この上ないことよ。
\作品を読むポイント/

平安時代の貴族社会では、男性が複数の女性のもとを訪れるような結婚が一般的でした。

女性たちは不安や寂しさを抱えることも多く、作中の和歌にはそうした心情が込められています。

当時の結婚観を知り、どんな思いで詠まれたのかを想像しながら読むと、より深く作品を味わうことができます。(岡本先生)

蜻蛉日記「うつろひたる菊」の定期テスト対策!ポイントをチェック!

「見てけりとだに知られむ」を現代語訳しなさい。

「見たということだけでも知られよう」と訳します。

「けり」は過去の助動詞。「知られむ」の「れ」は、動詞のa段についているので助動詞「る」です。

明確に書かれてはいませんが「兼家に」知られたいということなので、この「れ」は受身の意味。

「知られむ」の「む」は助動詞「む」で、「と」の上にあるので意志から考えます。

「知られよう(知られたい)」でおかしくないので意志の意味です。

「だに」は副助詞で、意志と一緒に用いているので、最小限の限定「せめて~だけでも」です。

「三夜しきりて見えぬ」の「三夜」とは、当時のどのような習慣が背景にあるか説明しなさい。

男性が三夜続けて女性のもとへ通うと、結婚が成立するという習慣。

「うたがはし」の和歌には、どのような心情が詠まれているか説明しなさい。 

夫である兼家に他の女性との関係を責める気持ちとともに、自分が捨てられてしまうのではないかという不安が詠まれている。

「内にのがるまじかりけり」という発言は、誰が、どのような意図で発言しているのか説明しなさい。

兼家が、町の小路の女のところへ行くための口実として発言している。

(「内」は「内裏・宮中」の意味で、「宮中で避けられない用事がある」と言い、作者の家を出て、町の小路の女のところへ行っています。)

「さなめり」を「さ」の内容がわかるように現代語訳しなさい。

「兼家が来訪したのであるようだ」です。

「なめり」の「な」は断定の助動詞「なり」の連体形「なる」が撥音便「なん」になり、撥音が省略されて「な」になっています。「めり」は推定の助動詞。

よって、「なめり」は「であるようだ・であるらしい」と訳します。

「さ」の指示内容は、直前に「夜明け前に誰かが門をたたいている」ことが書かれており、また、直後には「気が進まず、門を開けない」とあることから、夫が来訪したと推定したことが読み取れます。

「例の家」とは、どこの家か答えなさい。

町の小路の女の家。

「ひとり寝る夜」の「寝る」の読みを答えなさい。

「ぬる」と読みます。

「寝(ぬ)」はナ行下二段活用動詞なので「ね・ね・ぬ・ぬる・ぬれ・ねよ」と活用します。

ここでは連体形「寝る」なので「ぬる」です。

「嘆きつつ」の和歌の「あくる」には、どのような意味が掛けられていると考えられるか説明しなさい。 

「(夜が)明ける」と「(戸を)開ける」が掛けられていると考えられる。

「嘆きつつ」の和歌には、どのような心情が詠まれているか説明しなさい。

他の女性のところへ行ってしまった夫に対して、一人で寝る辛さや寂しさを訴え、門を開ける少しの間も待てずに去ってしまった兼家に皮肉も込めて詠まれている。

なぜ「うつろひたる菊」に挿したのか説明しなさい。 

色あせてしまった菊に添えることによって、夫の心変わりを指摘し、それによって自分がしおれてしまったことを伝えようと思ったから。

「うつろふ」には「色があせる」と「心変わりする」の意味がありますので、覚えておきましょう。

「げにやげに」の和歌には、どのような心情が詠まれているか説明しなさい。

妻である作者が届けてきた歌に対して共感を示しているが、戸を開けてもらえなかった自分の辛さを伝えて、妻の寂しさや恨む気持ちを軽くかわして詠まれている。

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定期テストに出やすい古文の単元はほかにもたくさんある。

岡本先生が現代語訳とポイントを解説してくれているので、テスト勉強に役立てよう。


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文・監修/岡本梨奈 イラスト/梶浦ゆみこ   構成/寺崎彩乃(本誌)