「金の国 水の国」の渡邉こと乃監督に聞く!アニメ監督の仕事

メガヒットといえるアニメが毎年のように誕生し、映画の興行収入ランキングの上位をアニメ映画が席巻していることも珍しくない。
 
アニメにかかわる仕事に就きたい、アニメを作りたいと漠然と考えている高校生も多いのでは?
 
今回は1月27日(金)公開映画『金の国 水の国』の渡邉こと乃監督にアニメ映画の監督というお仕事や、高校時代からどのように進路を選んで現在に至ったかなどのお話を聞いてきたよ。

(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会

アニメ業界を目指す人だけじゃなく、「将来やりたい仕事がまだみつかっていない」「好きなことはあるけどこれをどうやって進路選びに繋げたらいい?」という人も、ぜひチェックしてみて!

渡邉こと乃監督



1983年生まれ。マッドハウス所属。
「BTOOOM!」(2012)にて初監督。キャラクター間の心理戦とアクションをかけ合わせた演出で海外から高い評価を得た。絵コンテ・演出として、浅香守生監督作品「ちはやふる」(2011)、「ちはやふる 2」(2013)、「俺物語!!」(2015)、「ちはやふる 3」(2019-20)、いしづかあつこ監督作品「ノーゲーム・ノーライフ」(2014)、「ハナヤマタ」(2014)、「プリンスオブストライド オルタナティブ」(2016)、『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』(2017)に参加。2023年1月27日公開の映画『金の国 水の国』では監督/絵コンテ/演出を務める。

アニメ作品の監督はみんなに着地点を伝える仕事

Q.そもそもアニメ作品の監督はどんなお仕事ですか?

原作があるアニメは総指揮者、責任者として作品全体を統括します。オリジナルアニメであればシナリオ原案などの作品の根本的なところからかかわっていくことが多いです。

アニメの現場には監督のほかに、お金周りやスケジュールを管理するプロデューサー、キャラクターの絵を統括する総作画監督、背景の絵作りをまとめる美術監督、音楽については音響監督など、さまざまな役割があります。

そういった人たちを総まとめして方向性の着地点を決めるのが監督の仕事です。
 
みんなに「こっちだよ!」と呼びかけるイメージです。
 
アニメの監督にはクリエイターとしての能力のほかにコミュニケーション能力が求められるのかなと思います。

いろいろな形の仕事のやり方があるので、いちがいには言えませんが、私はどちらかというとコミュニケーション能力を発揮して、みんなと仕事をしていくタイプかもしれませんね。


(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会

『金の国 水の国』で初めてのアニメ映画の監督に

荘厳な世界感と続く多幸感 『金の国 水の国』を映像化する大変さ

Q.『金の国 水の国』の制作にあたってこだわったことはなんですか?

 原作がある作品をアニメ化するときは漫画を読んだときの印象をそのまま映像に落とし込むように心がけています。

漫画の絵を映像にできるものもあればそうでないものもあります。映像表現と漫画の表現は異なりますので、漫画の文法を映像の文法に移し替えなければなりません。

『金の国 水の国』では、まったく異なる文化圏の国が出てきます。金の国はイスラム建築のような様式の建物が多く、美術さんに頑張ってもらいました。

Q.映画ならではの苦労や大変だったことはありますか?

漫画は何回でも読めますし、わからなければ読み返します。細かい伏線に後から気づくことってありますよね。

ですが映画は1回で理解してもらう必要があります。『金の国 水の国』でも原作の魅力をひきだしながらかみ砕く調整に苦労しました。
 

この作品の特徴は多幸感だと思っています。

読後の多幸感の持続力がすごかった。だからそれを映像でも感じられるように作り込んでいきました。

『金の国 水の国』を鑑賞するときは、2つの国の湿度感や建物の違いも楽しんでいただけたらと思います!


(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会

青春のすべてを絵に捧げる

アニメと漫画が生活の真ん中にいた子ども時代

Q.現在はアニメ作品の監督をされていますが、昔からアニメがお好きだったのですか?

ひとことでいうと子ども時代はアニメと漫画が生活の中心でした。

小さなころから『YAWARA!』『らんま1/2』、『セーラームーン』に親しみ、中学生のころに『新世紀ヱヴァンゲリヲン』と出会いました。

兄姉が集めていた『幽☆遊☆白書』や『スラムダンク』も家にあって、漫画に関しては恵まれていたと思いますし、とにかくいろいろと読みましたね。
 
アニメに関してもけっこう見ましたね。

ただ、私が生まれ育った岐阜県の一部エリアではテレ東系が写らないんです。

気になる作品が見れなくて、悔しい思いをしたのを覚えています(笑)。

(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会

ノストラダムスの予言に背中を押されて好きなことに全力投球

Q.美大卒のご経歴をおもちですが、高校時代から絵の勉強などはしていたのですか?

 中学時代も絵を描いていましたが、私が高校、大学と本格的に絵を学ぼうと思ったきっかけは、中学1年のころに読んだ『ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド』という安野モヨコさんの漫画です。
 
漫画の中で主人公が「あと3年でノストラダムスの大予言(※1999年7の月に人類が滅亡する、という予言)の年になる」「思いついたらすぐ実行!」という趣旨のことを言っているんです。
 
そのとおりだと思いました。

「好きなことをやらなきゃすぐに死んじゃうかもしれない」と。

それで高校受験では良い美術の先生がいるという高校を選び、在学中は美大を目指してデッサン教室に通いました。

とはいえ私が通えるエリアには美大用の予備校はなかったので、生涯学習のおじいちゃんやおばあちゃん向けの教室です。

それでも高校3年間、青春は全部絵に捧げました。
 
結果的にノストラダムスの恐怖の大王は来ませんでしたが、私にとって人生でもしっかりと絵に向き合える大事な時間になりましたね。
 
 
もちろん高校時代もアニメはいろいろと見ていました。

あのときは個人的に大変なことがあった暗黒時代だったのですが、そのとき、私を救ってくれたのはNHKの衛星第二放送で放映されていた『カードキャプターさくら』でした。

さくらちゃんの格好良さは今でも印象に残っています。

アニメによって鬱屈とした気持ちを昇華させてもらったと言えるかもしれません。

(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会

大学は美術系、芸術系に進学すると決めていて、絵を描きたいと思っていました。

ですが高校の先生も周囲の人も「油絵は安定するまでは誰かに養ってもらう必要がある」と言われて。
 
姉にも相談してみたら「建築系の専門学校に行ったところ無給の下積み時代が長く、生活が成り立たずにデザイン系にシフトした」(※当時の建築系)という経験から「食べていける専攻を選んだほうがよい」とアドバイスしてくれました。
 
それでデザイン系なら絵を描くこともできるし、卒業後に仕事もあるから生きていけるのではと考えてデザイン科を目指すことにしました。
 
大学受験は、現役時代は志望校に合格できなくて浪人を選んだんですけど、その後無事に合格を勝ち取れました。


(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会

アニメが向いているんじゃない?と言われ、改めてアニメの道へ

Q.どんな大学生活をおくっていましたか?

デザインの勉強をする傍ら、アニメーションも作っていた大学生活でした。

当時はMacの性能が上がっていて、個人でも自主制作でアニメを作れるようになった時代でぽつぽつと作る人が現れていたころ。

『すずめの戸締り』の新海誠監督が処女作を作られたのもこれくらいのタイミングだったと思います。
 
私もアニメーションを自分で作れることに興味をもち、制作課題のテーマとは微妙にずれているにもかかわらず、アニメーションで作って提出したこともありました。

ですが、このときは好きで作っている感じで、まだアニメーションを仕事にするとは考えていませんでしたね。

Q.アニメ業界に就職することを選んだ理由をおしえてください

 就職は最初メディアデザイン系の会社に行こうとしていたんです。

ただ、美大の学生は就活のときにこれまで作った作品や課題をまとめたポートフォリオを持参するのですが、それを面接で提出するたびに「アニメ業界が向いてるんじゃない?」と言われまして。
 
いろいろな会社の役職がある方に何回も言われたので、「もしかしてそっちの道もあり?」と思って改めて昔から好きだったアニメ業界に目を向けてみたのが、この仕事をすることになった一番の理由です。
 
私は大学時代に酷い腱鞘炎になってしまったので、絵を描くアニメーターではなく、演出の仕事を目指すことに。

そして今の会社でさまざまな作品に携わらせてもらいキャリアを積んで現在に至る、という感じです。

(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会

Q.最後に、高校生へアドバイスをお願いいたします。

私は鬱屈した思春期をおくっていて、「22歳でものにならなかったらあきらめよう」などと思いながらも、形を変えつつ好きなことにかかわり続けてきました。

そしてひょんなことからアニメーションを仕事にできています。

少し回り道しても、大丈夫。

皆さんも自分の「好き」に耳を傾けてみてください!

映画『金の国 水の国』

(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会

1.27 ROADSHOW
 
「このマンガがすごい!」(オンナ編)史上初2作連続1位の作家原作!“最高純度のやさしさ”に2023年初泣き!不器用な2人の<やさしいうそ>が国の未来を変える―
 
原作:岩本ナオ『金の国 水の国』(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)             
キャスト:賀来賢人(ナランバヤル役)、浜辺美波(サーラ役)ほか
監督:渡邉こと乃 
脚本:坪田 文 
音楽:Evan Call
配給 :ワーナー・ブラザース映画

(c)岩本ナオ/小学館 (c)2023『金の国 水の国』製作委員会 
 
公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/kinnokuni-mizunokuni-movie/