先輩&専門家がアドバイス 文転・理転の決断メソッド

進路を考えるにつれ、「文理選択を間違えたかも?」と、モヤモヤを感じ始めている人がチラホラいるらしい!苦手科目、興味のある学問、将来の職業、受験科目…考える要素が多くて、いつ、どう決断すればいい!?と悩んでいる人も多いはず。

高校教員歴37年の堀浩司先生にその悩みをぶつけたところ、実は3つのケースのときのみ、文転・理転すべきということが判明!具体的に解説してもらった。さらに実際に文転・理転したらどうなるのか、実際に文転・理転をした先輩たちのリアルボイスも掲載。文転・理転のモヤモヤは、ここでスッキリさせよう!
今回教えてくれたのは

堀浩司先生
滋賀県の公立高校(守山高校、草津東高校など)で教員歴37年。3年間の体系的な進路指導を推進している。現在は、龍谷大学高大連携推進室フェロー、旺文社『蛍雪時代』アドバイザー、さんぽう講師としても活躍中。

悩む人は多い?いつまでに決断する?文転・理転のリアル

「文転(理転)したい!」って思うのは多くの高校生が通る一瞬の気の迷い?苦手科目から逃げてるだけ?もしも文転(理転)するなら、いつまでに決めたらいいんだろう?

先輩アンケートと、多くの高校生を指導してきた堀先生の実感から、理転・文転のリアルな実態を探っていくよ。

5人に1人は文転or理転しようか悩んでいた!その約半数が実際に決断

スタディサプリ進路が専門学校生や大学生などの先輩1520人に行ったアンケート調査によると、
●文転しようと悩んだことがある…約12%
●理転しようと悩んだことがある…約9%
実に5人に1人は文転・理転をしようか悩んだことがあった

さらに、文転・理転をしようか悩んでいた人のうち、
●実際に文転をした…約28%
●実際に理転をした…約23%
合わせて約半数の人が実際に文転・理転をしている。

文転・理転のどちらも大変!特に理転はいばらの道

苦手科目や得意科目を理由に文転・理転を考える人が多くいますが、おすすめできません。「食わず嫌い」「何となく避けている」になっていませんか?例えば、毎日3時間ずつ1カ月間、数学と格闘したけれど、やっぱりテストで点数が取れないのであれば、数学を苦手科目と認定できますが、そうでなければ教科適性の判断を安易にしないこと!文転・理転を考える前に、もう一度、やるだけのことをやってから決断するべきです。

難易度でいうと、文転・理転のどちらも難しいけれど、国語や社会などの文系科目は暗記のウエートが高いので、高校の補習・補講を受けたり、塾に通ったり、良質な参考書があれば、コツコツ自分で学習することが可能です。

しかし、数学、物理、化学などの理系科目は、自分で勉強するには限界があります。例えば、高2の数学Ⅱに関していうと、文系クラスの授業は教科書の例題や類題レベルですが、理系クラスだと大学入試に向けた応用レベルや別解まで学んでいます。文系クラスで理系科目の成績が良かったとしても、理転して理系クラスのレベルに追いつくのは至難の業。まして、高3の数学Ⅲは、かなりの努力が必要です。

理転のほうがデッドラインは早い。でも、どちらも「なる早」が◎

文転・理転はいつまでに決断すればいいのか。先輩のアンケートによると、文転を決断した時期は高2の1月~3月が約23%で最も多くなっている。理転を決断した時期は高2の7月~9月が約29%で最も多い。時期にバラつきはあるものの、理転のほうが文転よりも早く決断をしている。
高校教師の立場からすると、文転・理転を決断するタイミングとしては、できれば高2の11月までに決断してほしいところ。高3で履修する選択科目は高2の11月に決定する高校が多いからです。高2の3月までは高3での文系クラス・理系クラスを変更できるとは思いますが、早いに越したことはありません。

文転・理転すべき3つのケースはこれ!

文転・理転は慎重に決断したほうがいいけれど、次の3つのケースに該当する人は、文転・理転の検討をしてみるべき。
学びたい学問が「ガラッ」と変わった
目指す資格が「ビシッ」と決まった
このままじゃ進級・卒業が「ヤバッ」
実際に文転・理転をした先輩のリアル体験談も参考にして考えてみよう。

学びたい学問が「ガラッ」と変わった

先輩のアンケートでは、文転・理転しようと悩んだ人のうち、学びたい学部や学科が文系に変わったから文転を考えた人は約31%、学びたい学部や学科が理系に変わったから理転を考えた人は約48%。多くの人が学びたい学問が変わったことで文転・理転について悩んでいた。
学びたいことが変わっても、今の文系あるいは理系のままの入試科目で勝負できそうなら、文転・理転はしないほうがいいのですが、どう考えても選択ミスだったことが明確にわかった場合は、文転・理転を決断したほうがよいでしょう。

例えば、ものづくりをイメージして、ぼんやり工学部志望で理系を選択したものの、地元の商店街の活性化に興味が出てきた。そのため、社会学部か政策学部を志して文系に転じる、というようなケース。

理系のほうが就職に有利、くらいのレベルで選んだけれど、「もの」相手の研究ではなく、「人」相手の研究と実践が本当にやりたいことだったと、自分の目標が見えてきた場合は、文転を検討してもいいでしょう。ただし、理系の学部・学科でもできることがあるかもしれません。経済学部なら理系からでも進学できます。本当に文系(理系)でないとダメなのか、しっかり考えたうえで、どうしても難しいのであれば、文転・理転をすべきです。

他に注意してほしい分野としては、
環境系…理系と思われがちですが、文系で学ぶこともできます。生態的視点、技術的視点、法や政策の視点、倫理・哲学的視点、国際的視点など、自分の一番敏感なアンテナと学問とのかかわりから、向いている学部を考えてみるとよいでしょう。

融合系(総合科学部、人間科学部、教養学部、共創学部、都市科学部など)やデータサイエンス系…文系・理系のどちらからも受験可能なことが多いです。

経済学部や心理学部…理系から進学も可能。入学後に得意の数学が生かせます。

これらを大学のHPや資料、担任や進路指導の先生、高校のOBOGなどに相談して情報を集め、決断してください。
先輩体験談❶ 文転して法学部に入学した、S・Iさん(大学3年)の場合 もともと医療系の進路を考えて理系を選びました。しかし、勉強を進めるうちに、「自分が本当にやりたいことは、人の体を治すことより、人の暮らしや社会を動かすしくみを考えることかもしれない」と感じるようになったのです。

高校の探究活動で、地域の課題を調べる機会があり、政策や法律の面からアプローチすることに興味をもちました。高2の秋ごろから「法学部で社会のしくみを学びたい」と文転を考え始めて、先生や大学の文系学部に進学した先輩の話を聞き、高2の冬休みに文転を決断。

世界史など、文系科目を一からやり直すことは大変でしたが、現役で法学部・法学科に合格することができました。

目指す資格がビシッと決まった

先輩のアンケートでは、文系の学部や学科がベターな資格を取りたくなって文転を考えた人は約2%、理系の学部や学科がベターな資格を取りたくなって理転を考えた人は約18%。資格が理由の文転は少ないものの、理系の資格の場合は、理転しないと資格取得が目指せないケースがある。
資格試験のなかには、指定の学部・学科を修了しないと受験資格が得られない場合があります。特に理系学部・学科では、理系科目の勉強が必要不可欠だったり、そもそも理系科目を履修していないと受験できなかったり、文系のままでは目指すことが難しい資格が少なくありません。

例えば、何となく福祉系を考えて文系を選択したが、「管理栄養士」を目指したいと思うようになった。そのためには、管理栄養士の国家資格を取ることが必須!化学の履修が受験資格になっている大学もあり、理系が望ましい、というようなケース。ただし、理系(文系)の資格を取得するための学部・学科でも、入試科目の選択次第で、文系(理系)から受験可能なケースがあるので、しっかりとリサーチが必要。

他には、病院でリハビリの仕事をするための国家資格を取得したい場合、「理学療法士」は物理が必須なので理系でないと無理ですが、「作業療法士」や「臨床検査技師」なら文系から目指すことも可能です。目標とする資格が現在の文理選択から目指せないかしっかり調べて、先生や先輩にも相談してから決断しましょう。
先輩体験談❷ 文転して法学部に入学したマノカ先輩(大学3年)の場合 文理選択をした時は医学部を視野に入れて、理系を選択しました。理系科目は苦手ではなく、成績も良いほうでしたが、自分の性格などをふまえると医学部は違うな、と感じたのです。

本当にやりたいことは何か、自分なりに人生計画を考えてみたところ、理系学部は将来像となかなか結びつかず、弁護士を志そうと決心。担任の先生に相談して、高2の夏休みに文転を伝えました。

日本史や古文など、高2の理系クラスの授業では学べず、独学でしたが必死に勉強して、現役で法学部法曹コースに合格できました。

このままじゃ進級・卒業がヤバッ

先輩のアンケートでは、理系科目が伸び悩んで文転を考えた人は約49%、文系科目が伸び悩んで理転を考えた人は約18%。理系を選択した人のほうが、成績を理由に悩んでいたようだ。
文系科目は暗記のウエートが高いので、必死に勉強すれば挽回することも可能です。しかし、数学や物理は努力だけではどうにもならないこともあります。理系科目には、覚えただけでは点数につながらない、解き方が理解できないと無理、という側面があり、高2で赤点だらけで進級が難しいようなら文転したほうがよいかもしれません。高3の数学Ⅲはさらに難易度が増します。

自分の努力不足で成績が悪いのか、教科との相性が悪くて時間をかけて勉強しているのにできないのか、教科の先生に相談してみるといいでしょう。
先輩体験談❸ 文転して経済学部に入学したユウリ先輩(大学2年)の場合
中学までは数学の成績が良くて、高校でもその調子でいけると思っていました。文理選択はとても悩みましたが、ひとまず理系を選択。しかし、数学でいきづまり、このまま理系クラスにいても成績が伸びず、思ったような大学に合格できないと考えるようになりました。

国公立大学の受験に向けて、文系科目の勉強をしていたらそれらの成績が伸びてきたので、高2の夏の模擬試験の結果を見て、文転を決断しました。

経済学部経済学科を受験したため、理系で学んだデータやグラフを読み取る力が社会の資料問題に生かされました。理系クラスで成績が伸びないままだったら、今通っているレベルの大学には合格できなかったと思います。

どうやら決断すべきみたい。実際に文転、理転したらどうなるの?


調べた結果、自分は「文転(理転)をすべき」という結論に達した。でも、それを実行に移したらいったいどんな未来が待っている?メリット・デメリットの両面で未来を予想してみよう。

文転したらこうなる

文転すると、まず国語や社会の学習の遅れを取り戻さなければなりません。例えば古典。高2の文系クラスでは3単位で学んでいたが、理系クラスが2単位だった場合、理系では扱っていなかった教材があったり、漢文がおろそかになっていたりなど、単位数が少ない分のハンディを自分で挽回する必要があります。

メリットとしては、文系であれば数学を得意科目として受験できることもあります。私立大学文系の入試科目は、英語・国語・選択科目の3科目。多くの人が選択科目は地歴公民を選択しますが、数学が得意なら数学の選択が可能です。地歴公民より文系数学のほうが得点しやすいことが多いです。

理転したらこうなる

理転すると、まず数学や理科の学習の遅れを取り戻さなければなりません。特に数学の遅れは致命的!授業を進めるスピードだけでなく、扱う問題のレベルや定期テストの出題レベルも、文系と理系ではかなりの差があります。この差を埋めるのは並大抵ではなく、かなり苦労するし、頑張っても追いつけない可能性があります。

メリットとしては、多くの理系の人が比較的苦手としている国語を武器にできます。

結論として文転・理転しない人はどうする?

文転・理転をしない選択をした人は、今いる文系または理系から、興味関心のある学部系統に、合理的にアプローチできる方法を調べよう
まずはかなえたい進路に進むには何学部がよいのか、リストアップしましょう。学びたい学問や取りたい資格によっては、大学ではなく専門学校という選択肢もあるので、視野を広げて探してみましょう。さらに目ぼしい学校(志望校群)の入試科目を調べて、自分はどのように受験勉強をしていけばいいのかイメージしておくと、3年生になってからスムーズに受験生をスタートできます。あとは頑張って勉強する!それのみですね。

文転・理転は、しっかりリサーチして早めに決断を!

モヤっとしているなら、本当に理転・文転しか道がないのか、しっかり調べて考えて、いろいろな人に相談しよう。先生、先輩、目指す職業に実際に就いている人…。ツテを使ってどんどん情報収集を!そして文転・理転の決断は早いほうが吉。すると決まったら早めに担任の先生や保護者に相談してね。

※記事内のデータは2025年10月に専門学校生と大学生、計1520名に実施した調査(調査委託先はアイブリッジ)によるものです。

取材・文/やまだみちこ イラスト/山川春奈 監修/堀浩司 構成/前田こころ