物理で解明 浅田真央の高速スピンのナゾ
明日から始まるフィギュアスケートのグランプリファイナル。2008年以来の金メダルを目指す浅田真央さんはじめ、日本勢の活躍を楽しみにしている人も多いのではないだろうか。
フィギュアスケートといえばダイナミックなジャンプに注目が集まるが、コマのようにクルクル回るスピンも見どころのひとつ。ゆっくり回転していたかと思うと急に回転速度が速まる演技には、思わずうわ~と声をあげてしまいそうだ。それにしても、なぜあんなふうに高速回転ができるのだろうか。
北海道の市立函館高等学校で物理を担当し、『おもしろ実験と科学史で知る物理のキホン 力・熱・光・電気・流体がスラスラわかる 』(サイエンス・アイ新書)などの著者でもある渡辺儀輝先生に質問してみると、「回転の半径がカギ」という。
「外から力がはたらかない場合、『回転している物体の質量×半径×速さ=角運動量』は常に一定であるという、『角運動量保存の法則』で説明できるんですよ。質量が同じ場合は、回転半径と速さは反比例します。従って、手を広げてゆっくり回り始めても、手を縮めて体に寄せたとたん、半径が小さくなるので速度が上がるのです」(渡辺先生)
角運動量保存の法則なんて物理の世界のムズカシイ話かと思ったら、身のまわりのいろんなところで見られるようだ。
「すりばちのような『ろうと』(写真のような形)にビー玉を入れると、くるくる回転しながら落ちていきますが、半径が短い下の方へいくにつれてだんだんと速くなる様子が観察できますね。ほかにも、ブラックホールに光が回転しながら吸い寄せられる様子にも、この角運動量保存の法則は息づいているのです」(渡辺先生)
この不思議さ、誰でもカンタンに体感できるという。まず、足が固定される回転イスに両手両足を広げて座って、誰かにイスを回転してもらおう。ゆっくり回転し始めたところで、手足をきゅっと縮めて体に引き寄せて小さくなると、急に回転スピードが上がって驚くだろう。ただし、スピードを出しすぎたり、転倒したりしないよう注意してやってみてほしい。
角運動量保存の法則に興味をもった人は、もう一歩、知識を深めておこう。
「地球のような惑星は、太陽の周りをまわっていますが、その様子を研究したヨハネス・ケプラーは、惑星の運航に関する3つの法則を発見しました。その中の2番めの法則の中で、回転運動している時、太陽に近ければ地球は速く動き、遠くなれば遅く動く、ということを示したのです。これが今では『角運動量保存の法則』と呼ばれているんですよ」(渡辺先生)
明日からのグランプリファイナルでは、ぜひ高速スピンをじっくりチェックしてみよう。いつもとは一味違った楽しみ方ができそうだ。
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