英語で理科を学ぶ“オール英語”の授業?(京都・嵯峨野高校)
●“英語で英語を学ぶ”を先行く「サイエンス英語」
学習指導要領の改訂で、高校では2013年度から英語で英語を学ぶ「オールイングリッシュ」の授業がスタートしている。しかし、中にはさらに先を行く英語教育を実践している高校もある。
それが、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の京都府立嵯峨野高校が2012年度から取り組んでいる「サイエンス英語」だ。
理科の実験を行う授業だが、先生による説明も、配付するワークシートも、授業中の質問や発表も原則すべて英語。
単発でのこのような授業ならほかにも例があるが、嵯峨野高校では通年の授業として、自然科学系統の1、2年生全員を対象に実施。教室では、英語の先生1名、ネイティブのALT1名、理科のティーチングアシスタント(博士号保持者)1名で指導にあたる。
●今や科学的研究開発は国境を越えたチームで行う時代
この授業のねらいについて、担当の伊藤文昭先生は次のように解説する。
「国際的に活躍できる科学者の卵を育てることがこの授業の目的です。iPS細胞の山中教授の例を出すまでもなく、今や先進的な科学的研究開発は国境を越えたチームで行う時代。また、一流の研究者になるには、大学の学部生時代から、国際的な人的ネットワークに自ら進んで入る態度や能力が必要です。しかし、大学に入ってからその能力を一から磨いていたらチャンスを逃してしまいます。だから高校でこそ必要な取り組みなんです」
なるほど。しかし、英語で理科を学ぶと聞くと、経験がない高校生は「授業についていけるんだろうか…」「黙って聞いてるだけになりそう…」と不安を感じるはず。英語が得意なエリート高校生だからこそ対応できる授業ということはないのだろうか?
●理科×英語で語学の学習効果が高まる!
「語学というのは、身近で興味がもてるテーマを設定したほうが、話そうという意欲が高まるものです。理科の実験は格好の素材。実験をしながら、生徒の中には具体的な疑問や伝えたい内容が生まれますから」(伊藤先生)
科学用語など授業で出てくるキーワードに関してはワークシートを配付し、講義の中でも頻出するので授業の早い段階でインプットされる。また、授業中の会話に関しては細かな文法の誤りは指摘せず、「通じればOK」というスタンスで指導。確かにそれなら特別英語が得意でなくてもなんとかなりそうだ。
実際、生徒の間でも、授業中は自然と英語で話すことが定着。「サイエンス英語」では、シンガポールの高校と合同授業を実施しているが、積極的にシンガポールの高校生とコミュニケーションしようという姿勢も見られるという。
●英語ができる理科・数学の先生を目指そう
嵯峨野高校の先進的な取り組みは府内のほかのSSHからも注目されている。グローバル人材の育成が重要なテーマになっているなか、いずれはSSHはもちろん、全国のほかの高校でも同様の授業が導入されていく可能性は大きいだろう。そんな流れをにらんで伊藤先生からこんなアドバイスが。
「将来、理科や数学の先生を目指している高校生はぜひ英語もしっかり勉強してほしいですね。今、私たちは英語の教員と理科の教員が協力して授業を進めていますが、遠くない将来、英語ができる理科教員、数学教員へのニーズはきっと高くなるはずですよ」