世界を変えるためにはバカになれ?東大の「バカゼミ」に迫った
「10階建ての屋上から生卵を落としても、割れない装置を作りなさい」
使っていいのは、レポート用紙サイズのボール紙と接着剤だけ。
さて、みんなだったらどう作る?
■「手を使い,いろんな工夫をして遊んだ経験」が成功の秘訣
こんなお題を出すのは、東京大学の生田幸士教授。ロボットといえば「工場などで使う産業用ロボット」が主流の1980年代に「医療現場で役立つ医用ロボット」を開発し,最近では細胞サイズの10ミクロンで,光で動くナノロボットなど,数々の「世界初」の研究に取り組んできた研究者だ。
生田教授は東大で、この生卵が割れない装置作りを競う「たまご落としコンテスト」を定期的に開催している。
参加する学生は卵を包み込むようにクッションを作ったり、パラシュートのような仕掛けにしたり…さまざまな工夫をするが、成功する人はわずか3%以下。しかし、同じコンテストを高校生対象に行うと、多くの場合は東大生を大きく上回る20%以上が成功するそうだ。
「知識だけに頼ったり人の真似をするのではなく、自分なりに深くイマジネーションして工夫することが大切。それには机に向かって勉強した経験より、手を使って遊んだ経験が生きるのです」(生田教授※以下同)
■バカを学ぶ!?東大の「バカゼミ」
また、生田教授は授業やゼミ合宿の中で、通称「バカゼミ」を実施している。受講する学生は、自分の研究とはまったく関係のない、思いっきりバカバカしいテーマにまじめに取り組み、プレゼンテーションも行う。例えば、これまでにこんな研究をした学生がいた。
○「甘いものばかり食べているとバカになる」という噂の検証
ケーキやクッキーなどの甘いものだけで1日に必要な全栄養分が摂れるよう、成分表をもとにコンピュータを使って毎日の献立を設計。2日間自分でそのとおり食べ続け、1日数回の計算問題で頭の回転状況をチェック。だんだん計算の成績が落ちてきたことから、「甘いものばかり食べているとバカになる」という説は正しいという結論を出した。
○おしりに埋め込むマイクロおならフィルターの提案
自分のおならのにおいに悩んでいる学生が、お尻の穴に装着する「おならの匂い分解マイクロマシン」を考案した。しかし、トイレで用をたす時は取り外さなければならず、そのあと同じものをもう一度装着するのか、それとも使い捨てタイプにするのか…議論をよんだ。
「よくこんなヘンなことを思いつくなあ」とあきれるかもしれないが、その「ヘン」こそがポイントなのだ。
「こんなおバカな研究は、誰もやっていません。でも、それこそが『世界初』につながる最先端研究になるのです。楽しみながら、誰もやっていないことを研究する醍醐味を味わってほしいと思っています」
■「人と違う」は社会を変えるきっかけになる
生田教授がこのようなコンテストや講座を行うのは、「人をびっくりさせるような独創的な発想をして社会を変革する人材を育てたいから」。この独創性は、東大生だけに必要なものではなさそうだ。
「成熟した現代社会では、今ある商品やサービスの細かい改善・改良ではなく、これまでにない新しい『コンセプト』や『ジャンル』を作ることが求められるのです」
かつて生田教授が最初に医用ロボットに取り組んだ時、その奇抜さに国内の学会の反応は冷たかった。しかし、海外の反応は逆で、「誰もやっていない」という点が評価され、カリフォルニア大学に研究員として招かれた。その経験から生田教授は、高校生にこうエールを送る。
「『ブームを追うのは好きじゃない』『自分は人と考え方が違うらしい』『つい人と違うことをしたくなる』という感覚は、ぜひ大切にしてください。そして、もし日本で認められなくても、海外に出てみてドンドン力を伸ばしてほしいですね」
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■生田幸士先生のプロフィール
医用マイクロマシン、医用ロボットの世界的先駆者。東京大学 先端科学技術研究センター教授,工学部計数工学科教授を兼任。大阪大学で金属工学科と生物工学科を卒業,東京工業大学で世界初のロボット内視鏡の研究で工学博士。しかし日本で研究職がなくカリフォルニア大学研究員となる。のちに東京大学専任講師、九州工業大学助教授、名古屋大学教授を経て、2010年より現職。2010年紫綬褒章を受章。NHK『課外授業ようこそ先輩』、『爆笑問題のニッポンの教養』,日本テレビ『世界一受けたい授業』などテレビ出演も多数。
※生田教授のメッセージをもっと知りたい人は、『世界初をつくり続ける東大教授の「自分の壁」を超える授業』(ダイヤモンド社)がオススメ。
研究室ホームページには医用マイクロマシンやロボットの研究紹介が満載。